第2話 武器召喚、それはまるで……

・・2・・

「いやぁ、やっぱり湯に浸かるというのは素晴らしいね。生まれ変わった世界でも味わえて良かった良かった」


 寝汗で酷くべたついた身体は、一時間かけてたっぷりと湯に浸かって身体を洗った事でかなりスッキリした僕は随分と気分が良くなっていた。服装も寝間着からスーツのスラックスとカッターシャツのようなものに着替えた。いくら室内が暖かいとはいえ外は寒い冬の季節なので、カッターシャツの上にはカーディガンも羽織っている。

 さて、自室に戻った頃にはもう置時計は午前十一時過ぎである事を示していた。どうやらこの世界は僕が生きてきた世界と同じく一日は二十四時間らしい。異世界に蘇った意識がある以上、こういった細かい点でも同じなのにはホッとする。

 しかし、この時間帯だと昼食までは今しばらく時間があるなあ。となると、やる事は決まっている。


「この世界はどんな風になっているか、全般的に再確認と整理をしないと」


 これまでの記憶が流入してきたと言うべきなのか、もしくは前世の自分を思い出したと言うべきなのかは未だに判然としない。けれど、前世の記憶もある今においては、この世界について改めて知っておくべきだろう。

 なので僕は自室にある本棚から、まずは自分のいる国、アルネシア連合王国について書かれている本を取り出す。

 題名は『アルネシア連合王国概要書』。単純明快なタイトルだ。前世の記憶とアカツキとしての記憶が混ざっているので、アルファベットを使っているけれど全く単語が違う文字自体は難なく読めた。レーナと話す時に日本語に聞こえるのは謎だけど都合がいいので深く考えない事にする。


「えーと、アルネシア連合王国のデータは……、これか」


 ページを開くと、この国のデータ一覧のページに辿り着いたので僕は目を滑らせていく。

 アルネシア連合王国。この世界の暦であるヨールネイト暦一二四六年に王政国家として成立。今がヨールネイト暦一八三八年だから約六百年前に成立した由緒ある国家だね。

 主要産業は綿織物産業などの軽工業に、近年隆盛してきている機械工業。異世界というと創作作品でちょくちょく見受けられてきた。で、僕の偏見かもしれないけど技術水準は中世ないし近世ヨーロッパ程度だった事が多いんだけど、意外な事にどうやらこの世界のこの国の技術水準は産業革命期くらいはあるらしい。蒸気機関だとか、紡績機だとか産業革命でお馴染みの単語がある事から判明した。鉄道という単語は無いけれど、この様子だとそう時間を待たずに登場するだろうね。というより登場させた方がいい。あれは飛躍的に国を発展させてくれる。もしかしたらこの手の書物と違う、技術書とかには記載があるかもしれない。

 閑話休題。話をこの国などについてに戻そう。

 アルネシア連合王国は、面積が約三十四万平方キーラ――地球でいうキロメートルの事。メートルがメーラ、センチがシーラ、ミリメートルはミーラだ。――で、人口は約三千五百七十万人。首都はアルネセイラで人口百八十万人の大都市。国王であるエルフォード・アルネシアがいる王都だね。前世で言うところの札幌市位の規模と考えるとかなりでかいな。

 次にこの国の位置。アルネシア連合王国はヨールネイト大陸中部に位置しており、西にはフラスルイト共和国、共和国の北には島国のロンドリウム協商連合。そして、この国の南にはイリス法国、この国の北にはスカンディア連邦がある。これも前世地球で当てはめるならば、フラスルイトがフランス、ロンドリウム協商連合はイギリス。イリスがイタリア、スカンディアが北欧三国ってとこだろうか。となると、この国はドイツあたりの立ち位置になるんだろうね。国の統治制度や仕組みはかつてのイギリスに似ている部分もあるけれど、地理的にはドイツと考えると分かりやすいな。

 ちなみにだけど、僕のいるノースロード領はアルネシア連合王国の中でも北東部に位置していた。連合王国の面積の一割程度を占めており、貴族領の中では大きめの部類に入る。首都へも行きやすい比較的な便利な土地だと言えるだろうね。


「ただ、問題は東か。まあ、異世界らしいと言うべきか……」


 アルネシア連合王国の東側国境から三百キロ向こうにはルーディア山脈がある。標高三千メートル級の、日本アルプスレベルの急峻な山脈だ。二百五十年前まではこのルーディア山脈が連合王国の国境だったんだけれど、とある戦争によって領土を大幅に後退させている。


「妖魔大戦……。まあ、異世界ではお馴染みだなあ……。妖魔が何なのか察しがつく」


 ルーディア山脈東部に広大な領土を持つ、妖魔帝国。僕達人間や、人間に近しいエルフドワーフにケモミミを持つ獣人類――獣人類はこの大陸ではなく南方大陸に多いらしい――に対して魔人と呼ばれる者達が主要民族の帝政国家が妖魔帝国だ。知的水準の低い魔物――魔物は山脈から西の僕達の国々にもいるけれど――を支配しているのが、知的水準の高い魔人ってとこだね。うん、あれだ。魔物と魔人ときたら妖魔帝国のトップ、妖魔帝はさしずめ魔王ってとこだな。名称は皇帝らしいけど。非常に分かりやすい。

