第84話 揃い踏み

 夜空に浮かび、風に流れる雲をナナトは座って見上げていた。


 クインリーが先に劇場内へ入って三分が経つ。そろそろいいかなと思い、ナナトは立ち上がってバルコニーのドアへ向かった。すでにクインリーの姿は見当たらないだろうと思っていたのだが、旧劇場内へ足を踏み入れると、ちょうど一階の前方に誰かが歩いている影を見つけた。どうも男のヒトのようで肩に銃を担いでいる。


 獣人じゃないということはデシラさんでもない。誰だろう?


 ナナトはリボルバー・ライフルを構え、五感を研ぎ澄まして目の前にあった階段を下りていく。二階から見つけた男の人の後を十メートルほどあけて追う形で、ナナトは進んでいった。


 前を歩く男が劇場ホールの入口の前で立ち止まった。ホールの中の何かに気付いたようで、さっと入口に身を隠す。五秒ほど考え込んでいたようだが、しゃがんだまま正面入り口には入らず、左の通路へと歩いていった。すぐにナナトも音を殺してホールの正面入口前へやって来る。男が進んでいった方向を見ると、すでに廊下の角を曲がって姿がなかった。


 ホールの中へ通じる正面入り口の扉は開いている。このままホールの中へ入るか、それとも銃を担いで怪しげな動きをしていた男の後を追うか、ナナトは悩んだ。すると、ホールの中から人の話し声が聞こえてくる。考えた末、ナナトはこのまま正面入り口からホールの中へ入ることに決めた。ただし誰にも姿を見られないようしゃがんだまま、ホールへ入ってすぐに座席の後ろに身を隠す。ホールの中央にはクインリーが立っていて、ステージの上には二人がいる。


 どういうことだ。なぜここにホーパーがいる?


 劇場ホールまでやってきたウドナットは狼狽しながらも、正面入り口から迂回して西出口へやって来た。西出口の扉も全開なうえ、ホーパーとクインリーがお互い話し込んでいるので難なくホール内へ侵入し、一番近くにあった座席の陰へ身を隠す。本心としてはすぐさま立ち上がってホーパーに銃を突きつけ、クインリーに味方であることを伝えたかったが、ここまで急ぎ足で来たためにすっかり疲労困憊で、身体を休めて呼吸を整える必要があった。


 ちょうどいい。二人が何を話しているのか聞き耳を立てよう。

 ウドナットは銃を肩から下ろして片膝をついた。


 ホールから話し声が聞こえる。閂を切断して侵入した奴か?


 熊の獣人カッシュは、用心深く壁伝いに移動しながら声がしてくる方へと歩みを進めた。ホールに入るにはここからだと東出口が最も近い。廊下を進んでみると、うまいことに東出口の扉が開いていた。カッシュは扉の前まで来ると、そっとホールの中を覗いてみる。

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