第139話 傷
「わかった。助かるよ」
ツアムは再度礼を言ってドアを閉めた。部屋を振り返ると椅子に座っているルッカに告げる。
「どうやらポピルとスキーネはマフィアに目を付けられたらしい。今、手下がしらみつぶしに街の宿中へ宿泊客を尋ねて歩いているそうだ」
「一刻も早く街を出るべきです」
ルッカが即座に言った。
「同感だ。弾を買いに出かけたかったがそれも
そこへ、洗面所から髪をまとめたスキーネが出てきた。ルッカが驚いて立ち上がる。
「スキーネ様、首の包帯は?」
「ん? ああ顔を洗うときに邪魔だから取っちゃった」
「いけません。完治するまでは巻いておかないと」
「大げさね。火傷といっても日焼けみたいなものじゃない。そこの寝ている男と比べれば軽傷よ」
スキーネはそう言って部屋の中央のベッドに腰かけた。そこには体のあちこちに包帯を巻き、額に濡れた布を当てて眠り込んでいるポピルの姿がある。
昨日、立ち往生していていたツアムたちは皮なめし工場に戻ってきた作業員たちの姿を見て安全を確信し、ひとまず弾の補給のために宿へと帰る道すがら、三人の奴隷とともに馬に乗って戻ってきたスキーネたちと再会した。
すぐに怪我の治療をするべく宿の部屋へ入った途端、ポピルは緊張の糸が切れたのかその場で倒れ、そのまま高熱を出して寝込んでしまったのだ。幸い、ポピルは全身八か所に及ぶ擦り傷を負ったものの深刻な銃創は見当たらず、熱を出したのは極度の緊張から解放された心理的なものと、雨に打たれ体が冷えたたことが原因と思われた。
「スキーネ様から離れたのが間違いでした。もう旅行中は片時も離れませんから」
ルッカが固い決意でスキーネに誓う。ポピルの額の布を触ってまだ冷たいことを確かめたスキーネがため息をついた。
「心配性ね。そういえばナナトは?」
「宿の
ツアムが答え、部屋の入口へと向かった。
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