それすなわち、愛の結晶

※※※




 俺は鞄の中に手を入れると、そこにある小さな箱を掴んで美兎ちゃんの様子を伺った。

 『カテキョ』の時間も無事に終わり、恒例である山田の散歩へと来ている俺達。公園のベンチに腰掛けている俺の視界に映るのは、無邪気に山田と戯れている美兎ちゃんの姿。


 俺はそんな光景を前に覚悟を決めると、ドキドキと高鳴る胸を抑えて立ち上がった。右手に収まる小さな箱をキュッと握りしめ、ゆっくりとした歩みで美兎ちゃんへと近付く。

 目の前に見える美兎ちゃんがおもむろに腰を下ろしたのを確認すると、俺はそんな美兎ちゃんの背後まで行くとピタリと足を止めた。



「……っみ、美兎ちゃん」



 そう声を掛ければ、山田のうんち片手に後ろを振り返った美兎ちゃん。山田の空気の読めなさ加減には若干イラッとするが、それすらも凌駕りょうがしてしまう程に可愛い、うんちwith美兎ちゃん。

 

 

(グフゥッ♡ っ……なんて、可愛いんだッッ♡♡♡♡)

 


 真っ赤なコートに、白いモコモコのマフラーを着けた美兎ちゃん。その破壊力は凄まじく、例えその右手にあるものが”うんち”ではなく人の”生首”だったとしても、その神々しいまでの美しさは引けを取ることはないだろう。

 そう——決して、汚されることはないのだ。



「これ、少し遅くなっちゃったけど……クリスマスプレゼント。誕生日も近いから、それも兼ねて」



 そう言いながら手の中にある小さな箱を差し出せば、驚きに瞳を大きく見開いた美兎ちゃん。



「……えっ? プレゼント?」


「うん。気に入って貰えるといいんだけど」


「……ありがとうっ、瑛斗先生!」



(ハグゥゥ……ッッ♡♡♡♡)



 あまりの可愛さに危うく昇天しかけながらも、満面の笑顔を咲かせる美兎ちゃんを見つめて顔面をとろけさせる。


 俺の手から小さな箱を受け取った美兎ちゃんは、ワクワクと瞳を輝かせると早速その蓋を開いた。そこから現れたのは、赤いガーネットの石が付いた小さなハート型のピアス。

 ガーネットは、1月生まれの美兎ちゃんの誕生石。石言葉は『一途な愛』。俺の気持ち、そのままだ。



「……うわぁ〜っ! すっごく可愛いっ!」


「少し早いけど……。高校生になったら、美兎ちゃんピアス開けるって言ってたから」



 とても嬉しそうにキラキラと瞳を輝かせている美兎ちゃん。どうやら、俺の『一途な愛』に感動しているようだ。


 現在、中学3年生である美兎ちゃん。当然ながら、真面目な美兎ちゃんがピアスホールなど開けているわけもなく……。残念ながら、今すぐに”俺の愛”を身にまとうことはできない。

 けれど、もう少し大人になった、その時には——。


 その【貫通式】は、是非とも俺に任せて欲しい。



(優しくするからね♡ ……グフフフフッ♡♡♡♡)



 抑えきれないアダルトな妄想に取り憑かれた俺は、鼻の下を伸ばすと不気味に微笑む。これもひとえに、美兎ちゃんへの『一途な愛』故なのだから、仕方がない。

 この石が持つ意味の一つである、”繁栄”という言葉のように、俺は美兎ちゃんとの愛を育み繁栄させたいのだ。



「早くピアスしたいなぁ〜。……やっぱり、痛いのかなぁ?」




 ———!!!?




(な……っ、ななな、なんだって!!!? ……っ、早く貫通されたいだなんて……っ。うさぎちゃん……っ君は、なんてスケベなんだ……っっ♡♡♡♡)



 もはや、アダルトな妄想が止まらない。乱れる呼吸とともに、ズキズキとうずき始めた俺の股間。



「っ……、大丈夫だよ(優しくするから♡)」


「瑛斗先生は、痛くなかった?」


「うん。痛くなかったよ(貫通する側だし)」


「沢山開いてるもんね、瑛斗先生。ミトは1つずつでいいかなぁ……。怖いもん」


「ハハッ……怖くないよ(何度だって、貫通してあげる♡)」



 容赦なく続く美兎ちゃんからのエッチな言葉責めに、俺の股間はもはや爆破寸前。どうやら、天使のように愛らしい俺の美兎ちゃんは、とんでもなくドSな小悪魔ちゃんらしい。



「早く高校生になりたいなぁ〜……。瑛斗先生、本当にありがとうっ! ミト、受験頑張るねっ!」




 ———!!!? 




 俺に向けて、笑顔で頑張ると宣言した美兎ちゃん。それは、つまり——。


 子作りを頑張るということ!?♡!?♡



(グハァァァアアーーッッ!♡♡!♡♡!♡♡!♡♡ ……っ、なんて積極的な、スケベちゃんだッッ♡♡♡♡ 今すぐ押し倒したい!!!!)



 俺としては、もう少しゆっくりと愛を育んでいきたかったが……。頑張ると言われてしまった以上、俺が頑張らないわけにはいかない。



「っ、……うん♡(俺も、子作り頑張る♡)」



 素敵な妄想に囚われ、爆破寸前の股間をモジモジとさせて身悶える俺。あとほんの少しでも刺激されようものなら、この場で今すぐ美兎ちゃんを押し倒してしまいそうだ。



「ちょ、……ちょっと俺、ベンチに戻るね?」


「うんっ」



 そう美兎ちゃんに告げると、押し倒す前にベンチへと戻ってきた俺。美兎ちゃんからの誘惑を断るのは忍びないところだが、いきなり野外プレイとは流石にハードモードすぎる。

 一歩間違えなくとも、危うく犯罪者になるところだった。



(全く……困った小悪魔ちゃんだぜ♡)



 フーッと大きく息を吐くと、山田と戯れている美兎ちゃんの姿を眺める。

 こんな俺だが、その石に込めた想いに嘘偽りなど一切ないのだ。美兎ちゃんへの想いは、間違いなく『一途な愛』。

 そしてこのアダルトな想いもまた、嘘偽りのない俺の想い。……だって俺、男だし。



(楽しみだね、うさぎちゃん……ッ♡ ♡♡♡)



 どうやら、ベンチで休憩したぐらいでは俺の妄想は収まらないらしい。

 溢れ出る想いに、ニヤリと不気味に微笑んだ俺。その表情は、もはや『ロリコン変態野郎』全開だ。



「グフッ♡ ……グフフフフッ♡♡♡♡」



 我慢しきれなくなった笑い声が、俺の口から小さく溢れ出る。そんな俺の姿を見て、時折通りがかる親子連れが不審そうな目を向ける。

 このままでは、いつ通報されてもおかしくはない。そうは思うものの、膨らむ妄想と不気味な笑い声は止められそうもない。



(美兎ちゃん……。俺……っ、捕まったらごめん……)



 俺の純粋な想いとよこしまな想いを兼ね備えた、ガーネットという”愛の結晶”。


 それを身に付ける美兎ちゃんの姿を想像しながら、俺は1人、ベンチの上で不気味な笑い声を響かせながら悶絶するのだった。

 


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