第118話 最終決戦 その1


 大きく広がり、周囲を警戒しながらあの島へと向かっていって……そうしてあの島を視界に捉えた俺達は、すぐさまに戦闘態勢を取る。


 木々も何もかもを食べ尽くし、何も無くなった島の上に鎮座して、魚を食べようとしているのか、海面にその八つ首を突っ込んでいる化け物の姿がそこにあったからだ。


 何処かに移動されたなら厄介だったが、そこにいてくれたか、悠長にしてくれていたかと、化け物に感謝して……感謝しながら俺達の飛行艇だけが速度を上げて、突出する。


 無反動砲の設置位置の関係上、俺達の飛行艇は正面の地面に対して攻撃することは出来ない。

 機体を横に向けて傾けてようやくそれで攻撃可能になる訳で……正面対地攻撃が可能なクレオと攻撃のタイミングを合わせる為の措置ってやつだ。


 そうして射程距離に入ったなら進路を変えて、横っ腹を化け物の方に向けてやって……撃ちやすいだろう角度へと機体を傾けて、クレオの準備を待つ。


 するとクレオがすぐそばまでやってきてくれて……そうして狙いを定めたアリスとクレオが、光信号も何も無しに見事にタイミングを合わせて、改良型無反動砲弾を、島の上に鎮座する化け物へと叩き込む。


 直後大きな爆発が巻き起こり、その爆発から魔力で編み出された黒色の鎖や、紫色の縄、黄土色の茨などが姿を見せて、化け物の体を巻き上げていく。


「あれが減衰魔法か!」


 横目にその様子を見やった俺は、そんなことを言いながら飛行艇の進路を変えて、化け物を正面に睨み、トリガーへと指をかける。


 いつまで減衰魔法が効いているかは分からない、どのくらいの効果を上げているかも分からない。

 とにかく攻撃してみるしか無い訳で、やるぞっと指に力を込めていると……俺達を追い抜く形で速度を上げたアンドレアとジーノが機関銃を唸らせ、弾丸を化け物に叩き込む。


 すると化け物の鱗も甲殻もあっさりと砕け散り、辺りに血しぶきが舞い飛び……首を海面に突っ込んでいた化け物はそれを跳ね上げさせて大きな咆哮……悲鳴を上げる。


<ギュォォォォォォ!?>


 鉄と鉄を激しくぶつけ合わせた音と言うべきか、大きな革袋の中にいくつもの鉄の塊を入れて振り回したような音と言うべきか。

 耳を押さえつけたくなるほどに不快なその悲鳴を聞きながら俺もまたトリガーを押し込み、化け物に弾丸をお見舞いする。


<ギュゥオォォォォォォォォォォ!?>


 クレオもそれに続き、四機からの一斉射を受けて化け物は痛みに悶えることしかできない。

 八つ首をデタラメに振り回し、攻撃をすることも忘れて振り回し……減衰魔法が効いているのか、なんとも鈍く重い動きを見せながら、その血と肉片を周囲にばらまく。


「っは、減衰魔法ってのはとんでもないんだな!!」


『これなら余裕で勝てそうだね!』


 ランドウが作り出した改良型の魔導砲弾。

 その威力を目の当たりにした俺達はそんな声を上げて……声を上げながら機関銃を唸らせ、次々に弾丸を叩き込んでいく。


 化け物に近づきすぎないように気をつけて、適度に距離を取り、そのために何度かの旋回をし……そうしながらトリガーを押し込み続ける。


 弾には限りがあるし、銃身をオーバーヒートでぶっ壊す訳にもいかず、本来であれば適度に機関銃を休めさせる必要があるのだが、これだけ効いてくれると……こんなにも上手く行ってくれると、弾丸を叩き込むのがただただ楽しいというか、体の奥底に潜む狩猟本能を抑える事ができず、ついついトリガーを押し込みっぱなしになってしまう。


