43.大家さんと中二病少女の兄
大家さんの一声によって一旦はアイスメイズさんとその兄の言い争いが収まった。だがしかし、何故俺の部屋に全員いるのだろう。部屋の中で話し合いをすること自体は賛成なのだが他に候補はなかったのだろうか。例えば大家さんの部屋とか、大家さんの部屋とか、大家さんの部屋とか。
「二人共、遠慮せずに上がって頂戴。お茶を用意するわ」
そして何故大家さんが部屋の主であるかのように振る舞っているのだろう。もしかしてここは最初から俺の部屋じゃなかったのか。そうかそうか、今まで俺の方がおかしかったのか……ってそんなわけあるかい! と思わずそんなノリツッコミを入れてしまう程度には訳が分からなかった。つまり今の俺は相当混乱しているのである。
「今更なんですけど何でいつも俺の部屋なんですか?」
玄関から奥の部屋へと向かう途中、大家さんにそう訪ねる。
「あら、こういう話をする時は貴方の部屋って相場が決まっているでしょう?」
相場って何? もしかして株式相場の話してる?
「あの……」
「さぁここに座って少し待っててもらえるかしら?」
話聞いてないし。俺の問い掛けに納得できる答えが返ってこないまま、お茶を入れに行った大家さんを除いた俺達三人は奥の部屋に設置してある丸テーブルの周りを囲むようにして座る。そして大家さんがお茶を持って戻ってきたところでようやく黒ずくめの男、もといアイスメイズさん兄が口を開いた。しかしながら彼もアイスメイズさんに似て綺麗な顔立ちをしている。くっきりとした目鼻立ち、アイスメイズさんに負けず劣らずの白い肌、そして若干ダークよりの短い白い髪。流石は兄妹である。ていうかあの白い髪って地毛だった? もしかしてハーフなの? この子達。
「それで妹よ。早速本題に入ろう」
「……話したくない」
そう言葉を漏らしたアイスメイズさんは立ち上がり、俺の後ろへと隠れる。
「あの、アイスメイズさん?」
問い掛けるとアイスメイズさんは俺の左腕の方からチラッと顔を覗かせた。
「貴様は私の眷族だろう。だから今は私の盾になってくれ」
盾になれと言われましても相手は実の兄ですよね? どうしましょうかと困った表情でアイスメイズさん兄に助けを求めるが、彼は助けてくれそうな雰囲気でなかった。
「お、俺の妹が見ず知らずの男に……許せん!」
おーどうどう、まずは落ち着きましょう兄貴。
「前々から思っていたのだけれど、このお茶って美味しいわよね」
大家さん、今はお茶の感想とかそういうこと言ってる雰囲気じゃないでしょ。見て、周りを。
「おい、そこの男!」
「は、はい……」
何だか嫌な予感がする。いや、これは予感なんかではなく確定で嫌なことが起こる。日々大家さんの悪行を見てきた俺が言うのだ。間違いない。
「ここは俺の大事な妹を賭けて勝負だ!」
ほら、やっぱり嫌なことが起こったよ。これは恐らく決闘と呼ばれる類いのやつだろう。というか大事な妹を賭けちゃって良いの? 兄貴。
「その挑戦を受けて立つ!」
そして俺じゃなくてあなたが返事するのね、アイスメイズさん。
「それでは勝負の内容は公平に私が決めることにするわ。誰も異論はないかしら?」
大家さんは面白そうなことがあると当然のような顔してやってきますよね。さっきまでお茶の話したり、興味無さげに空とか見たりしてたのに決闘って聞いた途端にいきなりこれですもん。ハイエナですか、あなたは。
というわけで俺以外の三人はすっかり決闘ムードになっていた。え、これ本当に俺もやらないと駄目?
◆ ◆ ◆
あの状況で断ることが出来ず、結局アイスメイズさん兄と勝負をすることになってしまった俺は現在外にいた。もちろん他の三人も外に出ている。
「では勝負の内容を説明するわね。今回の勝負はズバリ、アパート冬支度対決よ」
うわー、この人勝負に
「ルールは簡単、相手よりも多くのお題をクリアした方の勝ち。それだけよ」
「質問がある」
「どうぞ」
「お題とは例えばどういうことをするんだ?」
「そうね、単純な作業だと思ってくれて構わないわ。始めに二人にはそれぞれ一つずつお題を出すから、そのお題が終わったら私の所まで来て頂戴。そうしたら私が確認しに行くからそこで私の承認が得られれば一ポイント、次のお題を出すわ。それを繰り返して最終的にやってもらうことがなくなった時点で勝負は終了。最終的な合計点で勝敗を決めるわ」
「なるほど、より効率的に作業することがこの勝負においては重要みたいだな。面白い」
いや何も面白くないからね。俺達利用されてますから。
「誰かさんと違って理解が早いわね。誰かさんと違って」
二回言うな。あとチラチラこっちを見るな。俺だってさっきの説明で理解してますから。さらに言えばあなたの真意まで分かってますから。
「それでまずは何をするんです?」
「そうね、まずは簡単な窓の断熱シート貼りからしてもらおうかしら。二人共お願い出来る?」
「フッ……容易い」
「ああ、はい分かりました」
こうして俺達は大家さんの策略にまんまと嵌まり、アパートの冬支度をすることになった。まぁ結局俺は何があってもやることになっていたので良いのだが。
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