御供と浜本 その2

「あんた、俺が何やったか知ってるんだろ?」

 浜本は教誨が始まるなり、開口一番にそう尋ねた。

「ええ、保険金目当てに三人の女性と結婚し、殺害したと……ニュースで見ました」

「その通りだ。俺のことひでえ屑みたいなヤツだと思ってるだろ?」

 御供は一瞬返答に迷った。浜本の人を試すような言動にもいささかウンザリした。

「浜本さん自身は尊厳のある一個の人間と思っています。ただ、浜本さんの犯した罪は許されるべきではありません」

「……ったく、優等生みたいな回答しやがって。じゃあ聞くがな、聖書にはいやらしい想像しただけで姦淫の罪だって書いてるだろ」

 御供は嫌な話題になった、と思った。早く別の話題に切り替えたい。

「山上の垂訓の一節ですね。つまり、罪とは本質的に心に宿っているものだということです」

「じゃああんた、どうやって〝処理〟するの。アノ時ってそういう想像が欠かせねえだろ」

 御供は耳まで顔が赤くなった。触れられたくない話だ。御供が高邁な思想に耽ける時、いつも心に響くのは「汝、手淫する者よ」という内なる声だった。この声は御供に失格者の烙印を押し、深く落胆させた。さして好意を抱いていなかった板垣瑠都子との結婚に同意したのは、この悶々とした悩みから解放されたいという気持ちが多分に動機となっていた。

 御供が何も言えずに黙っていると、浜本はさらに下卑た顔になって話を続けた。

「無期懲役のヤツらなんて、エロ本の差入れもねえから大変だぞ。聞いた話じゃ、面会に来た姉貴に興奮して、しばらくその想像が寝床の友だって……そこまでなったら人間終わりだよな」

 終わりの定められている人間が、人間の終わりを冒涜的に話す。やっぱりコイツは人間の屑だと御供は思った。だから欲情に飽き足らず、殺人まで犯したのだ、それも3人も。とその時、浜本が御供の考えを見透かしたように言った。

「俺がどうしてあんなことをやったかわかるか?」

「心の中の欲望じゃないですか」

「フン、違うな。俺は女というものを心底憎んでいたんだよ。だからああいう形で復讐してやったのさ」

 復讐……もしかして浜本は女性からひどい仕打ちを受けてトラウマになっていたのかもしれない。今後の教誨のために、浜本の過去を洗い出す必要があると御供は思った。

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