【a girl's monologue ①】

 気づけばずっと誰かを探していたような感じがするけれど、実際のところはここ一年ぐらいのもので……というか、あたしのいわゆるアイデンティティと呼ばれるものが確立されたのも、つい最近だったように思う。

 いや、待って。

 軽率なツッコミは待ってほしい。

 あたしは子供の頃からずっと病気で、ベッドの上で過ごす毎日で、だから自我なんて別に必要がなかった……いや、きっと持たないようにしてたんだ。

 ランニングシューズを履いて、トラックを駆け回りたい。

 放課後、友達みんなと寄り道をしてタピオカを飲みたい。

 でも、それはかなわないことだから。

 望んでも手に入らないのなら、最初から願わない方がマシだって。そう思ってあたしは、ずっと戒めてた。

 だから正直、昔の記憶はあまりない。

 小さな部屋の、小さなベッドに寝かされていた記憶はなんとなくあるけれど、それ以外のことはあまり思い出せない。思い出そうとすると、なんだか頭が痛くなる──

 でも、それでいい。

 それがいいんだと、自分にも言い聞かせていた。

 だけどある日、そんなあたしにも、どうしても叶えたい願いができた。

 この胸が、心臓が、叫んでた。

 誰かに会いたいと叫んでいた。

 どうしたらいい?

 なにかを願ったことなんてない。成し遂げようと思ったことはない。

 あたしに、なにができる? この心臓の願いを叶えてあげられる?

 ──気づけば走り出していた。

 今のあたしには、アスファルトを強く、強く蹴る足があった。十八年間ため込んだ激情があった。それさえあれば、あたしは無敵だった。


『あんたが名探偵?』


 やっと見つけたと思ったあたしの希望は、なんだかだるげで、覇気がなくて、もう色んなものを諦めてるように見えて──どこか、昔のあたしに似ていた。

 だからそんなあいつを放っておけなくて、ついつい叱り飛ばしてしまって、うっかり泣き顔も見せてしまって……それは、それは不覚だったんだけれども。

 だけど不覚と言えば、あたしもまた、そんなあいつに救われてしまった。


『その心臓が誰のものであろうと、なつなぎは夏凪の人生を生きていいんだからな』


 そんな言葉を、もらってしまった。

 だから、きっと、そう。

 あたしの人生は今日、またここから新たに始まるんだ。

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