第175話



 青く美しい円環状の光の奔流が、子飼いの群れを後方から襲った。

 シュルルルルと音を立てながら高速に回転するその円環が、子飼いの上半身を根こそぎ削り取っていく。


 たったの一撃で、後方を走っていた十六の子飼いが死滅した。


 テンジはその攻撃支援が来る瞬間を見逃さなかった。

 再び力強く炎鬼刀を握り締め、左手を自分の胸に押し当てる。


「『鼓動』ッ」


 ドクンッと心臓が強く反発するように鼓動を始めた。

 全ステータスを1.2倍に強制的に引き上げる強化スキル『鼓動』を発動し、全身を強制的に活性化状態にする。

 すかさず次のスキルを発動するために、空いている左手の人差し指と中指をクロスさせる。


「『頞部陀あぶだ』ッ」


 半透明な雪結晶の盾が、九体の子飼いの進行を妨害するように立ちはだかった。

 その妨害をするりと回避したのが五体。


 だが――それで十分。


「『斬結』『号炎』ッッ」


 ぼぅと炎鬼刀の地獄炎が燃え盛った刹那――テンジは子飼いの懐で刀を振りかぶっていた。

 気が付いたときには自分の目の前にいたテンジを見て、子飼いは慌ててブレーキを掛ける。


 しかし、時すでにも遅かった。


 空気を焦がす音とともに、子飼い一体の体が縦へと真っ二つに焼き斬られていた。


 これもスキルを応用した裏技的使い方。

 炎鬼の胸飾りには『号炎』のスキルが備わっており、地獄武器に限定したサイキック効果を持つ。さらに地獄炎を武器の後方から噴出させることで、その勢いを


 テンジは炎鬼ノ対剣を自分の靴底に押し当てることで、その加速効果を自分の高速移動の手段へと訓練していたのだ。最初は地面に転がり続けてろくに使えもしなかった技術だったが、今日調子が良かったので成功すると分かっていた。


 それがまぐれの幸運だったとしても、実践で使えたことは強い自信へと変わった。


 テンジはすかさず次の子飼いを斬り伏せ、斬り伏せ、斬り伏せ――あっという間に壁をすり抜けてきた五体の子飼いを殲滅した見せた。

 それから間もなく、半透明な盾に妨害されていた子飼いたちがそれを力づくで破壊することで一気に押し寄せてくる。


「ごめん、待たせた」


 ちょうどそのとき、助っ人が隣にやってきた。

 先ほど青い円環で群れの半数近くを屠ってくれた能力の持ち主で、この戦場で信頼できる兄のような存在の探索師――黒鵜冬喜。


 テンジと冬喜は横並びで構え、襲ってくる九体の子飼いを見据える。


「大丈夫、僕はまだまだいけるよ」


「強がんなくてもいいんだよ? テンジはここでは本気で戦えないからね。兄弟子として、俺はテンジを守らなくちゃ」


「えっ? 僕が兄弟子だよね? 僕の方が一か月は早かった」


 昔からなぜかテンジは頑なに兄弟子の座を譲ろうとはしなかった。

 妙なところで頑固な性格を見せるテンジの姿を横で見て、冬喜はくすっと笑う。


「まぁいいや。とりあえずこいつらを倒すよ」


「うん!」


 この戦場の中でも希少な火力を持つ二人が合わされば、たった一人を守ることくらい容易なことだった。冬喜とテンジは高度な連携攻撃を以て、あっという間に近くにいた子飼いたちを殺し尽くしてしまった。


 その時間――僅か三分のことだった。


 その明らかに学生離れした戦闘能力に、近くで戦っていた探索師たちは目を疑う。

 連携然り、火力然り、攻撃のバリエーション然り、技術力然り、そのどれもが型破りでハチャメチャのものばかりなのに、全部が一級品。

 型にはまらない才能ってのを初めて見た探索師たちであった。


 二人は白縫千郷を師として仰いだ兄弟弟子。


 千郷の自由奔放で型破りな戦い方は、二人にしっかりと受け継がれていたのだ。

 そんな事実に気が付いたチャリオットの探索師たちは、なんとも言えぬ期待感を彼らに抱く。


 と、ちょうど二人が活躍していたその時であった。



「一旦、引け! 崖上まで退却だ! 殿は私たちが勤める」



 前線から九条団長率いる、特攻部隊が戻ってきたのだ。


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