第133話『スキルアップしたのだ!』


かの世界この世界:133


『スキルアップしたのだ!』ブリュンヒルデ       






 わたしが本物だから!



 そう主張するユーリアは、八メートルほどの間隔を開けて、それぞれにこんぐらがっていた。


「ハーネスを切って下ろして!」の声も前後して五人分聞こえる。


「うかつに下ろせないぞ……」


 タングリスの言う通りだ、クリーチャーというのは擬態する。五人のうち四人のユーリアは擬態したクリーチャーだ、下ろしたとたんに襲い掛かって来るだろう。


「早くして! 頭に血が上る~!」


 ほとんど逆さになったユーリアが顔を赤くしている。


「腕が千切れそう~!」


 右腕を絡み取られたユーリアの指先が痙攣している。


 他の三人ももがいているうちに増々苦しくなっていく。


「ウグッ!」


 一人が蔦を首に絡ませてしまった!


「じっとしてろ!」


「待て、テル!」


 タングリスの制止も間に合わずテルが飛び出した。わたしもタングリスも飛び出す! 万一の時はテルを助けるためだ。


「来るな!」


 叫びながらテルは地面を蹴る! 


 セイ!


 ユーリアのすぐ脇を通る瞬間に剣を抜き放って蔦を切断した!


 自由になったユーリアは地面に落ちる寸前に大きな蜘蛛に変身、糸を吐き出しながら密林の中、テルを追い掛け回す。




 シャーーーーーーー!




 たった今までユーリアだったそれは、溶けた飴のように糸を引きながらテルを追いかけ回す!


「いま助けるぞ!」


 地面を蹴った! 瞬間でクリーチャーに追いつきツィンテールを振り回して、そいつの背中をたたっ切る! わずかに届かなかったが、引きずった糸を切断した。


 ベチャ!


 糸の切れたそいつは、その瞬間のエネルギーの方向にすっ飛んで木の幹にぶつかってプリンのように四散した。


「姫!」


 タングリスの叫びを最後までは聞かなかった。視界の端に迫りくる三体のクリーチャーを認めたからだ!


「セイ!」


 横っ飛びにジャンプ! 旋回しながらツインテールの一閃をくれてやる! クリーチャーの伸びきった糸を切断! さっきのと同じように地面に激突すると四散した!


 空中で一回転! 次に供えようとしたら、テルとタングリスも一体ずつ倒していた。




「……ということは、こちらが本物か」




「ありがとう、低空を飛んでいたら、急に触手のようなのが伸びてきて絡み取られたの(^_^;)」


 見えない敵に四の字固めをくらったような姿勢で礼を言うユーリア。


「いま、助けるから。テル、そっちを、姫は頭の方を」


 三人で囲むようにしてユーリアに絡まったハーネスやら蔦を切り取る。


「ありがとう、やっと助……」


 その瞬間、ユーリアは手足を広げたかと思うと八畳敷きのチューインガムのように広がって三人を包み込んだ!


 グシュッ グシュグシュ グシュッ


 数秒で捕らえた三人を圧縮すると、圧縮に反比例して地面が口を開ける!


 ズボッ!


 瞬間の吸引力で吸い込まれると、地面は閉じてしまって静寂が訪れた。




「もういいですよ……」




 ポチの声がかかって、我々は茂みから顔を出した。


 ちょっと信じられない光景だった。四体のクリーチャーをやっつけて、振り返ると、わたしを含めた三人がユーリアを助けようとしているところだった。「隠れて」という囁きで身を隠していたら、いまの顛末になったのだ。


「ポチ、いまのは空蝉の術だったな」


「なんか、とっさにやっちゃった……」


 どうやら、ポチの新しいスキルが覚醒したようだ。


「少し後退しよう」


「後退?」


「すれば分かります」


 タングリスの言うままに。密林の中を五十メートルほど後退した。


 ズズズズーーーーーン


 くぐもった地響きがしたかと思うと、次の瞬間、それまで居た密林が山のように膨らんでから爆発した!




 ズッボーーーーーーーーーン!!




「ポチの空蝉に思念爆弾を仕掛けました」


「わたしも、何かを仕掛けた気がする。もう少し下がろう」


 みんな知らないうちにスキルアップ! なんか面白くない!




 ドッガーーーーーーーーーーン!




 前の数倍の爆発が起こり、我々も吹き飛ばされたが、空中で二回転して着地した。


 密林の中、野球場ほどに木々がなぎ倒され、その中央はクレ-ターとなって口を開けていた。


 目的の場所、ヤマタの居場所は、このクレーターの向こうのようだ……。




☆ ステータス


 HP:15000 MP:200 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・280 マップ:11 金の針:60 福袋 所持金:400000ギル(リポ払い残高0ギル)


 装備:剣士の装備レベル55(トールソード) 弓兵の装備レベル55(トールボウ)


 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー) テル(マジックサイト)


 白魔法: ケイト(ケアルラ) 空蝉の術 


 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)  思念爆弾


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士


 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 


 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児


 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6サイズの人形に擬態


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


 


 




 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る