第55話『女神の子たち』


かの世界この世界:55     


『女神の子たち』          






 ユグドラシルはご存知ですか?




 朝食が終わって、子どもたちが後片付けや掃除に取り掛かる時間、院長先生が穏やかに聞いた。


「はい、世界の時間を司っているという伝説の木ですね」


「子どものころに、おとぎ話で聞いたような」


「伝説でもおとぎ話でもなく、ユグドラシルは存在します。この世界とは、ほんの少しだけズレた亜空間に存在するので、世界樹とはいえ、普段は目に見えません。先の聖戦での無理がたたってユグドラシルは枯れてしまいそうになりました。ユグドラシルは三人の女神によって守られているのですが、女神たちはユグドラシルの回復に全力を注がねばならず、子どもたちの世話が出来なくなってしまいました。それで、十年前にわたしが預かることになったのです」


「女神の子ども?」


「はい、女神にはそれぞれ一人の子どもが居て、女神たちの希望なのです。その希望にかまけていられないほどに、世界樹の再生は大変な仕事だったのです。そして、一段落したいま、子どもたちの力が必要になってきたのです」


「子どもが働くんですか?」


「よくは分かりません、後継ぎが必要な段階になったのか、はたまた、子どもたちが女神の力を十二分に発揮するためのブースターになるのか。言えるのは、子どもたちの帰還を喜ばない者たちがいるということです。孤児院に居る限り手出しは出来ませんが、一歩シュタインドルフを出てしまえば守り切れるものではありません」


「それで、わたしたちに」


 グリの声には困惑の響きがあった。


 ブリュンヒルデの供をするだけで一杯なのだ。子どもの世話、それも、どこにあるか分からない世界樹の根元の国にまで届けることは余計なことだ。


「お気持ちは分かります、でも、余計なことに見えて、この仕事はブリュンヒルデ姫さまのおためにもなることなのです」


「姫さまの……」


「創世記二十四章、獄を出でし子らは……」


「あれが姫様の事だと……」


「山羊たちを供として父に見参せんと……試練の子たちと……川を渡りて……共に手を……」


 わたしには分からない神話世界の話のようだ。瞬間視線を落としたグニだったが、顔を上げるとキッパリと言った。


「分かりました。それで、その子らとは……?」




 そのタイミングで掃除を終えた子どもたちが入ってきた。




 終わりました、院長先生!




「ご苦労さま、じゃ、勉強の時間まで遊んでらっしゃい、あ、三人は残って」


 三人だけで通じるようだ。ロキとフレイとフレアが顔を見合わせながら、こちらを向いた。


 三人は連れていけないぞ~(^_^;)


 子どもたちなりに戸惑っていると、庭に通じるドアを開けて、グニとブリとケイトが入ってきた。


「いいことを思いついたわ!」


 明るく言ったブリだったが、わたしたちの様子に戸惑ってしまった。




 なにかあった……?




☆ ステータス


 HP:2000 MP:1000 属性:テル=剣士 ケイト=弓兵・ヒーラー


 持ち物:ポーション・25 マップ:3 金の針:5 所持金:8000ギル


 装備:剣士の装備レベル10(トールソード) 弓兵の装備レベル10(トールボウ)


 憶えたオーバードライブ:ブロンズヒール(ケイト) ブロンズスプラッシュ(テル)


 


☆ 主な登場人物


―― かの世界 ――


 テル(寺井光子)    二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人)  今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトに変えられる


 ブリ(ブリュンヒルデ) 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘


 グリ(タングリス)   トール元帥の副官 タングニョーストと共にラーテの搭乗員 ブリの世話係


―― この世界 ――


 二宮冴子  二年生   不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生   セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生   ポニテの『かの世部』副部長 

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