いじめっ子のボクといじめられっ子の僕

佐武ろく

いじめっ子のボクといじめられっ子の僕

僕の中にいるボクはよく僕をいじめる。罵り、蔑む。ボクは日常生活の中で事あるごとにニヤケ面でやって来る。そして僕が仕事で失敗した時はこう言うんだ。


「こんなのもできねーのか?ダメな奴だな!これぐらい誰でもできるぞ。これぐらいもできないお前はこの会社のお荷物だな。ほら見ろ。あの先輩もあの先輩もあの後輩だってお前を嘲笑ってる。『大丈夫。気にするな』って言ってたけど心の中では『使えねー奴』って思ってるぜ。お前が陰で何て言われてるか想像したことあるか?きっと聞いちまったらお前はここいられなくなるぞ...」


それからもずっと僕を罵り続けるんだ。僕はゲームが好きで休みの日とか対人ゲームをするんだけどその時もボクはやって来る。特に負けた時なんかひどい。


「よっわ!なんでこんなよえーのにこのゲームしてんだよ。お前とチームになった奴らが可哀想すぎる。さっさとやめろ。しかもこんだけやってこの強さとかザコいな。センスのセの字も感じられねぇ。お前がこのゲームやってうまくなったのは言い訳だけだろ?腕は全然ザコのままなのに言い訳は上手くなりやがってよ。笑える...」


それからもずっとずっと僕を罵り続けるんだ。しかも負けた時だけじゃなくて勝った時も。


「自分より格下の相手に勝ってそんなに嬉しいか?動きもイマイチだったしよ。もし今のが上手い奴なら完全に負けてたな。まっ、同レベと格上に勝てないお前は自分より弱い奴を狩って喜ぶクソ野郎だからしかたねーか。どーせ負けたら仲間の所為にしてたんだろ?負けたら不機嫌になって勝った時だけご機嫌ってか?良かったなソロプレイしててお前みたいなやつはパーティーの空気を乱すからな。また勝った?いや、今のはまぐれだろ。相手が判断ミスしたおかげだな。運が良かっただけだ...」


それからもずっとずっとずっと僕を罵り続けるんだ。そしてボクは他人と僕をよく比べる。


「おいおい、アイツはできてるのにお前はできないのか?あいつはお前よりもっと上手くやれるぞ。やっとそのレベルに達したのか?あいつはもっと早くそこまで成長したぞ。わぁーお、あいつは気が利くしコミュニケーション能力も高い良い奴だな。それに比べてお前は...。おっ、あいつは髪型も整えて服もおしゃれおまけに顔もカッコいいときた。それに比べてお前は...。あいつは全然悪い所がないな。それに比べてお前は...。あの人は仕事もできて同僚だけじゃなく上司と部下からの信頼も厚い。それに比べてお前は...。あの人はこれだけやればもっとできたのに。それに比べて僕は...。あの人達に比べて僕は...。何てダメなんだ...」


他の人の欠点が見える時もあるけど、そんなとこを見てしまう自分に嫌気がさすし、自分にもその欠点があるって気が付いたらより一層自分が嫌いになる。それに自分に対していちいち嫌気がさす自分がまた嫌になる。そんなことをしていると次第に自分という人間の価値を疑い始めてしまう。ボクが僕に向けて発する言葉の1つ1つは確実に心をナイフのように傷つけていった。他の人を見ては自分と比べ。失敗しては自分を責め。成功したとしてもそれは自分の実力ではないと否定する。事あるごとに自分を傷つけては否定する。


『自分が悪い。自分が悪い。自分が悪い』


悪い事は自分の所為で、良いことは他のおかげ。そうやってる内に、自分を責めることが癖になっていった。自分はダメだ、と。そこに怒りも加わればその銃口は自ずと自分に向けられている。言葉を選ばずに言えば正直、こんなクソみたいな自分を殺してしまいたいほどだ。実際に殺したことはないけど叩いたり殴ったりということはある。銃を比喩に出したから同じように例えれば映画みたいに引き金は引かずにグリップの底で殴るみたいなことかな。これって自己懲罰的な意味での自傷行為なんだろうか?よく分からないけど。そして少し時間が経ち怒りも嫌悪も落ち着き冷静さを取り戻せばあの感情はよくなかったと反省する。だけどそう簡単に断つことはできない。分からないけどもし違ったら申し訳ないけど、これはドラッグやアルコールみたいに依存症になってるのかもしれない。自己嫌悪依存症。いや、違うか。誰かに相談できれば少しは楽になるのかもしれないけど、こんな見っともないところは見られたくないし知られたくない。これがプライドってやつなのかもしれない


「なんか。自分のことだけど、僕ってすっごく生きづらそう」


多分、僕に足りないのは自分を認めることと自分を愛する事だろう。今は冷静だしよくわかる。そう言えばあるサイトにこんな名言が乗ってた。


【自分を愛するということは、良い所だけを認めるという事ではなく欠点を認めるということでもない。ただ受け入れなさい。自分という人間を。もしあなたの間違いを1つ訂正するのなら人間は良いとダメには分類できないということです。人間には良いも悪いもなく、ただそれだけで素晴らしい。もし自分の性格で嫌いなところあがるとしたら、それは、その性格が悪いのではなく調節を間違えているだけです。どんな悪いと思うところも適切にコントロールできれば良い面だと気が付くでしょう。あなたがすべきは性格を直すのではなくコントロールすることを学ぶことです。あなたという存在はこの世に唯一無二でありそれだけで素晴らしいのですよ】


