第30話 魔族襲来④

「シリウス、此度はよくやってくれた」

 ここは謁見の間。シーズンオフのため貴族の姿は疎らだが、城の大臣やら騎士団長やら魔導師団長やらが左右に立ち並び、国王陛下の有難いお言葉を待っている。

 あの後、事情聴取をされたのちに、訓練所だけでなくこの城にも聖域結界を張って欲しいと頼まれて聖域結界を張り、聖剣を見せて欲しいと頼まれたので見せ、祝賀会に参加して欲しいと頼まれたので出席したりして、休む間もなく忙しかった。そしてようやく落ち着いたかと思ったら、国王陛下から呼び出しがかかった。

「いえ、この国の民として、当然のことをしたまでです」

 そう言って頭を垂れた。

 さすがに規模が大きく成りすぎて「一部の人達だけの秘密ね」では済まなくなってしまったようだ。

 こればかりは仕方がないか。魔族を放置しておく訳にはいかなかったしね。フェオに押し付けても良かったが、折角聖剣を持ってる事だし、1度は使ってみたかったから、まあ、よしとしよう。

「シリウスがこの国の民であることを誇りに思うぞ。未曾有の災いになるところを未然に防いだその功績を、無下にする訳にはいかない。よってシリウスに守護勲章を与える」

 盛大な拍手が湧き起こった。この勲章は国を守ったものに与えられる勲章の中でも、最上級のものらしい。持っているだけで、毎月給付金がもらえ、伯爵相当の扱いとなる。

 国王陛下自らが左胸に勲章を付けて下さった。そして、もう一度盛大な拍手が響き渡った。

 だが、正直なところ勲章を貰ったところで、である。我が公爵家はすでに王族以上の金持ちでありお金は必要ない。将来的な身分は伯爵より上の公爵。目立つ以外の何者でもなかった。平穏な毎日を送りたい自分にとってはありがた迷惑に近かった。やっぱりまたフェオに押し付けておけば良かった。後悔先に立たず。どうしてこうなった。


「良く似合っておりますわ」

 クリスティアナ様は笑顔で勲章を付けた俺を称賛してくれた。その顔はどこか誇らしげである。

 国王陛下との謁見も終わり、暖かな日が射し込む、この城一番のサロンにやって来ていた。俺はこれから、これまでの経緯を手紙に書いて両親に送らなければならない。もうすぐ両親が王都に戻ってくる頃なので、そのときに話せばいいんじゃないかと思うのだが、そうは問屋が卸さないらしい。俺付きの使用人が、こういうことは手順が大事だ、と力説してきた。そうすれば旦那様も奥様も卒倒することはないだろう、と。なぜ両親が倒れることが前提なのか。それが分からない。

 面倒くさいと思いながらもサラサラと定型文から始まる回りくどい文章を書いていると、何も見ずに良くそんなにサラサラと書けますわね、と感心された。そうだった。7歳児だった。中身はアラサーなので忘れていた。

 そうか、もうすぐ春なのか。何だか色々有りすぎて、とても濃い冬のシーズンだった。

「シリウスって、両親が居たんだ」

「そうだよ。冬の間は公爵領に帰っていて、春になり社交シーズンが始まると王都のタウンハウスに帰って来るんだよ。フェオとエクスを両親に紹介しないとね。手紙では知らせるけど、こういうことはやはりキチンとやらないとね」

「ふ~ん、じゃあ春からはシリウスの家で過ごすことになるのね!楽しみだわ」

「え?」

 フェオの言葉を聞いたクリスティアナ様がピタリと固まった。それはもう、微動だにしなかった。え、何か不味いこと言った?

「え?クリピーどうし・・・って、何で泣いてるの!?」

 慌ててフェオがクリスティアナ様の所に飛んで行った。もちろん俺もすぐに駆け寄ったが、俺の胸で泣いてばかりで、要領を得ることはできなかった。

 しかし、腐っても俺はクリスティアナ様の婚約者である。自分が今、何をすべきかは分かっていた。

 ここは国王陛下の自室。

 そこに国王陛下とクリスティアナ様のお母様の第二王妃様、クリスティアナ様にフェオとエクスが居た。

「国王陛下にお願いがあって参りました。クリスティアナ様を春から我がガーネット家にお招きしたいと思います。クリスティアナ様はいずれはガーネット公爵家に嫁ぐ身。花嫁修業の一環として、今のうちからガーネット公爵家に馴染んでもらいたいと思います」

 キッパリと言った。その言葉にクリスティアナ様は目を見開いたが、すぐに嬉しそうに笑顔になった。

「私からもお願いしますわ。ガーネット公爵家に嫁げば、今の王族としての立場とはまるで違う環境になることは間違いありませんわ。その時になって旦那様の足を引っ張るようなことは絶対にしたくはありませんわ」

 こちらもキッパリと言い放った。

 その強い意識を持った瞳に言葉を窮した国王陛下に代わって、お義母様が言った。

「良いのではありませんか。そこまでクリスティアナが考えているのなら、私達では止めることができませんわ。ですが、ずっと、というのは私達も寂しいわ。時々でいいので、帰って来てはくれませんか?」

「もちろんです。月に何度も連れて帰ると約束しましょう」

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