第32話
「ゆずさん。今日はね、退院についてお話しさせてください」
「はい」
坂井先生が私のベットの横にきた。きれいな白衣をきて、髪も整えていて、清潔感溢れている。毎日忙しいはずなのに、手入れしているんだな。
坂井先生は、ほとんど毎日私たち患者のところへ行き、声をかけたり、様子をみてくれる。
優しいし、丁寧だし、安心する。
今日もいつものように、ふらっと私のところへ寄って「具合はどうですか?」と声をかけてくれるだけだと思っていた。
しかし、今日はなんと退院の話。退院できる日がついにきたのだ。
でも、同じ病室の人たちとか坂井先生とか看護師さんともう会えなくなると考えると寂しくて感慨深いものがある。
刺されたのは辛かったし、怖かったけど、この人たちに会えたのは人生で大きい出来事だったな。
「傷は、大分落ち着いてきてます。このまま行けばあと1週間で退院できます」
「そうなんですか! 嬉しいです。いろいろ、してもらっちゃってすみません。心のケアまで……感謝してもしきれないです」
「ゆずさんは、何も気にしなくていいんですよ。医者として当然です。もし、退院して何か心配なことあったら、いつでも連絡してください。なんなら、僕のアカウント教えますけどいります?」
「え、いいんですか?」
「ゆずさんならいいですよ。その代わり他言無用で」
「もちろんです」
「あ、入院中は直接声かけてくださいね。退院したらですよ」
「おっけいです」
坂井先生のアカウントをゲットしてしまった。こんなにも上手くいってしまっていいのだろうか。嬉しさと不安が混じる。
私の携帯の中に、坂井晴人と表示されたアカウントがある。本当に交換してしまったんだ。
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