コントロール。もしかしたらあのボクも本当は僕をイジメているんじゃなくてちょっと口が悪いだけで僕の事を思っているのかもしれない。時間がかかったとしても僕はボクの言葉に耳を傾けて表面的な意味じゃなくてその奥底に込められた意味を読み取らないといつまでもこの関係性は変らないのかも。ゆっくりでいいボクという存在を矯正するんじゃなくて消し去るんじゃなくて受け入れていこう。


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「こんなのもできねーのか?ダメな奴だな!これぐらい誰でもできるぞ。これぐらいもできないお前はこの会社のお荷物だな」

「確かにそうかもしれない。また次も同じことを繰り返したらダメな奴だ。ちゃんと何が悪かったのか調べて次に活かさないと。ありがとう。危機感をくれて」


「あの先輩もあの先輩もあの後輩だってお前を嘲笑ってる。『大丈夫。気にするな』って言ってたけど心の中では『使えねー奴』って思ってるぜ。お前が陰で何て言われてるか想像したことあるか?きっと聞いちまったらお前はここいられなくなるぞ」

「最近変なミスばっかりしちゃったからなぁ。よし!じゃあ『やっぱり僕ってやるじゃん』って思わせられるように気合を入れ直さないと。ありがとう。最近気が緩んでたからそれに気付かせてくれて」


「よっわ!なんでこんなよえーのにこのゲームしてんだよ。お前とチームになった奴らが可哀想すぎる。さっさとやめろ。しかもこんだけやってこの強さとかザコいな。センスのセの字も感じられねぇ。お前がこのゲームやってうまくなったのは言い訳だけだろ?腕は全然ザコのままなのに言い訳は上手くなりやがってよ。笑える...」

「そうだよなー。何で負けたのか考えないと次も同じやられ方してチームメイトに申し訳ないよ。それに確かに僕にはセンスがないのかもしれない。でもだからこそ人の倍、練習してキャリーできるようにならないと!そのためにまずは負けの言い訳を他に求めないで自分の悪かった部分を冷静に分析しよう。ありがとう。僕が弱いって改めて気が付かせてくれて。おかげでどこを直せばいいかを分析して今日より今より次は強くなれるよ」


「おいおい、アイツはできてるのにお前はできないのか?あいつはお前よりもっと上手くやれるぞ。やっとそのレベルに達したのか?あいつはもっと早くそこまで成長したぞ。わぁーお、あいつは気が利くしコミュニケーション能力も高い良い奴だな。それに比べてお前は...。おっ、あいつは髪型も整えて服もおしゃれおまけに顔もカッコいいときた。それに比べてお前は...。あいつは全然悪い所がないな。それに比べてお前は...。あの人は仕事もできて同僚だけじゃなく上司と部下からの信頼も厚い。それに比べてお前は...。あの人はこれだけやればもっとできたのに。それに比べて僕は...。あの人達に比べて僕は...。何てダメなんだ」

「君の言う通りだよ。あの人達は僕と比べるとスゴイ。そこは称賛すべきだ。だけど僕とあの人は違う。あの人が僕と同じぐらいの時はもっと良かった?そんなこと言ったって比べったって何かが変わる訳じゃない。常に僕へ与えられた選択肢は2つだけ。止めるか進むか。あの人にあって僕ないモノ。それを眺めたところでそれが手に入るわけじゃない。羨むだけ無駄だ。世界は2種類の人間に分けられる自分かそれ以外か。他人の栄光は称賛を送るか糧にする以外では気にする必要は無い。あの人はあの人。あの人もあの人。そして僕は僕。他を強調して比べることでそれに気が付かせてくれて、ありがとう。本当にありがとう」


僕とボクは手を取り合い仲直りした。今では彼も僕で僕も彼だ。


####


私はキーボードから手を離すとマウスに手を置き保存をクリックした。


「よし!これで完成っと。タイトルはそうだなぁ。――いじめっ子のボクといじめられっ子の僕」


少し眺めながらどうか考える。


「自己嫌悪感を、自分をいじめる側としてそれに俯く自分をいじめられる側。んー。でもいじめてるわけじゃないし。でも見方を変えれば自分で自分を責めてるわけだし...」


結局、私は自分の直感を信じることにした。


「まぁこれでいいか。―――おっと、忘れるところだった最後にこの方の言葉を書いておこう」

――――――――――――――――――――――――――――――――――――

人生の意味とは、ただ生きるということである。

とても簡単で、とても明瞭で、とてもシンプルなことであるが、

誰しもその人であるということ以上のことを

成し遂げねばならないかのような錯覚に急き立てられているのだ。

by.Alen Watts

――――――――――――――――――――――――――――――――――――


「その人であること以上のことを成し遂げたあの人達は確かに凄い。じゃあ何もできない自分はダメか?いや、そうじゃない。あの人達が上に行っただけだ。君は普通だ。自分のペースで自分の思うように君が君であり続ければそれでいい。上を見て焦っていると錯覚に囚われる。やる気だけもらったら視線を前に戻して君の道を歩きなさい」


自分に言い聞かせるように言うと投稿ボタンをクリックした。

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