第63話 VSハイエナ


 アリスが機関銃を唸らせる中、高度を上げていって……ある程度までいったなら一気に反転し、ハイエナ共を正面に捉える。


 黒や茶色の塗料を塗り、悪ふざけなのか何なのか、ドクロをあしらった海賊旗のようなペイントをしたふざけた10機の飛行艇共を。


『もー! 1機しか落とせなかった!』


 そいつらを見やった直後アリスのそんな声が聞こえてきて……その言葉の通り、1機の飛行艇がエンジンから黒煙を吹き上げながら海へと落下していく。


「いきなりで1機落とせたなら十分だろ!」


 と、そう返事をした俺は、いきなり仲間を落とされ明らかな同様を見せている一団を睨み、エンジンの速度を一気に上げる。


 そうやって連中を射程距離に捕らえようとした……その時、俺と同じ事を考えていたらしいクレオが真横から連中に襲いかかり、連中の隙間を縫うようにして飛びながら弾をばらまいていく。


 銃口が向けられていない以上、攻撃をされる心配はない訳だが、それでも衝突の危険はある訳で、よくもまぁあんな真似が出来るなと感心していると……致命傷を受けた2機がコントロールを失い、海へと落下していく。


 それを受けてハイエナ共は、それぞれがバラバラの方向に機体を傾け、連携も何もなく散り散りになる形で飛び始める。


 俺としては全機でもって集中射撃されたり、連携行動をされたりしたほうが厄介だと思っていたので、その行動は全くありがたい限りなのだが……敵としては完全な悪手であり、一体何を考えているんだかと呆れてしまう。


 そんな連中の中で1機、逃げるにしても中途半端というかなんとうか、どうして良いのかも分からず速度を上げずに空を右往左往としているのがいて……俺はそれに狙いを定める。


 相手はワイバーンではなく、人が乗る飛行艇。

 

 トリガーにかけた親指が軽く震えるが……アリスが1機を落とした今、俺だけがそんなワガママを言ってはいられないと、ぐいとトリガーを押し込む。


 ワイバーンよりも小さく、ワイバーンより脆い、旧型の木造飛行艇。


 そんなものがワイバーンやドラゴンを打ち砕く機関銃二門の攻撃を受けたらどうなるのか……その答えは、目の前で起きている光景だった。


 アリスの1門だけの銃座機関銃とも違う、クレオの高速移動しながらの銃撃とも違う、二門による集中攻撃を受けて、あっという間にバラバラになったそれは海の藻屑となって波に飲まれる。


 その様子を見てなのか、3機がこの場から逃げ出そうとする……が、反転してきたらしいアンドレアとジーノと、それを読んでいたらしいクレオに阻止され、攻撃され……ハイエナ共は残り3機となる。


 俺は一旦速度を落とす為に高度を上げていて……アンドレアとジーノは円を描くようにしてハイエナ共の周囲を飛びながら、ハイエナ達がどう動くかを警戒していて……クレオは少し離れた位置から突撃しかけようとしていて……そこで残されたハイエナ共は、それしかないと踏んだのだろう、光信号でのコンタクトを試みてくる。


 そんなのは無視をして攻撃してしまっても全く問題無かったのだが……一応話を聞こうかと、俺は連中の上を飛び、アンドレアとジーノは周囲を飛び、クレオは高度を下げて、下から睨み上げながら光信号を読み取り始める。


『えーっと……ああ、もう! 3機でピカピカやられたんじゃ解読しにくいじゃない!!

 えーっとえーっと……とりあえず中央の1機は『助けて』を繰り返してるだけだから無視。

 左の1機は……『交渉』『分前』『譲る』『金貨』を繰り返してるね』


「賞金のかかったハイエナと交渉なんかしたら、こっちが犯罪者になっちまうっての……そもそも連中に国の賞金以上の金が出せるとは思えないしな」


『じゃぁこっちも無視……最後のは……んー? 『人質』『殺す』『見逃せ』かな?

 人質? 人質って……一体誰を?』


「……分からないが……恐らくは襲った船か飛行艇に乗っていた誰かを人質にしてるんだろうな。

 俺達や軍が知らない内に10機まで増えたってことは、仲間をそれだけ増やせるだけの稼ぎがあったというか、仕事をしたってことだから……もしかしたら何処かの島を襲ったのかもしれない。

 そこの住人って可能性もあるが……まぁ、論外だな」


『……論外なの?』


「連中を見逃しても被害者が増えるだけ……本当に居るかどうか分からない人質のために見逃すってのは無しだろう。

 それに本当に人質がいるとしても、あの小さくて狭っくるしい飛行艇の中じゃなくて、さっきのあの島にいる訳だろう?

 なら人質を助けるにしても交渉相手はあの飛行艇じゃなくて、島に居る小悪党共になる訳で……」


『あ、そっか。

 なら下手にこいつらを逃がすより、全部落としちゃって、空を押さえた上で、島の連中と交渉したら良いのか』


「そういうことだ……な!?」


 と、そう言って俺は慌てて操縦桿を倒し、回避行動を取る。


 光信号のやり取りの最中というか、読み取りの最中だというのに、3機のうち1機がこちらにその頭を……銃口を向けてきたのだ。


 回避行動を取った直後、機関銃の音が響いてきて……弾丸がすぐ側を掠めていく。


『この、おバカー!!』


 結果としてそいつに背を向けることになった俺が、必死に速度を上げて逃げようとする中、アリスのそんな声が響いてくる。


 直後後方の機関銃が唸り始め……クレオ達のものなのだろう、いくつものエンジン音と機関銃の音が周囲に響き渡る。


 そんな音の嵐の中、俺は兎に角、敵の機関銃の音と、空を切りながら迫ってくる弾へと意識を向けて回避行動に専念する。


 攻撃はアリスがやってくれる、とにかく被弾を避けるだけ……だったのだが、何発かが機体のどこか、おそらく翼に命中する。


 鋭いドリルで鉄板を削ったような激しい音と、飛行艇を揺らし衝撃がガツンと響いてきて……やられたと舌打ちするが、不思議と操縦桿に違和感はなく、飛行艇は何の問題もなく真っ直ぐ飛び続けてくれる。


『大丈夫! こっちは木じゃなくてミスリル製だもん!

 安っぽい弾丸なんか、弾いてくれたよ!』


「マジか!?」


 そんなことを言いながら俺はどんどんとエンジンを加速させていく。


 被弾してしまったという恐怖と、焦りと、どうやら終わりではないようだという安堵と興奮と。


 様々な感情が入り混じって、何が何やら分からなくなっている中、アリスは、


『ちょろちょろ逃げないで、落ちなさいよー!』


 なんてことを言いながら機関銃を唸らせる。


 何発も何発も弾丸が発射され、その音が通信機を通して響いてきて……そして発射された弾が何かに命中したのか鈍い音と、何かがきしむような音が聞こえてきて……次の瞬間、エンジンが吹き飛んだのか何なのか、凄まじい爆発音が響いてくる。


『よっし、落としたよー!!

 他の2機もクレオさん達が落としたから、これで戦闘終了だー!』


 なんともテンション高くアリスがそう言ってきて……小さなため息を吐き出した俺は、一旦冷静になろうと、操縦桿から手を離し……バチンと両手でもって自らの両頬を叩くのだった。


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