第35話 眠くて眠くてもうどうしようも無くて。

 魔界。


 漆黒の平原に日本の城のような魔界城、魔王城がそびえ立つ。


 植物のない岩ばかりの世界。


 そのそこここに、魔の気配を感じて。


 きっと今でもこちらを伺っているのだろう、ずずずず、と、気配が漂ってくるのがわかる。


 まあ、でも、あれらはそこまで害はない。


 魔、は、普段はただそこにある。


 漆黒の意識。


 まだこれから産まれようとしている状態の、些細な意識だけの存在なのだから。





「ここにキャッツアイが落ちてたことにすればいいよ」


 あたしが死んだ場所。結界を張った場所に辿り着いたところで。


 あたしは装着していたキャッツアイを外しノワに手渡した。




 円い金緑のマギア・キャッツアイ。


 手に持つとちょっとずっしりした重さを感じるそれを受け取ってくれたノワ。


 その手のひらいっぱいの大きさのギアを眺め。


「じゃぁここで手に持ってスチル撮っときますね」


 と。


 ドラゴンズアイにデータを保管するスチルの機能。


 これがここにあった事にして。


 あたしが死んだと言う証拠にするのだ。




 そして。


 まあ、魔・ギアは所有者にならない限り保有する事は出来ない。


 という理屈で自分の手からは消滅したという事にしておけば後々も問題はないしね。




 にしても。


 魔・ギア一個、せいぜい二個かな。


 それがあたしのマナの回復量に釣り合うギリギリ。


 全部装着したら1時間? くらいでダウンしちゃうかも。


 っていうかそろそろ一度マジカルレイヤーも解いて眠らないとふにゃぁかもしれない……。


 もう、眠くて眠くてどうしようも無くて。



「ねえノワール、あたしちょっとねこに戻って寝ないと身体持たないかも……。ごめんね」


「大丈夫ですよねえさん。僕があなたを守るから……」


「ちょっとキャンプ用のシェルターを出すね」


 あたしは両手を目の前に突き出して。


 インナースペースに収納してあった円形のテント、キャンプ用のシェルターを出した。


 ぼんっと目の前に現れるシェルターの入り口を潜り。



 外側から見るとけっこうコンパクトなんだけど中に入ると割と広い。


 13畳くらいのリビングサイズの部屋にベッドが置いてあるそんな場所。


「うう、ごめん。後よろしくねノワ」


 あたしはそれだけ言うともう我慢ができなくて。


 ねこに戻ってベッドに上がるとそのまま丸くなって眠ってしまった。


 でも、たぶん、あとはノワに任せてても安心、かな……。

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