第173話『アメノヌホコ・2』


かの世界この世界:173



『アメノヌホコ・2』語り手:テル(光子)    






 ヒルデに従って飛んでいくと、出来損ないの綿アメのようにカオスが疎らになってきて、人の形をとった七つの澱がハッキリしてきた。


 澱たちはジェット気流に流される雲の切れ端のような速度で突き進んでいく。澱たちの中ほどには、アメノヌホコが見える。


「あいつら、アメノなんとかを盗むつもりだぞ」


「取り返さなくっちゃ!」


 シャリン! 


 ヒルデがエクスカリバーを抜く、さすがに異世界の名刀、冴えた鞘走りの音だ(*^▽^*)!


 チャリン


 わたしのはシケた音しかしない(^_^;)


「行くぞ!」


 ブワァアアアアアアアア!


 それだけで100メガバイトは使いそうなエフェクトを残してヒルデは突撃した。


「させるかあああああああ!」


 敵に言っているのか、ヒルデに怒っているのか分からない雄たけびを上げて、わたしもつき進む!


 ボン


 レンジの中で卵が弾けるような音をさせて、澱どもが散開する。


 チャリン チャリン


 アメノヌホコを持った澱に打ち込むと、寸前に別の澱がやってきてヌホコを取っていく。


 敵ながら、連携の取れたラグビー選手のようだ。


「「くそ!」」


 ヌホコを持った奴に切りかかると、剣を振り下ろす直前にヌホコが消える。


 消えるのは錯覚で、目にもとまらぬ速さでかっさらわれるのだ。残った澱を切っても、煙を切ったように手ごたえがない。一瞬飛散したようになる澱だが、すぐにまとまってしまってキリがない。


 自分では分からないが、ヒルデが空振りした時に分かる。わたしも、ヒルデから見ると、そう見えているに違いない。


 シュワン! ブワン!


 名刀とナマクラが空を切る音ばかりする。


「ラチが明かないわよ(;'∀')」


「澱とは言え形があるんだ、どこかに欠点がある!」


「欠点?」


「探すんだ!」


 ブワン! ブワン!


 言いながらも手を休めることなくエクスカリバーを振り回している。


 さすがはヴァルキリアの姫騎士、主神オーディンの娘だ、闘志がハンパない!


 接近すると、澱たちの中にボンヤリと神名が浮かび上がる。


 ☆クニノトコタチ ☆トヨクモノ ☆ウヒヂニ ☆スヒヂニ ☆ツノグヒ ☆イクグヒ ☆オホトノヂ ☆オホトノベ ☆オモダル ☆アヤカシコネ


 さっきよりも輝きが増して、存在感がハッキリして来ている。


 放っておいてはロクなことにならない気がする。


「その通りだ、とにかく切りまくれ!」


「分かった!」


 シュワン! ブワン!


 澱たちの神名は一定ではない、追い回しているうちにも、同一の澱の中で神名がコロコロ変わっていく。


「こいつら、まだ神名が定着しないんだ、定着する前に倒すぞ!」


「お、おう!」


 返答はするが、こっちはヴァルキリアの戦士じゃない、息切れがしてくる。


 そう言えば、ムヘンではレベル幾つだったか……


 HP:1500 MP:400 属性:テル=剣士


 忘れかけていたステータスが浮かび上がってくる。


 そうか、HP MPのレベル概念があるきりだったな。


 ん?


 待てよ、HPは20000はあったはずだぞ?


 そうか、スタミナを使い果たしかけている!


 ポーションを呼び出そうとしたが、ストックはゼロになってしまっている。


「白魔法をクリックしろ! テルにもケアルぐらいはあるだろ!」


「わたしが?」


 ケアルはケイトに任せていた、そんな白魔法が……あった!


 MPだけは400あったので、100を使って機関銃のように自分にケアルを掛ける。


 ピピピピピピピピピピピピピピピピピピ


「よし、HP10000にまで戻った!」


 気を取り直して再び澱たちに挑みかかる。


 ケアルを掛けるのに遠ざかってしまっていた。


 急いで戻ると、一つのことに気が付いた。


 エクスカリバーの斬撃にも暖簾に腕押しの澱たちだが、近くに居てあおりを受けた澱のHPは一瞬減っているのだ。HPが減ると、すぐに近くの澱が寄ってきてケアルをかけて回復させている。


 そうか、澱たちが無敵なのはヌホコを持っている間だけで、手放した瞬間から防御力は急速に落ちるんだ!


「ヒルデ、ヌホコを持っていない澱は防御力が低い! いや、無いも同然だ!」


「分かった!」


 矛先を変えて、ヒルデと二人で手ぶらの澱たちを切りまくる。


 数秒で六体の澱を内倒し、最後の一体は、ヌホコを手を伸ばす前にHPを使い果たして消えて行ってしまった。


「よし、ヌホコを返しに行くぞ!」


「こっちよ!」


 アメノヌホコを回収して、ヒルデと二人、イザナギ・イザナミの二神の元に駆けつけた……。

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