第55話 よぉ大将、やってる?

 自室の窓からは庭のバラがよく見えた。庭師達が日々整えていてくれているため、公爵家の庭のバラは大変素晴らしい。

「素敵なバラですわね。見に行きませんか?」

 隣で一緒に見ていたクリスティアナ様が言った。

 昨日は挨拶を済ませ、荷物を片付けるとすでに晩餐の時間になっていた。道中に買った物が思った以上にあり、運び込むだけでも一苦労だった。その後は長旅の疲れもあってそうそう寝てしまったのだ。そのため、屋敷の案内がまだ済んでいない。

 ちょうどいいタイミングなので、みんなで庭に出て、案内することにした。

 ひんやりとした中庭はバラのとても良い香りがし、遠くで鳥が鳴いている声が聞こえた。フェオも大人しくしており、バラの迷路に興味津々だった。

 迷路を抜けた先にはちょっとした休憩できる場所があるのだが、そこには先客がいた。

「お母様、おはようございます」

 俺に続いてみんなも挨拶をする。お母様の隣にはお父様の弟君の奥さん、俺にとっては伯母がいた。

「あらあら、ほんとにみんな仲良しなのね。みんなも一緒にどうかしら?」

 挨拶は昨日済ませているので、一緒にテーブルを囲ませてもらった。

「そうそう、この間のフリーマーケットの話をしていたのよ」

「ええ、ええ、実にいい考えだわ。買っても使わなくなったものや、いらないものはたくさんあるだろうし、それがお金に替わるならいいことだわぁ」

「他にも手作りの物や特産品なんかを売ってもいいと思うんですよね。お店は持てないけど、自分で作った物を売りたいと思う人もいるでしょうしね」

「いい考えね。ほんと、よくそんなにポンポンと思いつくわね」

「シリウスは魔道具も作り出せるし、自慢の息子だわ」

「まあ! あの話は本当だったの?」

 ワイワイと息子の自慢話が始まったので退散することにした。クリスティアナ様もフェオもエクスも参戦したそうにしていたが、無事にフリーマーケットも開催されることになりそうだし、屋敷の他の場所も案内したかったし、何より長くなりそうだったので切り上げた。

 一頻り案内も終わり、部屋に戻ると、今度はフリーマーケットに向けた道中の戦利品の確認作業に入った。

「ほんとによく買ったわよね~。この石ころなんて何に使うのよ」

「それは磨くと宝石になる原石だよ。加工すれば価値が上がるけど、加工するには大きな都市に持っていかないといけないからね。それをするくらいなら、安く売ってすぐに現金にした方がいいって思ったんじゃないかな。まあ、俺にはクラフトの魔法があるから関係無いけどね」

 そう言ってクラフトの魔法でサクッと磨き上げた。今回は半円のドーム型に仕上げた。ペンダントにするとよさそうだ。あとで銀の台座を作って取り付けておこう。

「シリウスはほんと、デタラメな魔法を作るよね。他の人の仕事を取っちゃうんじゃないの?」

「大丈夫でしょ。みんながみんな、使えるわけじゃないしね。ごく一部の人が使うだけなら、そんなことにはならないよ」

 魔法には相性が少なからずあるからね。新しい魔法を作ったところで世界のシステムを変えるほどの力がないのはありがたい。でなければ、魔法の開発はストップしなければならなかったところだ。

「その宝石はどうなさるのですか? どなたかにあげるのですか?」

 クリスティアナ様は市販されている宝石はほとんど欲しがらないのだが、俺が加工した宝石はものすごく欲しがるのだ。素人が作ったものよりもその道のプロが作ったものの方がよさそうな気がするのだが、クリスティアナ様に言わせると、俺が作ったものは最高級の品質らしい。どうやらお義母様も欲しがっているとのことだ。だとすると、俺のお母様も欲しがるのかな? よく分からん。

「クリスティアナ様に差し上げますよ」

 道中に買ったクリスティアナ様用の宝石類を代わりにフリーマーケットに出すことにしよう。

「え~! あたしも欲しい!」

「マスター、私も」

「いやいや、二人ともつけられないでしょ?」

 フェオには大きすぎ、エクスは人型のときしか身につけられない。二人に同じ物をあげるのは厳しそうなので、何とか他のことでご機嫌をとらなければ。困ったもんだ。

 二人を膝に乗せ、なでなでしながら売りに出す物をピックアップしていく。宝石類を大量に買ったはいいが、特に興味は無いので適当に売りに出すとして、あとは小物だな。工芸品も気に入って買ったもの以外は売りに出そう。買ったときの値段をメモしておいたので、相場違いの値段をつけなくて済みそうだ。鑑定の魔法に販売価格までついていたらよかったのに、そこまでの機能はなかった。

「結構な数になりそうですわね」

 だんだんとごちゃごちゃになっていく部屋を見て、クリスティアナ様は苦笑いをしている。

「部屋でやらない方がよかったですね。これだけの物を売るのは大変そうなので、みんなにも手伝って欲しいかな」

「あたし、手伝う、手伝う!」

 フェオが元気良く手を上げた。エクスも頷いているのでOKのようだ。

「え? 私達で売りますの?」

 どうやらクリスティアナ様は使用人などが代わりに売るのだと思っていたようだ。ちょっとビックリしている。

「もちろんですよ。その方が領民とも交流できるし、他にもこちらに要望を言い易いでしょうからね。領主一族として、民のために動くことは当然ですよ」

 庶民の声を生で聞ける、またとないチャンスだ。逃してなるものか。最近は身分の高い人達を相手にすることが多くて、一般庶民の立場に立てなくなってきている。この辺りで引き締めなければと思っていたところだ。

「そこまでお考えだったとは・・・それならば私もお手伝いさせていただきますわ。今から練習しておかないとですわ」

「じゃあまずはあたしとエクスがお客さんの役ね。よぉ大将、やってる?」

 どこのお店を想定しているのかは分からないが、フェオの脳内にはオッサンが住んでいることだけは理解した。長生きしてるし、思考回路はすでにオッサンなのかも知れない。

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