第25話 前前前世。

 生きるのですアリシア。あなただけでも……。


 あたたかい。母親のイメージ。心の中まで包まれるようなそんな気分になって。でもなぜか悲しい、涙がじわって、止めようとしても出てきてしまう。動揺。諦め。睡魔。


 これは、いつもの夢だ。


 夢の中で夢だと感じてる。


 記憶には無いけれど、いつもみている夢だという事だけはわかるのだ。


 あたしが江藤遥香って名前のごくごく平凡な日本人だった前前世。


 いつも見ていたはずの夢。




 当時。


 夢と現実の狭間のそんなゆったりとした時の流れの中で。あたしはこれを夢だと認識して。


 なにかの映画のワンシーンのようであったのだけど、あたしには心当たりがなくて。もどかしかった。


 だいたいアリシアって誰のこと? 夢の中であたしのことそうよんでる人がいて、あたしも自分のことをそう自覚してるみたいで。

 でも、あたしには江藤遥香っていうれっきとした名前があったし。


 アリシアなんて知らない。記憶にはない。


 でも。どういうわけかこのアリシアっていう名前には、あたしの心に引っ掛かる何か、があるのは事実で。


 それが何かっていうことはぜんぜん判らないのだけど、なぜか耳障りのいい、懐かしいような、そんな名前なのだった。



 今になってそんな夢をもう一度観てるの?


 夢の中でそう考えてる。


 はざまの世界ではきっと、夢と現実が溶け合ってるから。


 きっと。




 まさか。


 前前前世?


 そんな記憶?




 まさか、ね。







 ぼんやりと夢から醒めて。


 うきゅうと伸びをする。


 あたし、いつの間に寝たんだろう?


 そんな事も考えて。



 目の前に人?


 お布団の中でもふもふに丸くなって寝てたみたいなんだけど。


 ここ、どこ?


 おっきな手が目の前にある。


 ぺろっと舐めてみるけど。


 うん。これ、知らない味?


 え?


 誰……?


 いつものレイアのベッドじゃない。


 お布団重いし。


 うきゅ。っと、お布団から這い出てみると。



 えーーー?


 ノワール?


 あたし、いま、ねこ、だよ、ね……?


 あうあう。


 目の前のノワ、こちらに気がついた?


「おはようミーシャ。まさかねえさんが猫に転生してるとは思いませんでしたけど。でも、その姿もかわいいですよ」


 そう言ってノワ、あたしの頭をふしゃふしゃって撫でた。


 にゃぁぁ。


 あたしはそう声をあげたのだった。

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