第8話 戦果を利用したプロパガンダとこれからの話・前編
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「なるほど。妹の方が死に際に、そのような事を」
「ええ。本人達の意志なのは間違いありませんが、きっかけは皇帝直々の洗脳にあったようです。あくまで彼女の言葉でありますから虚言の可能性も捨てきれませんが」
僕がマーチス侯爵に経緯を説明すると、彼は双子の死体を見つめながら顎で指を触る。やはりマーチス侯爵にとってもこの話はどこか思うところがあるみたいだった。
少しだけ間を開けると、彼は口を開く。
「いや、情報を引き出せた時点で十分な成果だ。ジトゥーミラ・レポートで得た皇帝の性格などを考えれば有り得る話だからな」
「もし本当ならば双子の時以外にもどこからか孤児などを拉致して育てている可能性があります。今後は諜報だけでなく内部破壊工作対策にもさらなる注意を払う必要があるでしょう。生き残りが果たしてどれだけいるかに関してはなんとも言えませんが」
「諜報関係については既に軍情報部で内外を問わず強化している。来月には攻勢が控えている中で軍の半数を動員する中では厳しいが、王都に関しては近衛師団等に任せるしかないな……」
「近衛なら安心して背中を任せられます。情報を共有し、当面は警戒レベルを3に維持して目を光らせるのが一番でしょう」
「今回の件はオレも双子の暴走だと推測しているが、気を付けておくに越したことはない。お前の案は参謀本部でも同様の意見が出るだろうから採用しておこう。さて、双子についてだがどうしたものか。こいつらをいつまでもここに置いておく訳にもいかんからな。オレとしては双子討伐の証としてこいつらを晒すなりせなばならんと考えているのだが」
国内におけるテロの危険性への対策についての話が区切られると、肝心の目の前にある死体の処分の話題になる。
マーチス侯爵が言うように衆目に晒すのが国民を安心させる一番の手段だ。些か野蛮で乱暴ではあるけれど、現実に死体を見せれば何にも勝る証拠になる。グロテスクだと目にしたくなければ自己判断すればいいし、自身の目で見て安心したいのならば見ればいいわけだし。
さらに、もし王都に妖魔帝国のスパイが入り込んでいるとしたら双子の姉妹を見せることにより衝撃を与えられ、あわよくば情報を送ろうとしたそいつを捕縛する事も出来る。前者はともかく後者は相手もそこまで馬鹿じゃないだろうから運が良ければだけど。それでも疑わしい人物を探る機会にはなるだろう。
ただし、懸念もある。
「マーチス大将閣下の判断に私も賛成です。国王陛下へお見せした後、王国民にも目にさせる事により脅威が取り除いただけでなく、士気高揚のプロパガンダにもなります。強力な魔人でも人間は打ち倒せると軍の威信はさらに高まるでしょう」
「国民にとっても兵にとってもプラスに作用するでしょうね。戒厳令によって不安が広まっている今、大きな効果を生む事になるもの」
「そういうことだ。まあアカツキが言うような軍の威信というよりかは、お前とリイナの名声がより高くなる気がするがな」
「保守派にとっては反感材料を減らす効果もあるでしょうから、それはそれで構いません。国内の揉め事は減った方がいいですから。ただ、注意しなければならない点もあります。著しく可能性の低い懸念ではありますけれど」
「死体が奪われないようにする事か? それについては拘束術式を使えばいいであろうし、吊るす場所も警備がしやすい場所にすれば良いだろう。最も、今の王都は警備体制が厳重だ。死体なぞ奪いに来るような馬鹿な真似はせんだろうし、やれる奴だけだたとてこちらがまた返り討ちにされたら妖魔帝国にとってはますますの痛手になるだけだ」
「そうですね。過ぎた発言をしました」
「構わん。こいつらのように慢心するより用心深い方がずっといいからな。今の話も王都に伝えておこう。ちなみにチャイカ姉妹を搬送する手配はしてあるから明日朝の予定だ。アカツキ、リイナはオレと一緒に王都へ戻れ。陛下への謁見もあるが、特にアカツキは両親などに顔を見せてやれ。彼等はお前の身を非常に案じていたからな」
「分かったわ」
「はっ。ご配慮感謝します」
チャイカ姉妹の処分についてはこれで決定し、マーチス侯爵は部下に用件を纏めて送信するよう命じる。
「さてこの話はここまでだ。だが、別件がある。場を移そう。話しやすい場所はどこだ?」
「リビングは作戦室にしていまし、一階の談話室は姉妹の侵入路になり窓が壊されていたので……」
「狭い部屋でいい。むしろそっちの方が都合がいいな」
「でしたら、僕の書斎はどうですか。外壁を壊した部分の逆の所ですし、二階です」
「じゃあそこにしよう。案内してくれ」
「了解しました」
「旦那様の本邸の書斎は見たことないわね。楽しみだわ」
僕が頷くと、隣にいるリイナは瞳を輝かせる。たぶんいつもの好奇心だろうけど。
「リイナ。楽しみにしてるところ悪いけれど、本邸の書斎だから別邸に移したものばかりであまり残ってないよ。それでも結構な量がまだあるけど」
「そうだったわね。ついつい興味が湧いちゃって」
アカツキとして生きていく前の彼が好んでいた書物は魔術書。今も重宝しているし、勉強に使わさせてもらったものばかりだ。ちなみに僕の家と化した王都別邸の書斎にはこれに軍事学や地政学の本、それに小説が多いかな。この世界の創作は興味深くてとても面白いし。印刷物は産業革命を迎えてさらに値段が下がって流通量が増えたから、識字率が他国より比較的高い連合王国では庶民にも小説は人気だ。もちろん、子供向けの絵本なんてものもある。
その書斎へと今いる離れから僕達は移動する。マーチス侯爵は自分達以外は一切入らず人払いもした。
この時点で僕は機密関係の話があるのだろうと察する。
書斎には読書用の机と椅子以外に、テーブルと二つの椅子がある。確かお爺様に色々と教えて貰った時の名残だったっけ。引き継いでいる記憶が覚えていた。
マーチス侯爵が座り、僕とリイナも着席すると彼は話を切り出した。
「アカツキ。現在極秘裏に進めているあの計画だが、国王陛下より許可が下りた。正式に動いてもいいとのことだ」
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