第123話
「ただいま~。あら、冬喜くんじゃないですか」
「あ~、テンジおかえり~。お邪魔してまーす」
炎鬼と雪鬼の検証も終わり、ここ数日で体の疲労も無視できないものになっていたので、テンジは早めに帰宅をしていた。
早く帰ると決めてからはただでは帰宅しまいと、テンジは一つだけダンジョンに釘を打っておいた。これが吉と出るのか凶と出るのか、明日の結果を楽しみにしていた。
「どうしたの、そんなにボロボロで」
「千郷ちゃんにボコられました」
「知っていましたとも」
テンジと冬喜は軽くジョークを言い合い、同じタイミングでふふっと笑いあった。
テンジが家に帰るとリビングの大窓が開かれており、その奥には庭先で泥まみれのボロボロな姿で空を仰いでいた冬喜がいたのだ。
リビングのソファにはいつも通りの際どい姿で、ヘッドホンを着けながら夢中でテレビゲームをしている千郷の姿もあった。ゲームに夢中になった千郷はまったく周りが見えなくなるため、テンジが帰宅したことにも気が付かない。
テンジは冷蔵庫から二本のスポーツドリンクを取り出し、その足でベランダの大窓に腰を下ろす。足は外へと出し、地面に横たわっている冬喜の頭上に一本のペットボトルを優しく置いてあげる。
「暑くないの? 家の中で涼めばいいのに」
「いやぁ~、今日は一段とひどくやられちゃってね。なんで勝てないんだろ~、ってずっと考えてた。飲み物ありがと」
冬喜はのっそりと置きあがり、冷えたスポーツドリンクをごくごくと飲んでいく。
どうやら相当喉が渇いていたようで、一気に半分ほどが無くなってしまった。
ぷはぁと豪快にペットボトルの口から顔を離し、ゆらゆらと揺れる中身と夕日を重ねるように黄昏ながら、徐にテンジへと話しかけた。
「どうだった? 新しい地獄獣の感触は」
「うーんとね……凄くてちょっと困ってる」
「困ってる、とは?」
「うんとね……現在進行形で第62階層に置いてきてみたんだよね」
「えっ!? あの鬼たちを!?」
冬喜は「何をやってんだ」と言いたげに、勢いよくテンジの顔を見上げた。
しかしテンジはいたって真面目な表情で言葉を続ける。
「うん、あの鬼たちを。そういえばずっと検証したくてもできなかった『地獄獣と僕ってどれくらい距離を離しても大丈夫なのか』って検証項目があってさ――」
「……それで置いてきてみたと?」
「うん、どうせ第62階層なんて人来ないし、炎鬼先生と雪鬼先生には『絶対の絶対に誰にも見られないように、フィールドの端で狩りをすること』って言い含めてるから大丈夫だと思うんだよね」
「まぁ、あのエリアは誰も来ないか。あんな場所で探索なんて馬鹿げてるしね」
「うんうん、たぶん大丈夫だよ。もし見つかっても新種のモンスターとして処理されるだけだろうしね」
「で、何が困ったのさ」
冬喜はもう一度スポーツドリンクを飲むように、ペットボトルに口を付ける。そのまま視線だけはテンジへと向けた。
「それがさ……この調子で経験値が増えると、一週間経たずして次のレベルに上がりそうなんだよね。数の暴力おそるべしって感じ、あと炎鬼先生の遠距離攻撃強すぎ」
「ぶっ!?」
冬喜は「あと一週間で次のレベルに上がる」という言葉を聞いて、思わず口に含んでいたスポーツドリンクを庭先に吹き出してしまった。
意図せずに、霧と夕日で綺麗な光景が庭先に描かれた。
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