第86話『エスナル温泉!?』    


かの世界この世界:86


『エスナル温泉!?』    






 三十秒で乾いてしまった。




 ほら、町長の重しが取れた反動で、着いたばかりのエスナルの泉に飛び込んでしまった。


 とっさのことに黒魔法を使うことも出来ずに濡れネズミになって岸に上がった。


 さすがに、ガキンチョのロキも、箸が転んでも笑う年頃のケイトも気の毒そうな顔をしている。タングリスは「申し訳ありません!」とタオル代わりに上着を脱いでわたしを拭こうとし、テルは乾燥魔法がないかとウィンドウを開くし、ポチは頭上でぐるぐる飛び回って、ささやかな風圧で乾かそうとしてくれた。


 その下僕たちのアクティビティーとは関係なく、クシャミ一つする間もなく乾いてしまったのだ。


「まるで、アルコールが揮発していくみたいだ!」


 アルコールの揮発なら気化熱を奪われ寒くなるのだが、それもない。いや、少しはある、石化した町長をボルガの船曳みたいに引っ張ってきて汗みずくだったのが、すっかり爽やかになってしまっている。


「これは乾燥ではなく、泉のエスナの効果なのですよ!」


 タングリスが閃くと同時に胸を張る。


「すまん、もう上着を着てくれ」


 上着を脱いで胸を張ると、タングリスの形のいいバストが強調されて面白くない。


「じゃ、わたしたちも飛び込もう!」


「そうだ、汗びちゃだしね!」


 ロキとケイトが思いつくと同時に泉に飛び込んで他の者も続く。


 なんだか楽しそうなので、わたしももう一度浸かってみる。


 あ~あ~極楽極楽~🎵 


 温泉状態になってしまった。じっさい、泉の周辺は形のいい岩や、盆栽のように枝ぶりのいい木々があって、湯気さへ立ち上っていれば完璧な温泉の風情なのだ。




 けして町長の事を忘れていたわけではない。




 しかし、あまりの心地よさに、もう少し……もう少し後でもいいだろうと思ってしまう。


 ……みんな……町長さんを……町長さんを……直してあげなきゃ……


 ポチが耳元で囁いているのに気付いたときは、日が傾きかけていた。


「みんな、さっさと上がって! 町長の石化を解くぞ!」


 真っ先にタングリスが上がって、みんなを促した。


 泉の効果だろうか、誰言うともなく町長を担ぎ上げて泉に浸けた。


 石化していた時間が長かったせいか、解けだすのに一分近くかかった。


「よし、もう大丈夫だ。我々は先に上がろう。浸かり過ぎていると上がれなくなってしまうぞ」


 ロキは少しムズがったが、ポチに叱られながら上がって、みんなで町長の回復を待った。




「おや……なんで服を着たまま風呂に入っているんです?」




 石化の解けた町長は、そう呟くとスルスルと服を脱ぎ始めた。


「町長、脱ぐな、ここは温泉じゃない! 聞こえてない……ロキ、町長を止めてこい!」


 ロキが飛び込んで、背中を蹴り上げて、やっと町長は正気に返った。


「あ、あ、みなさん!?」


 町長は前を隠しながら、やっと上がってきた……。




 


☆ ステータス


 HP:6000 MP:3000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・55 マップ:6 金の針:0 所持金:500ギル(リポ払い残高35000ギル)


 装備:剣士の装備レベル15(トールソード) 弓兵の装備レベル15(トールボウ)


 技: ブリュンヒルデ(ツイントルネード) ケイト(カイナティックアロー)


 白魔法: ケイト(ケアルラ) 


 オーバードライブ: ブロンズスプラッシュ(テル) ブロンズヒール(ケイト)


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリュンヒルデ     無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘の姫騎士


 タングリス       トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


 タングニョースト    トール元帥の副官 タングリスと共にラーテの搭乗員 ノルデン鉄橋で辺境警備隊に転属 


 ロキ          ヴァイゼンハオスの孤児


 ポチ          ロキたちが飼っていたシリンダーの幼体 82回目に1/6の人形に擬態


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 


 



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