白と黒の世界

なみ

第1話白の世界

世界はきっかけで変わるもの……

───────────

──∥白の世界観∥──

あなたが本当に復讐したいのは、誰ですか?


俺は何処でつまづいたんだ?

……わからない。

気がつけば俺には何も残ってはいなかった。

家族も友情も金も……

唯一残っているのは"良心"くらいだ。

それならいっその事、"良心"も捨てていいかな?

俺の名前は松永太一。

今は22歳、両親は俺が3歳の時に事故で死んだ。

両親は元々結婚を反対されて駆け落ちしたため、俺は孤児施設に預けられることになった。もちろん施設では友人もいた。

でも俺が20になった時にその友人は俺を連帯保証人にして逃げやがった。

それは、俺が友人と金を失ったことを意味していたんだ。

俺のショックは大きかった。

いや、それ以上に裏切られたことが許せなかった。

そのぶつけようのない恨みを晴らすため、3ヶ月前から『key』という復讐サイトでずっと愚痴をこぼしていた。

そのサイトのみんなは俺と同じ境遇だった。

俺は『海斗』という人と特に仲良くなった。

一昨日、海斗は俺にある相談を持ちかけてきた。


「…………電車を乗っ取る??」


「そうだ。…亜嵐、どう思う?」


『亜嵐』は俺の名前だ。


「どうって……勝手にやればいいじゃねぇか。」


正直そんなことどうでもよかった。


「何言ってるんだよ!お前もやるの!」


「へ?俺も?」


「当たり前だよ!お前も『誰か』に復讐したいんだろ?」


…復讐……

俺が復讐したいのは………


「…わかった、やってやるよ。」


「さすが亜嵐!じゃあ日時は────」


俺が悩んで出した結果だった。


『電車が来ます。白線の後ろまでお下がりください。』


乗っ取る予定の電車がきた。

俺が乗っ取るのは終電。

海斗は次の駅から来る予定だ。


「俺らが乗っ取る電車は終電、田辺行き普通電車だ。」


「終電にする理由は人が少ないからだな。でもなんで田辺行きなんだ?」


「田辺なら一番遠いからだ。サツにバレないように脱出ルートも用意してある。」


「じゃあ俺は1両車、お前は2両車を抑えるってことでいいな?」


「わかった。合図はトンネルに入った瞬間だ。」


「了解。」


ドアが開いた。

俺は少し緊張して電車に乗った。

電車の中には3人、一人は学生(見た目で高校生だろう)、残り二人はサラリーマンである。残業でもしてたのだろう。酔っ払いでなかったので少し安心した。

学生は2両車、サラリーマン二人は1両車。

多分乗っ取るにはわけないであろう。

とりあえず俺は1番前の席に座った。

2分もしないうちに次の駅についてしまった。

乗り込んだのは一人……

彼はカジュアル系を思わせるような姿だった。

そいつは俺に向かってウインクした。

海斗であることは確定した。

電車はまもなくトンネルに差し掛かる……

……始まるんだ……俺の……復讐が……

トンネルに入った。

暗闇が支配する電車で俺は叫ぶ。


「両手を挙げて床に伏せろ!!」


まさに一瞬のうちに俺はサラリーマン二人を抑えた。

サラリーマンは震えている。

抵抗する気配はなさそうだ。

海斗も2両車を乗っ取っていた様子だった。

学生が手を挙げているのが見えた。

作戦はほぼ成功だ。

あとは乗客を1両車に移し、車掌を脅すだけ……

俺は運転室に向かった。


“……パン!……”


銃声が鳴った。

最初は何の音かわからなかった。

音がしたのは……2両車。

海斗が撃ったのか……

しかしなんで……

わけもわからないまま俺は急いで2両車にむかった……。


「おい!海斗!!」


…海斗は血だらけで倒れている……

心臓に一発。

…撃ったのは…

学生だった。


「これ………どういうことだよ…」


「…知るか……勝手に襲ってきたから殺したまでだ。」


返り血を拭きながら学生は冷静に話した…


一方で海斗はピクリともしない。

右胸からは鮮明な赤が流れている。


「なんで……」


“……パン!…”


学生の持つ拳銃が動いた瞬間、俺の手から拳銃が弾き飛んだ。

学生は正確に拳銃だけを狙ってきやがった。


「人はなんで目標をかかげるのか…………」


拳銃が地面に転がる。


「ゴールがないと怖いからなのさ。」


そして学生は


「……人はなんで必死に生きるのか……」


無防備になった俺に


「……死ぬのが嫌だからだ。」


拳銃を突きつける


「……どういう意味だよ。」


声が震えているのがわかる


「つまり……俺がお前を殺すってことさ。」


学生はニヤリと笑う

俺にはそれが悪魔のような笑みに見えた


「やめろ!殺すことはないだろ!!」


いつ来ていたのだろうか、サラリーマンも必死で止める。


「…黙れ!……悪人には……制裁を……だろ?」


“………パン!…パン!…パン!………”


