第二部第2話「女の形をした刃」
地方横断鉄道に乗って、キングスレイ鉄鋼共和国の首都・キングスフォールに到着した”星月巡り”一行。
ブルライト地方を発ってから半年以上に及ぶ長旅であったが、現地では「ブルライトの英雄」として歓待され、幾人かの
“星月巡り”の一員のセルゲイ=ゲラシモアは、若年期をキングスフォールの暗部で過ごしていたため鉄道卿の本性を知っている。彼らの真意は”忘れられた都市”タージを巡る情報交換であり、今起こっていることは、手付かずの超巨大遺跡であろうタージの利権をめぐる腹の探り合いであった。
それでも、タージの情報を得るためには鉄道卿の懐に飛び込むほかない。”星月巡り”一行が、数通のパーティーの招待状の中から選んだのは、”マナタイトの魔女”キルケー=ランカスターのものであった。彼女は、セルゲイがかつて奴隷として仕えていた元・主人でもある。
“マナタイトの魔女”キルケー=ランカスターは”星月巡り”一行を歓待する。ブルライト地方で起こったタージの起動装置を巡る蛮族との争いの顛末に関する情報は彼女を満足させたため、キルケーもまた自分の手札を一行に提示した。
既に数人の鉄道卿が”黒い月”に向けて飛空艇を飛ばしているものの、タージに辿り着けたという情報はない。恐らく何らかの魔法的装置により、タージは足を踏み入れる者を選んでいる。
試行錯誤を重ねた結果、彼女は「タージの製作者である”賢者”オーブレイと共に戦った聖戦士の証」が必要であるという仮説に至っていた。
宴席の中で、キルケーは1人の赤毛の少女を紹介する。彼女の名はイオーレ=ナゼル。”紅の紫電”の二つ名で、最近まで冒険者として活躍していたティエンスの戦士ということだ。
そして、彼女は自分のことを、こう紹介した。
自分はかつて世界を救った12人の聖戦士の1人、”聖騎士”イーヴの直系の末裔だと。
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「キルケー、ホントに頼って大丈夫?この人たち、アタシより弱いよ」
「あれ、エノやんじゃない。久しぶり!相変わらずヨボヨボだけど、まだ生きててくれて嬉しいよ」
―“紅の紫電”イオーレ=ナゼル
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イオと同じ冒険者パーティーで一時期活動を共にしていた案内役のエノテラ=テトラプテラは、彼女が当時から立身出世を望んでいることを知っており、旧交を暖めると共にキルケーの庇護下は危険だと助言するが、彼女は聞く耳を持たない。
イオは自らが聖戦士の末裔であることを証明するため、またタージに辿り着くためには聖戦士の証たる伝説の武器が必要な可能性が高いため、自らの滅んだ故郷にその神器があるとして、”星月巡り”一行に協力を要請した。
イオが目指すのはヒスドゥール山脈の跡地、元ヒスドゥール大烈穴。キルケーの管理する鉱山帯だが、魔動機文明時代の遺跡を発掘してから、蛮族が侵攻し採掘が出来ない状態になっているという。
“星月巡り”一行と共に現地に向かう列車の中。彼らから見てイオは快活で努力家、魅力的な人物だが、一方で焦りや不安を感じさせる部分もあるとして、彼女と話をすることに。
ティエンスは元々、奈落の壁から溢れ侵攻した魔神に対抗するため当時の技術で生み出された人間と魔神の掛け合わせの種族だ。そのためイオは人間から社会の盾となって死ぬのが役目といった目で見られていることに抵抗を感じていた。同様の経験はティエンスのオリヴィエもしていたおり、オリヴィエはそれを仕方ないこととする一方、イオは自らが英雄となりその風潮を変えたいという。
また、聖戦士の神器に関して、既に彼女のライバルは別の聖戦士の武器を手に入れているという。セルゲイやパルフェタの見立てでは、イオは先を越されている焦りから視野が狭くなっており、彼女をコントロールすることの困難さを感じていた。
