第9話 弟子入り

「改めて、神原隼人です」


「カンバラハヤトか。随分長い名前だね?」


この国には苗字という概念が無いのだろうか。世界が違うのだから、常識の違いは分かっていたつもりだがこんな所まで違うとは思ってもみなかった。




「長いんでしたらハヤトでいいです」


「そうか。ではハヤト君と呼ばせてもらおう。私はミカヅチといって、昔武芸を嗜んでいたただの老人さ」


嗜むだけではこの境地にたどり着かない事を”目”が何となくだが教えてくれる。未だにこの目は何ができるかは不明だが、予想もつかないものだろうと思える程安心感がある。




「それで、この儂の下で学びたいという事かね?」


「はい!」


ー本題に入った。




この返答によってはこれからの運命が決まると言っても過言はないだろう。まだこの世界について何も知らない自分が生き残れるわけもない。


それに嫌な話、お金が無い。この世界は貨幣制度が、文明レベルを考えると必ずあるだろう。もしかしたら、スキルの力でそれに代わる何かがあるのかも知れないが、それにしても最低限住は確保しておきたい気持ちはある。


どちらに転ぶにしろ恨むことはしないが、人が一人分増えるだけで負担が多きくなるのは事実であって…




「うん、いいぞ」


「へ?いいんですか?」


あっさりと許可が下りたことに、ある種拍子抜けしてしまう。


「うむ。君は悪い子ではなさそうじゃし、それに行くところないじゃろ?」


「それは、まあ」


「それだったら尚更、ウチはそういうモンの為に造った所じゃから」



とても有難い話であったが、甘え過ぎない事に注意しなければならない。ミカヅチさんが優しい人だという事は視て知っていた。だけど僕は此処にただの居候としてではなく、一門下生として住まわせてもらうのだ。そこを忘れないで生きていかなければならない。




ーそれにしても、


「ありがとうございます!!」


異世界に来て初めて、信頼できる人に会えた事に感謝しなくては。

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