 その妖魔帝国は二百五十年前に突如として山脈を越えて連合王国などに宣戦布告。戦争をふっかけてきた。それが妖魔大戦だ。

 結果は数に勝る妖魔帝国に連合王国やイリスにスカンディアが惨敗。連合王国は領土の二割五分を失陥という結果になる。イリスやスカンディアも似たような面積を失っているみたいだ。

 しかし、戦争は五年で終了する。原因は不明。以来、国境線は現在のまま保たれている。


「どうして急に侵攻を止めたのかは気になるけれど、これはまた昼食採ってからとか後々だなあ。専門書じゃないと詳しい事までは分かんないだろうし」


 ここは貴族の家だけあって、私有する書物が保管されている資料室がある。ノースロード家は軍人貴族だから軍事資料も豊富だし、専門書も充実のラインナップだ。知りたい事も資料室に行けば見つかるだろう。


「とりあえず、軍の仕組みだけでも今は見ておくか」


 専門的な事はともかくとして、今度は軍事について再確認をしていく。軍に関する記述は書籍の真ん中辺りにあった。

 アルネシア連合王国は徴兵制を採用している。技術水準が前世の十九世紀頃、いやこれだと半ばくらいかな。なので徴兵制の採用もおかしくはない。家の長男やそれなりの金額を国に納めると徴兵免除になるあたり、前世の日本の前の軍、大日本帝国軍の徴兵制に似ているね。ただ、前世と違うのは女性も志願すれば軍に所属可能という点だ。これは、この国に魔法が存在している事が関係している。

 そのアルネシア連合王国軍は平時三十五個師団の陸軍と二個艦隊の海軍で構成されている。ざっと約四十万人の軍隊がこの国を守っている訳だ。練度の方は妖魔帝国と国境を接しているだけあって近隣諸国に比べると高く、特に魔法部門は頭一つ抜きん出ている。国家全体に占める魔法能力者が二割とイリス法国を除く諸国より多いのもあるけれど、伝統的に魔法教育が盛んなのが一番の要因だろうね。ちなみに僕自身も魔法能力者だ。後で魔法を使ってみないと。記憶はあっても実感がイマイチ薄いからさ。

 ちなみにこれら軍は当然国王陛下が最高指揮権を持つんだけど、国王直轄の近衛師団は別として師団の管理と指揮は僕達のような貴族にある。例えばノースロード家の場合、二個師団を国王陛下から預けられているという形で保有していて、有事にはこれを指揮する事になる。つまり、貴族は領地を経営しつつ軍も指揮するという訳だ。ただ、これは僕の仕事ではない。軍の指揮は違うけれど、領地経営は父上の仕事だ。

 父上……。そうだ、父親にはまだ会ってないな。自分には前世の記憶があるだなんてとても誰にも言えないけれど、アカツキとしての記憶は父上にしても母上にしても親類の事については把握している。確か父上と母上は王都で会議と晩餐会などに出向いているんだったね。前世での貴族のイメージは遊んでばかりの放蕩、なんてのもあったけど、実際はかなり忙しいんだね。

 再び話を戻そう。

 アルネシア連合王国は以上のように軍があるんだけど、それとは別に興味深い仕組みがあった。それはギルドの存在だ。

 ここでいうギルドは傭兵組合の事だ。彼等は普段はとある目的で――この目的も凄く気になるけれど、後で再確認する――存在しており、組織されている。

 その目的というのが、国内に存在しているダンジョンの探索だ。いわゆる地下空間のダンジョンは未だに全容が不明で、ここには希少な資源などが眠っている上に製作不能な魔法武器などもある。これらを見つけるのが彼等の仕事なわけ。

 全体の人数はおよそ二万人程度と軍に比べれば少ないけれど、何せ向かう場所は危険だ。よってランクにもよるけれど練度は高い。

 なので国も彼等を保護している。ギルドに所属していれば様々な恩恵を受けられるんだ。その代わり、彼等には有事には戦争に参加する義務がある。ようするに、傭兵組合は半官半民の民間軍事機構みたいなものだね。


「流石、敵国と接する国だけあって戦力は充実している。けど、これはどういう事なんだろう……」


 僕は頭にクエスチョンマークを浮かべたくなるような記述を見つけた。前世には当然なくて、異世界らしい典型と言われればそれまでだけど、摩訶不思議にも関わらずとても馴染み深い仕組みを見つけたんだ。

 それは、


「ギルドは国営採掘事業とは別にダンジョンで、召喚石を発見する任務がある」


「召喚石は我が国だけでなく、諸国においても非常に重要な資源である。召喚石は鉱山の他にダンジョンで発見が可能。召喚石の取得方法は現金で手に入れるか、ダンジョンで発見しギルドで国へ提出する分の半分を発見者の分として手に入れるかの二つである」


「召喚石は武器召喚に不可欠な資源である。武器召喚は王都の他に召喚所と呼ばれる施設にて行われ、その際に必要なのが召喚石である。なお、召喚には一定数以上の召喚石が必要」


「この召喚石により召喚される武器や特殊スキルタロットは国防上重大な影響を及ぼし、最上級のSSランクに至っては戦争を左右する程のものである」


「ただしSSランクやSランクの武器やタロットの出現率は著しく低く、Sランクでも滅多に召喚されず、SSランクに至ってはまさに伝説級の存在である」


 ………………。

 これって、ソシャゲのガチャの仕組みとまんま同じじゃないか!!

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