鉱山帯に到着した一行は、イオの故郷の記憶を頼りに、神器が祀られていたはずの神殿跡を探索する。キルケーの保有する鉱山跡から封印された神殿の遺跡へ繋がる道があり、遺跡はどうやら聖戦士の資格があるものに試練を与える性格のものであった。
探索途中、「聖戦士の資格あるもの」のみが通れるという魔法の障壁があり、体質的にマナを不干渉に出来るグラスランナーのエノテラ、聖戦士の末裔たるイオ、そしてパルフェタが障壁を通過する一幕があった。パルフェタは仲間に、自身も聖戦士のひとり”弓使い”ダリオンの末裔であることを明かす。
神殿の遺跡はある一定の箇所から蛮族が徘徊する濃度が濃くなり、最奥部には聖戦士の神器のひとつ、”守護の斧”スワンチカがイオの記憶通り祀られていた。そしてこの遺跡を制圧している蛮族達が、今まさにスワンチカを祀る神像を爆破したところであった。
先祖と故郷を穢されたと激昂するイオに引っ張られるような形で”星月巡り”一行は蛮族の一団と戦闘に突入する。その指揮官は、1年前に霊峰ルコッツで刃を交えた”しろがねの姫”アスタローシェであった。
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「良くもアタシの大事な過去を!"聖騎士"イーヴの名のもとに、お前たちを許しはしないわ!」
「ほう、お前はかつての聖戦士の縁者か。過去の栄光に縋り世界を正しく視ることも出来ぬ愚か者にかける言葉などないな」
「蛮族が支配する世界なんかまっぴらさ!」
「ふ、ハハっ、聖戦士の子孫とやらは本当に何も知らないのだな!いま、この世界でお前たちに大きな顔をしていられることが不愉快だ。殺すか」
「「お前などに、何がわかる!」」
―戦闘前、イオとアスタローシェの会話より
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===ボス戦闘===
ドレイクバロン(”しろがねの姫”アスタローシェ)
ケパラウラウラ(”蛇目石の”ギリアム)
グリフォン
ブラスゴーレム
マリシャスドレッサー(ギリアムが魔法の品物で召喚)
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遺跡内に十分な広さがなく、アストは竜形態への変身を実質封じられていたが、一方で主戦力のはずのイオも遺跡内の探索中に、罠からパルフェタを庇った時に負った足の負傷の影響で万全ではなく、苦しい戦いを強いられる。
戦いは一進一退であったが、冒険者側の回復魔法が
1年前の戦いで勝った時には自分たちが見逃したように、今回は”守護の斧”スワンチカを引き渡す代わりに自分たちを見逃してほしい、と提案するが、イオが反対して交渉がまとまらない。
その時、騎兵が一騎、戦場に介入した。銀髪に青い目の人間の騎兵がアスタローシェと戦闘を開始し、その隙にイオが朽ちたように見えた斧を手にする。
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「アタシは未熟で、迂闊だった。エノやん、みんなを巻き込んでこんな体たらくでゴメン。でも、諦めたくないんだ!こんなアタシと一緒に戦ってくれたみんなを守ることを!」
「”この世界を守る術を我が手に。汝は守護の斧スワンチカ。世界に、安寧を齎すものなり!”」
イオがコマンドワードを唱えると、朽ちた斧がまばゆく光り、気が付けば美しい武器へと姿を変えていた。”守護の斧”スワンチカが、本来の力を発揮したのだ。
ーセッション内描写より
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アストとギリアムは乱入者の騎兵と互角以上の戦いを繰り広げていたが、スワンチカの真の力を解放したイオを確認すると、形勢は不利と見て撤退した。
