第35話『穴の向こうから』


かの世界この世界:35     


『穴の向こうから』  







 これからどうするの?




 シリンダー連結帯の群れが遠ざかり、口から飛び出しそうになっていた心臓がやっと胸の真ん中に収まったころにブリが口を開いた。


「待ってる」


「「なにを?」」


 ケイトと声が重なった。


 結界の中にいれば安全なのだろうが、いつまでも居るわけにはいかない。


 とにもかくにも無辺街道を抜け出し、ヴァルハラを目指さなくてはならない。ヴァルハラを目指せと言いだしたのはブリ自身なのだ。


 それに、丸めた背中にグッタリとツインテールを垂れさせているブリの姿は、いささか心もとない。


「無辺街道の警備を任されている者たちの内に力を貸してくれる者が現れる」


「それは誰なの? 連絡とかとれるの?」


「……夕べの月が、そう言っていた」




 ちょっと驚いた。


 たしかに、夕べの月は凄みがあって、イケメンのマッチョがいれば狼男に変身しそうだった。


 変身するかわりに、ブリはツィンテールを解かせて本来の姿を見せた。


 そして、無辺街道からの脱出を決心……したはずだ。


 古来、月の光は心を惑わす。


 夏目漱石は、好きな女性が居たら満月の夜に「月が綺麗ですね」と一言言えば口説けると言った。


 あれは、漱石の実体験だろう。そうやって結婚した女房に、漱石は一生手を焼いている。月の力を借りれば、どこかでしっぺ返しが来るのではないか……。


 文学的な素養のあまり、そんな妄想が湧いてきたところで地響きがした。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………




「シリンダー連結体?」


 怯えたケイトがしがみ付いてきた。


「音が違う……もっと……」


 あとは、ケイトを怯えさせるだけだと口をつぐむ。


 シリンダー連結体はイナゴの大群のようだったが、頭上に迫ろうとしているそれは、グラウンドを慣らすローラーを巨大化させて、それを同時にいくつも曳いているような終末期的なおぞましい響きがある。




 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ………ゴロ ゴト




 地響きが頭上で停まった!




 トール!?




 ブリが呟く……ガチャリ 金属音がしたかと思うと半球状の結界のテッペンに、ジジジとガスバーナーを吹きつけたような光が円を描いていく。


 パカ


 焼ききられたテッペンが落ちてきて、マンホールほどの穴が開いた……。


 思わず結界の端っこに身を避ける。


 わたしよりも一瞬早くケイトが逃げていた。退避行動ではあるが、反応が早くなることはいいことだろう。


 ブリは、触覚のようにツインテールをそよがせて穴の向こうを調べている。


 ――ブリュンヒルデさま――


 穴の向こうから声がした。




☆ ステータス


 HP:300 MP:100 属性:剣士=テル 弓兵=ケイト


 持ち物:ポーション・5 マップ:1 金の針:2 所持金:1000ギル


 装備:剣士の装備レベル2 弓兵の装備レベル2


 


☆ 主な登場人物


 テル(寺井光子)   二年生 今度の世界では小早川照姫


 ケイト(小山内健人) 今度の世界の小早川照姫の幼なじみ 異世界のペギーにケイトと変えられる


 ブリ         ブリュンヒルデ 無辺街道でいっしょになった主神オーディンの娘


 二宮冴子  二年生  不幸な事故で光子に殺される 回避しようとすれば光子の命が無い


 中臣美空  三年生  セミロングで『かの世部』部長


 志村時美  三年生  ポニテの『かの世部』副部長 

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