俺の目の前が……真っ暗になっていった……


「………おい、海斗。……もう起き上がってもいいぞ!」


「……ぅ…あ~…疲れたぁ!おい管理人さんよぉ……なんで俺がこんな役なんだよ!!」


海斗は起き上がった。


「仕方ないだろ?お前しか悪そうな顔してないし……」


「ハハハ!!そりゃそうだよな!」


サラリーマン二人も笑っている。

「それにしてもkey、お前はホントに命中させるのうまいな。普通難しいぜ?拳銃だけ打つの。」


サラリーマンの一人は笑いながら管理人、通称「key」に話している。


「…なぁに……あんなの余裕さ。素人さんの動きなんてすぐ読める。……俺がホントに怖かったのはあの拳銃に玉がホントに1発だけしか入ってないのかだった。……殺しちゃまずいからな。ああ、それよりNAM、SHARU、二人ともご苦労様。」


NAMが答える。


「いや、いいってこった。それより今回はShaRuも関係してるしな。……お!亜嵐、おはよう!!」


俺は死んでなかった。

いや、この人たちは俺を殺そうとも思ってなかった。

俺はただ恐怖で気絶してるだけだった。



「目覚めたね、亜嵐。まず自己紹介させてもらうよ……俺は管理人、通称keyだ。」


見た目はそのまま学生だ。顔は子供のようなおっとりした顔立ち。でも学生にしては少し声が低い感じがする。


「俺は海斗。…悪かったな、騙したりして。」


よくみると彼の胸の血のようなものは血のりだった。



「俺はNAM、俺のサラリーマンぷりうまかったよな?」


「サラリーマンぷりってどんなだ」と海斗につっこまれている。年は30代といったところ。


「……。」


「おい!SHARU。なにか話せよ!!」


ShaRuと呼ばれた人はずっと下を向いたまま黙っていた。見た目は明るそうに見えるのだが……


「もうわかっただろう。俺達はあの復讐サイト『key』の人達だよ。」


「『key』の……どうりで俺のハンドルネームがわかるはずだ……でもなんで!?なんで俺を騙したりしたんだ?こんな大掛かりな事までして……」


俺が疑問に思ってた事、それは「なぜ会ったこともない人にそこまでして騙したのか」だった。


「……それは……実は俺達は昔『銀行強盗』をしてたんだ。…ShaRuを除いてな。理由はただリストラにした銀行会社への『復讐』だよ。……笑えるだろ?たったそれだけの理由で銀行強盗だぜ?…でも結局捕まっちまってな、んでその時に刑務所で遠藤って刑事に言われたんだ。」


keyは時折頭を掻きながら、真相を淡々と話している。

彼の眼はなぜか悲しげに見えた。


「遠藤さんは俺らに言ったよ。『お前らの復讐ってのは、誰に対しての復讐なんだ?』ってな。……俺、その言葉で気づいたんだ。他の関係ない人巻き込んで何がえらそうに『復讐』って言ってんだろう、ってな。」


海斗が続いて話した。


「俺達は間違ってたんだ。だって人の運命は他人が汚しちゃいけないんだからな……」


「そうだ……人の運命は生まれてから決まってる。…もしかしたら生まれる前から決まってるのかもしれないけど…」


key達の話しで俺はやっと理解した。

この人達は俺を同じような人間にさせたくなかったんだな、ってことが。

俺も…一体何に『復讐』してたんだろうな…

勝手に人のせいにして……

バカだ……ただ逃げてるだけなのに…


「俺は…お前らに会えてよかったのかもな、俺はもう一度だけ……もう一度だけやり直してみる。俺の生き方で…!」


「……太一!!」


突然、ShaRuが俺の名前をよんだ


「ShaRu??何で俺の…」


ShaRuが顔を上げた

見覚えのある、懐かしい友の顔


「俺は山田俊也だからだよ。」


山田俊也……

俺を裏切った友達がShaRu??


「太一……悪かった!!許してもらえることじゃないのはわかってる。でも恋人を……絵里を助けるためには必要だったんだ!だから──」


「俊也!!…もう話すな……俺はお前が裏切った理由もわかってたんだよ。ただ…俺に相談しないなんて酷いだろ!!俺は……友達じゃねぇのかよ!!!」


俊也は泣いていた……

俺は……最初からわかってたんだ。

俊也が何か隠してたことも、全部。


「ShaRuは……俊也君はずっと悔やんでた。……君を騙して後悔してたよ。」


keyは静かに言った。

…電車は尚も夜の路線を走っていく……


『───現場から報告します!!今日午前1時05分に起こった脱線事故がありました。電車は大破、炎上。現在消防隊による消火活動が行われていますが、おそらく生存者はいないと思われています!電車ですが、田辺行きの終電であるそうです。事故の原因としては──────』


───この世は"偶然"というものは存在しない

全ては"必然"からなっているのである───

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