一行を助けた形になった銀髪の騎士はディード=スレインと名乗った。イオによれば自らに先んじて聖戦士の武器の1つを手に入れたライバルだという。ディードは、キルケーに聖戦士の神器の力を入手させるのは危険だと主張して、イオのスワンチカを預けるよう一行に求めた。
しかし交渉役のセルゲイは、彼の正体がハーヴェス王国のヴァイス国王に送り込まれた騎士団長だとすぐに見抜いた。
セルゲイはハーヴェスとキングスレイが協力関係の下にタージ探索を進めるためには、キルケーにも手札を与えておいた方が良い、情報はそちらの陣営にも流すようにすれば話が進みやすい、とディードを説得した。
ハーヴェス王国の議会書記官で彼の妻、レイラが1人でドーデンに来たことを怒っている、彼女ともっとコミュニケーションを取るべきだとしてパルフェタが彼に詰め寄ったことも彼の毒気を抜いたか、最終的にディードはイオがスワンチカを持つことを認めた。彼は聖戦士の武器の1つ”蒼玉の剣”グレイプニルを手に入れているが、イオと違いその力は引き出せていないという。
こうして一行は結果的に目的を果たし、キルケーの元に帰還した。セルゲイは引き続きキルケーと旧知の仲という立場を生かして、自分たちが他の鉄道卿やハーヴェス王国に対するスパイとして働くことを提供する代わりに、イオを丁重に扱い、彼女の望みをなるべく叶えてやるようバックアップして欲しい、と要求した。
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「あらあら、やっぱり若い子に肩入れする方がやる気が出るのかしら。可愛らしいこと」
「どうせ利用するのなら、せめて夢くらいは見させてやれよ。そのくらい、後でタージが手に入ると思えば安い代償だろう?」
「そうねえ。彼女は大事にするわ。奴隷はね、周りより優しくされていると思う限りは従順になるものよ。昔のあなたみたいに」
「うるせーババァ」
キルケーとセルゲイの会話より
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イオは”星月巡り”一行に礼を言うと共に、自分の未熟さと欲望による焦りが、全体の危険を招いたことを詫びた。かつてスワンチカを手に世界を救った”聖騎士”イーヴのように、自分も本当の英雄として歩みたい、と希望を語った。
聖戦士の末裔と、聖戦士の神器の両方を手に入れた”マナタイトの魔女”キルケー=ランカスターはこれでタージの探索に向けて他の勢力に一歩先んじることになった。イオの身の安全と引き換えに、今後も”星月巡り"一行を利用することを目論む。
次回へ続く。
【登場人物】
セッション参加キャラクター
セルゲイ=ゲラシモア(アルケミスト7)
オリヴィエ(フェンサー6)
エノテラ=テトラプテラ(バード7)
パルフェタ=ムール(フェアリーテイマー6)
“紅の紫電”イオーレ=ナゼル
種族:ティエンス 性別:女性 年齢:18歳
愛称はイオ。赤髪を三つ編みにした、首元に宝玉が埋まるティエンスの少女。かつて世界を救った12人の聖戦士の一人、”聖騎士”イーヴの末裔を名乗る。
冒険者としてデビューして4年足らずとキャリアは浅いが、一途な努力と豊かな才能により、既に戦士としても冒険者としても一流の技量を持つ。
明朗快活で努力家ではあるが、一方でティエンスの短い寿命の中で立身を望む焦りもあり、"マナタイトの魔女"キルケー=ランカスター公爵の庇護下となる危険な道を選ぶ。
自分の存在意義を求めて先祖が使用していた聖戦士の神器のひとつ、"守護の斧"スワンチカを入手しようとするが不調と怪我もあり"しろがねの姫"アスタローシェに敗北。自分の未熟さを思い知ることになる。
かつての仲間であったエノテラの助言もあり再起を誓い、”守護の斧”スワンチカと共に本当の英雄となるべく歩もうとしている。
“マナタイトの魔女”キルケー=ランカスター(※公式NPC)
種族:人間 性別:女性 年齢:49歳
キングスレイ鉄鋼共和国において、マナタイトの採掘・鉄道運輸・魔動機術の研究の事業において古くから影響力を発揮してきた
