船の到着(2)
その夜、ムラコフは船室でラウロ司祭と向かい合っていた。
島には乗組員全員が泊まれるほどの場所がないので、彼らは停泊中の船内で夜を過ごしていた。ムラコフには東の小屋があるのでそうする必要はなかったが、その夜は「話がある」ということで、ラウロ司祭に呼ばれていた。
まずムラコフは、この島に辿り着いてからの出来事をかいつまんでラウロ司祭に報告した。一方ラウロ司祭も、これまでの経緯と乗組員は全員無事であることをムラコフに伝え、彼らは再会を喜び合った。
「して、これからだが――」
ラウロ司祭は、真剣な表情で言葉を発した。
「残念ながら、すぐには出航できない。君も昼間聞いていたと思うが、我々のサン・サルバドラ号は、補修が必要な状態にある」
「修理には、どれくらいの期間がかかるのでしょうか?」
ムラコフは、極力感情を表に出さないように尋ねた。
それはすなわち、彼がこの島で過ごせる残りの期間でもある。
「そうだな、一週間といったところか」
「そう――ですか」
仕方がない。
船がこの島に着いた瞬間から、覚悟していたことだ。
「しかし、問題はその後だ」
ムラコフの浮かない表情については特に気にせず、ラウロ司祭は話を続けた。
「昼間私が、サン・サルバドラ号のことを、『無事に目的地に到達するどころか、帰港すら危ぶまれるような状態』と言ったのを聞いていたね? あれは決して、酋長に援助を求めるための出まかせではない。安全と人命を優先して、修理が済んだ後は、速やかに帰国の途に就こうと思う」
「それでは、このまま手ぶらで帰るのですか?」
ラウロ司祭の意外な発言を聞いたムラコフは、思わず言葉を選ばずに聞き返してしまった。
「いえ、その。手ぶらと申しますか、我々はまだ目的を達成していないのに――」
「いや、いいさ。君の言いたいことはわかるよ」
ムラコフは慌てて自分の発言を訂正しようとしたが、ラウロ司祭は穏やかな口調でそれを遮った。
「それなら、何故このまま帰るのですか?」
船乗り出身のラウロ司祭は、航海にかけては実績がある。
今回のような大役を任された以上は、多少の犠牲を払ってでも、必ず使命を果たそうとするはずだ。そのラウロ司祭が、自らの功績よりも安全と人命を優先するというのだから、これは意外と言わざるを得ない。
「手ぶらではないさ。この島は、地図に載っていないだろう?」
「?」
ムラコフはラウロ司祭の意図がわかりかねて視線で尋ねたが、ラウロ司祭はその質問には答えなかった。
「今日はもう遅い。詳しいことは、また明日の夜にでも話そう」
それ以上何を聞いても、今はラウロ司祭の考えを聞き出せそうになかったので、ムラコフは言われるままに船を後にした。
東の小屋に帰るために浜辺の道を歩きながら、ムラコフは穏やかな夜の海を眺めた。
規則正しい波の音に静かに耳を傾けていると、今日一日の出来事が、とりとめもなく頭の中を駆け巡る。
今朝あの水平線に小さな黒い粒を発見した時は、まさかこんなことになるとは夢にも思わなかった。
しかし、すべてが事実なのだ。
船がこの島に到着して、ラウロ司祭と再会して、そして――。
「船の修理が終わったら、帰れる」
そうつぶやいてみても、やはり急には信じることができず、ムラコフはただ戸惑うことしかできなかった。
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