第99話『外洋へ』
かの世界この世界:99
『外洋へ』語り手・タングリス
ロキもケイトも症状が出る前に船酔いを克服した。
ヤコブのお手柄だ。知恵の輪やルービックキューブに飽きる前にバージョンアップした四号の調整に付き合わせたのだ。
シュタインドルフ以来慣れ親しんできた四号なので、ロキやケイトならずとも自分の分身のように愛着がある。
「ほう、変速機を換装しているんだ」
「ローが二段になって、泥濘や雪上での粘りが出て、シフトチェンジもスムーズになったんだ。前面装甲を叩いてごらん」
コンコン コンコン
「微妙に音が違う」
「80ミリの一枚装甲になってる、75ミリを500メートルで喰らっても耐えられるぞ」
「そうなんだ」
「フェンダーの上に見慣れない物があるよ」
「エアーフィルターだ、空気のろ過効果があるからエンジン性能が僅かに上がっている」
「これはなに?」
ひとり退屈していたポチが、付属して積載された木箱に気づいた。
「あ、ああ、それはブィンターケッテンだ」
「「「ブィンターケッテン?」」」
「見せてあげよう」
ゲペックカステンからバールを取り出すと、ズングリの体に似合わぬ敏捷さで下りて、木箱の蓋を一部開けた。
鉄製の瓦のようなものがいっぱい入っている。わたしもグラズヘイム以来のそれを見て懐かしくなった。
「四号は履帯の幅が狭いので、雪中戦や泥濘戦では埋まってしまって動けないことがある。それを防ぐために一枚一枚の履帯にこいつをかますんだ。履帯の幅が1.5倍になって立ち往生しなくなるんだ」
「でも……これを着けたらせっかくのシュルツェンの邪魔にはならないか?」
姫も、見るべきところを見るようになってこられた。
「グラズヘイムは北方です、万一必要になったときの用心に持ち込みました。いずれラグナロクが起こるやもしれませんし」
ラグナロク……最終戦争のことだ。姫の顔が一瞬曇る……お分かりになっているのだ、ご自分の役割が。しかし、そのことは臣下であるわたしごときが斟酌することではない、急いで意識の外にやると、目配せしてテルを誘った。
輸送船シュネーヴィットヘンに乗っているのは所属もまちまちの歩兵ばかりだ。統一した部隊行動などできるはずもなく、乗船中の指揮権は船長が握っている。これからの航行計画とヤコブの処遇確認のためブリッジを目指した。
おっと……。
ラッタルを上がると、グイッと左に体を持っていかれそうになる。
岬を迂回するために船が面舵を切ったのだ。
岬を周ると、いよいよ外洋だ。
希望と絶望が同居する鈍色の神の海、レーゲ海が視界いっぱいに広がり始めていた。
☆ ステータス
HP:7000 MP:43 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー
持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)
装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)
技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)
白魔法: ケイト(ケアルラ)
オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)
☆ 主な登場人物
―― かの世界 ――
テル(寺井光子) 二年生 今度の世界では小早川照姫
ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる
ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士
タングリス トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係
タングニョースト トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属
ロキ ヴァイゼンハオスの孤児
ポチ ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態
―― この世界 ――
二宮冴子 二年生 不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い
中臣美空 三年生 セミロングで『かの世部』部長
志村時美 三年生 ポニテの『かの世部』副部長
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