第2話

 子供のように泣き始めた花蓮にどうしていいのか分からず、すぐさま俺は先の言葉に補足した。

「だ、大丈夫だ花蓮。この呪いは解く方法があるんだ」

「そうなの?のろい解けるの?」

「ああ、だがちょっと難しいんだ」

「私、みー君のためなら何だってするよ」

 呪いを解く方法があると知った花蓮前のめりになる。

 俺は、その言葉を待っていたとばかりに読んだばかりのラノベの台詞を抜き出した。

「……ほっぺにキスをする」

「え?」

「俺の呪いを解く方法はほっぺにキスをすることだ」

「…………え?」

 花蓮は、意味が分からないと言わんばかりの形相で俺を見た。

「ちょっとまて」

 感覚的にでた「待て」の合図は俺自身に向けられた。花蓮の顔を見た瞬間、頭に『何を言っている』と言う問いが流れてきたのだ。

 俺はこの質問のおかげで今さっき自分の発した言葉の異常性を理解した。

(俺は今花蓮に、朝起きてほしければキスをしろと言ったのか)

 いかに自分が花蓮に対して理不尽なことを言ったのか分かった俺は、今一度花蓮の顔を見た。おそるおそる、ゆっくりと。

「……っ!」

 生まれて初めて息をのんだ。花蓮は先の言葉の意味を理解し切れてないのか、それとも“キスをする”と言う言葉の意味に困惑あるいは嫌悪しているのか、どちらにせよ固まったままだった。

 瞳に映る花蓮の姿。長く伸ばした髪。筋の通った鼻。鮮やかな桜色した唇。そして、涙で赤く腫れた綺麗な眼。

 溢れだした罪悪感は事一瞬で俺を飲み込んだ。

(俺が花蓮を泣かせた。くだらなく、つまらないことで泣かせてしまった。)

 今更さっきのは冗談だなんていえない。でも言わないといけない。

「花蓮─」

「……分かった」

 すべてはもう後の祭り。

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