第20話 ただいま。

 夜の空をふわりと舞って。


 あたしは目的地の上空に辿り着いた。


 さて。どうしよっか。




 レイアのマトリクスは前世のあたしに似すぎてるし。

 彼だけならともかく、他の家人にもし見咎められたらまずいよね。


 変装、ではないけれど。


 前世でよくお忍びで行動する時に使ってたマトリクス。


 日本人、江藤遥香のマトリクスを使うことにした。


 これ。


 不思議と最初からあたしの中にあったんだよね。前前世では魔法が使えた訳じゃないから、どうやって取得したのかわかんないんだけど。


 ただ、彼と街に繰り出すときは大概このマトリクスを使ってた。


 彼の黒髪と合わさって、まるで姉弟のように見えたんじゃないかなって。そんな気もしてる。


 ちょっと栗色がかった黒髪ストレートの遥香はこの辺りでは珍しい顔立ちではあったけど、それでも充分愛嬌があって。街で奇異の目で見られたりすることもなかったから。


 ド派手な金色ふわふわ聖女風な姿で歩き回るよりも目立たずよかったのだ。




 今日はちゃんと耳も尻尾も隠したし。


 黒のワンピだから白より目立たないよね? と、思いながら。ふんわり彼のお屋敷の窓のベランダに降り立った。



 お屋敷の火は落ちてるかと思ったけど、一箇所だけ灯りが見えたからその部屋の窓の外。カーテンの向こうに人影がみえる。


 ——ああ。ノワ……。


 ノワール・エレ・キシュガルド。


 当時は子爵だったかな。


 孤児だった彼は教会によってその運命を見出され。


 子爵位を授かってこの屋敷を与えられたはず。


 もう引っ越しちゃってたらどうしよう。


 そうも思ったけどここまで来て確信した。


 この窓の、カーテンの向こうにいるのは彼だ。


 勇者、ノワ。


 あたしの唯一の友人。


 ノワール。


 あの魔力、間違いない。



 なんだか涙が出て。


 あたしはしばらくベランダで立ち尽くしていた。






 ふいに。


 ガチャっと窓があき、二十代半ばの男性がこちらを見た。


 その目はびっくりするほど見開いて。


 黒髪で、背も高い。


 なんだか想像以上にイケメンになったその姿に、あたしはものすごく嬉しくなって。


「ただいま。ノワ」


 たぶん、涙がぽろっと溢れてたとおもう。

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