第63話 田中心の視点

「こころ、昨日どこ何してた?」


「柚さんとご飯って言ったじゃん。」


「ほんとかよ。男と浮気してたんだろ。」


「違うよ! 柚さんだよ! なんで信じてくれないの!?」


「信じられないんだよ!」


痛っ。頬を思いきり叩かれた。ひどい。


「携帯見ていいよ。ほら、柚さんとだよ。写真も撮ってある」


「ほんとみたいだな。ごめんな。叩いて。またやってしまった。ほんとごめん」


「いいよ」


何回叩かれて、何回謝られたか。数えきれない。


真司のことは嫌いじゃない。けど、叩かれるのは嫌だし怒られるのも嫌。


別れるというと泣きついてくる。だから、別れられない。


同情ってやつかな。


叩かれたところが痛くて、夜は寝れないことが多かった。


心療内科に行ったら、睡眠導入剤を出してくれた。


最近は「愛の印」って言って、タバコをわたしの肌に押し当てて、ハンコみたいにしてくる。


ジュッってなって、痛いんだよな。




「今日はどこ行くんだ?」


「柚さんのお見舞い」


「あー、お前のせいで、刺された子か」


「……」


「じょーだんじょーだん。そんな気にするんなって」


真司は笑っていた。


でもわたしは笑えなかった。


真司の言う通り、わたしのせいだ。


わたしのせいで、柚さんは……


すごく落ち込んだ。つらかった。悲しかった。


柚さんに申し訳ない気持ちで溢れる。



柚さん。ごめんなさい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る