『ウサギが何言ってのさ!』 


 心の声を口に出してしまっていたのかアリスがそんな声を上げてきて、


「うるせぇ! ウサギだって時にはその歯で獲物に襲いかかるんだぞ!」


 それに対し俺はそんな言葉を返し……そうこうする間も機関銃は唸り続ける。


 どんどんと化け物の肉が剥げて血が海を染めて、凄まじい光景をなっていく中……これ以上はやらすまいと化け物が動きを見せる。


 痛みに耐えながら首を動かし、その首を一箇所に……俺達の方に向けて、その口の中で炎をうねらせて……それを見て俺は、


「まさか八つ首全てに狙われるとは思ってもいなかったぞ!」


 と、そんな声を上げながら攻撃を中断し、高度を上げて、回避行動を取り始める。


 直後、凄まじい轟音が響き渡り、化け物の口から数え切れない程の火球が放たれて……、火球には減衰魔法が効いていないのか、凄まじい勢いと速度でもってそれらが迫ってくる中、俺は高度を上げながらのバレルロール機動を取り始める。


 エンジンの回転速度を限界まで引き上げて、細かくロールするのではなく、大きくロールして……以前から戦闘で感じていた直感に近い何かというか、微妙な空気の変化や熱の変化を感じ取っているらしい俺の全身を覆う体毛に、どう動くべきかの判断を委ねる。


 深くは考えず、無理に目で見ようとせず、毛が感じたままを受け入れて、操縦桿を動かし、ペダルを動かし。


 ミスリル製の機体なら多少の無茶は受け入れてくれると、速度を落としたり上げたり、ロール幅を大きくしたり小さくしたり。


 時にはロールを中断して無理矢理に旋回し……旋回し終えたならまたすぐにバレルロールを開始して。


 俺がそうやって空をぐねぐねと、デタラメにも見える動きで飛んでいると、そのすぐ側をいくつもの、数え切れない程の火球が通り過ぎていって……その熱量が辺り一帯に渦巻き始める。


 海の上だと言うのに、かなりの行動だというのに、空を飛んでいるというのに、それを感じさせない凄まじい熱気。


 直撃無しでこの熱量とは、直撃したらどんなことになるんだろうなと、そんな想像をした俺は……ブルリと背を震わせてから、その場から離れるべく動きを変える。


 辺り一帯が熱せられてしまったら、そこら中が熱に包まれてしまったら、体毛で感じるも何も無いだろうとのその判断は、どうやら間違っていなかったようで、熱から離れれば離れる程、風に機体を体を冷やされれば冷やされる程、体毛が鋭く火球の熱を感じ取ってくれて、感覚が鋭敏になってくる。


「いっそ飛行服や飛行帽を脱いでくるべきだったかなぁ!!」


 と、そんなことを言うと、通信機の向こうのアリスが、


『そんなことしたら、耳がぐねんぐねんにねじれちゃって、ねじ切れちゃうよ!』


 なんてことを言ってくる。


 ……まぁ、うん、確かにそうかもしれない。

 ねじ切れないまでも飛行艇が鋭い機動を振り返す度に振り回されて、ひねられて……風で冷やされてしまうのもあって、酷いことになってしまいそうだ。


 仮にもし耳がねじ切れてしまったなら、俺はもう何がなんだか分からない毛むくじゃらになってしまう訳だし、それは勘弁してもらいたいところだ。


 と、戦闘中にも関わらずそんなどうでも良いことを考えていると……


<ガァァァァァァァ!!>


 と、凄まじい悲鳴が化け物の方から響いてくる。


 何かあったのかとそちらへと視線をやると、クレオ達が頑張ってくれたのか、一本の首が弾丸に引き裂かれて、今まさにねじ切れようとしている所で……バツンッと凄まじい音がしたかと思ったら、ボチャンと海の中にそれが落ちていく。


 続いて一本、二本と、首が落ちていって……合計三本の首を落とされて、またも凄まじい悲鳴を上げた化け物は……このままでは勝てないと悟ったのか、そうして何か手を打とうとしているのか……その大きな体をぐねぐねと、気持ち悪すぎるくらいにぐねぐねと、蠢かせ始めるのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る