酔っ払い皆壇上
酔っ払いの独壇場は大学の飲み会でも会社の飲み会でも幾度となく目にしてきたが,今日はひどかった。まさにカオス。“独壇場”なら良かったが“皆檀上”へと上がっていた。そこかしこにビールの缶は転がり回り,食べ物の食い散らかしたものがBBQ用のテーブルだけでなくお義母さんが趣味で育てている家庭菜園の野菜にまでなぜか散らかっている。魔の悪いことに,そこへ野良猫がやってきたタイミングでお義母さんが例の人のことをとって食いそうな顔でやってきて,「時間でも決めてすればいいのに。いつまでもだらだらだらだら」と言ってまた戻っていった。私だって好きでここにいるわけではないのに。そんな言葉は口に出せるわけもなく,胸にしまっておいた。
「ねえねえ,五時になったら帰ろ」
と旦那に言うと,顔を桃のように赤らめ,トロンとした目つきで「分かった」と言ってあほみたいに談笑に戻った。
「絶対に分かってない時のアホづらだ」
と思ったものの,もうどうにもならない。
昼前から始まった宴会。結局お開きになったのは夜の八時を回った頃だった。
お礼を言ってやっと家に帰ってきたのは9時過ぎ。飲むのは旦那,運転するのは私。それなのにこんなに嫌味を言われて・・・・・・。ちっとも羽を伸ばせないまま休みが終わってしまう。寝るまでの時間をゆっくり過ごそうと考えていたが,そういう訳にはいかない。“だらだらすること”も難しいのだ。
リビングに座ってお菓子をつまみながらテレビを見ていると,旦那の気配がしばらくないことに気付いた。普段ならそれは大変喜ばしいことなのだが,今日に関しては嫌な予感がする。トイレに行くと,案の定ダウンしていた。運転席をおりてから玄関までが半分千鳥足だったため,めんどくさいとは思っていたが家の中でも迷惑かけられてはたまらない。後ろから背中に軽い蹴りを入れながら声をかけた。
「おーい。もうお風呂に入って寝ちゃいなよ。汚いから絶対そこに頭を突っ込まないでね」
「おーん」
おーんってなんだよ。めんどくさくなった私は先にお風呂に入ることにした。毎日の生活にうんざりしながらも,お風呂に入っているときだけはリラックスできる。好きな香りのシャンプーに包まれて,たっぷりと半身浴をしてからお風呂を上がると,まだリビングには旦那の姿がない。いい加減しびれを切らし,イライラを抑えきれずにトイレに行くと,そこには目を背けたくなる光景が繰り広げられていた。便器が吐しゃ物でまみれていたのだ。口元に顔を近づけ,卵が腐ったような刺激臭と胃酸とポテトチップスが混ざった固形を含んだ物体に耐えながら呼吸をしていることを確認すると,旦那の背中に蹴りを入れ地獄絵図のような場から立ち去った。だらだらすることさえもこの世界では許されないのだ。
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