クスリ

 その次の日曜日、御供は北川から教わった住所をカーナビに入力し、車を走らせた。たどり着いたのはある教会が運営する宿泊施設だった。そしてフロム・スマイルの茶話会が行われていたのは、十畳ほどの和室だった。いくつか座卓が並べられ、そのうえにスナック菓子やドリンク類が供されていたがアルコール類はない。

 すでに会は始まっていて、めいめいが雑談していた。北川も既に来ていて、御供の姿を見ると手招きした。

「おおミトモッチ、こっちこっち!」

 北川のいたテーブルには他に三人ついていた。そのうちの一人はフロム・スマイルのんスタッフ・門田怜かどたさとし、後の二人は薬物中毒から回復中の東條慎吾とうじょうしんご二反田翔太にたんだしょうた。ここに参加しているメンバーを見渡すと、御供が想像していた薬物中毒視のイメージとは程遠い、ごく普通の人たちだ。もっともそれは、百瀬朱里についても言えることであったが。

 北川は御供を紹介した。

「こちらは教誨師仲間の、御供浩之君です」

「御供です。どうぞよろしく……」

 紹介を受けて、門田が訊いた。

「教誨師と言うと、やはり拘置所の死刑囚が相手ですか?」

「以前はそうだったんですけど、今は女子少年院でご奉仕させていただいています。その中にMDMAにはまった人がいまして、どうにか助けたいのですが、なかなか良い考えが浮かばなくて……」

「なるほど、ここへ来たのも、そう言った事情があるわけですね」

 門田が言うと、東條が「MDMAはやばいよ」と言った。「そこら辺で売ってるのは何が混ざってるかわかんないし、混ぜものによっては死ぬことだってある」

「え……そんなやばいものなんですか」

「薬ってのは本質的にやばいもんだ。俺がハマってたのは◯◯◯だ」

「◯◯◯……?」

 東條が冗談を言っているのかと御供は思った。◯◯◯とは一般に良く知られている市販の咳止め薬だ。テレビコマーシャルもさかんに放映されている。

「◯◯◯を大量に飲むとMAXでエクスタシー状態になるんだ。ただ、薬局では一度に沢山売ってはくれない。だから……夜中に薬局を襲撃するんだ」

「で、でも、そんなことしていたら……」

「そう、いつか捕まる。考えれば誰でも分かることだ。だけどそれよりも欲しい気持ちが打ち勝ってしまう。そう聞けば、薬はやばいもんなんだってわかるだろう?」

「それで東條さんは逮捕されてしまったんですか?」

「ああ。三回目の薬局襲撃の時にな。俺をマークしていた警官に取り押さえられたよ。結局、回復プログラムへの参加を条件として執行猶予がついたけどな」

「その回復プログラムで、薬物中毒は克服出来たんですか?」

「形式的にはやめていたよ。保護観察官の目も光っているしな。しかし、根本的に薬が身体から抜けるのは相当難しい。いや、不可能と言ってもいいかな」

「そうなんですね……」

 御供は朱里のことを考えた。今彼女は身体的に薬から手を引いてはいるが、回復への道のりは相当長そうだ、そう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る