飛空艇を所持しており、”黒い月”が現れた直後から”忘れられた都市”タージを手に入れることを目指して試行錯誤を重ねていた。"星月巡り"一行がキングスフォールに到着する頃には既に「聖戦士の末裔とその力の証たる神器」が必要であるという仮説に至り、聖戦士の末裔を名乗るイオを召し抱え、神器の調査を進めていた。
イオがスワンチカを入手したことにより、タージの利権獲得に関して他の勢力に一歩先んじることとなり、セルゲイを始め"星月巡り"一行を利用しながらタージの解放を目指している。
なお"星月巡り"の一人セルゲイ=ゲラシモアは彼女と関りがある。キルケーはかつて不老の存在とされるナイトメアを使って長寿の研究をしており、奴隷商人を通じて幼い子供であったセルゲイを買い取り奴隷としていた。結局研究は失敗に終わり、用済みとなったセルゲイはキルケーの元で10年ほど汚れ仕事を請け負い、その報酬で自分を買い取って解放奴隷となった。
まだ若かったセルゲイはキルケーを害しようとしたが失敗に終わった上に関係ない人間を殺してしまい、その罪をキルケーが不問としたことから彼女に対して恩讐入り混じった感情を抱いている。
“迅雷卿”ディード=スレイン
種族:人間 性別:男性 年齢:28歳
ドーデン地方で活躍する冒険者。銀髪に青い瞳の美丈夫。
冒険者ギルドキングスフォール支店のマスターの信頼も厚く、実直で誠実な性格。
その正体はハーヴェス王国からヴァイス王の命令で派遣されたハーヴェス王国の騎士団長であり、王室議会書記官レイラの夫、シン=シャイターン伯爵。
冒険者の体裁を取りながら、ハーヴェス王国とキングスレイ鉄鋼共和国間の協力関係を構築しようとしていた。
既にオルフィード湖国での水龍討伐の冒険を通じて、聖戦士の神器の1つ”蒼玉の剣”グレイプニルを手に入れており、聖戦士の証を欲していたイオにライバル扱いされていた。
同じく聖戦士の武器のひとつ、”守護の斧”スワンチカを入手する機会を伺っており、イオがアストに敗北したところで戦闘に介入。イオは結果的にスワンチカの覚醒に成功する。一行の説得もありスワンチカをイオに預けることに同意する。
レイラの栄達を想い単独での外交任務を受領したが、それが原因でレイラから複雑な感情をぶつけられることに戸惑っており、パルフェタの説教(?)を通じてレイラに手紙を書くことになる。
"しろがねの姫"アスタローシェ=アスラン
種族:ドレイク 性別:女性
第一部最終話「しろがねの姫を討て」以来の登場。元ヒスドゥール大裂穴の鉱山地帯に侵攻し聖戦士の神器を手に入れるために暗躍していた。
1年前のディガッド山脈における戦いでの敗北から修練を重ねており、"蛇目石の"ギリアムと共に、"守護の斧"スワンチカを巡る戦いで"星月巡り"一行に三度立ちはだかり、今度は打ち負かすことに成功する。
“迅雷卿”ディード=スレインの介入によりイオがスワンチカの真の力を解放させ、形勢不利と見て逃走する。
以前より、人族はこの大陸の支配者たる資格なし、という姿勢が強い。それがどのような根拠によるものかは不明だが、彼女は人族を「世界の理を知らぬ愚か者ども」と称している。
【次回予告】
魔女と呼ばれる女性がいる。
時に騙らず、人の心を惑わせ
時に語らず、世の怨をいざなうという。
タージの探索を主導し得る人物として名が挙がる、”金瞳の魔女”。
彼女は果たして、人族の味方たる英雄なのか、それとも世界に仇成す魔性なのか。
各国の女傑がそれぞれの思惑で魔女の足跡を求めアルショニア女王国に集う中、
彼女たちが期せずして起こした歪みが、ひとりの穢れなき女性の人生を狂わせる。
この世界は、誰のために在るべきか。
世界が在るために、誰が死ぬべきか。
その答えを違えたとき、人は争う。
ソード・ワールドRPG第二部第3話「魔女追慕」
冒険者たちよ、剣の加護は汝と共に。
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