第29話 11:09
その頃みらいは、“いとこ”の家にいた。何をしていたかというと、テレビを見ている。
今から見る作品は、“いとこ”の紹介でみるアニメだ。どうやら、面白いらしい。巷で聞いたことがあるかなくらいの……。
OPが過ぎ物語が始まった。はじめは「ふ~ん」と興味なさげな様子のみらいだったが、目の前の景色に圧倒された。
テレビの中では、色とりどりのキャラクターが動いてしゃべっている。もしこのキャラクターたちがいたらこんな感じなんだろうな、なんて思いながら。
そして、もし現実にいたら、この子と何したい、あの子とは何したい、あっちの子とは何したい、とやりたいことが膨らむ。
そして、それは「絵」にも表れていた。
私だったらこういう絵柄にするのに。あの子はこんな性格だろうから、こんな絵柄にしたいな。こんな風景は、私だったらもっと青く空を描くな。
いろいろな「もし、私だったら」が浮かぶ。
だけど、その「もし」は叶わない。
なぜなら、――もう絵は描けないから。
私の絵は、ライトノベル向きの絵ではない。そして、その実力もない。それに気づいた瞬間、自分の描くイラストがすべて駄作に思えてきた。今までは、自分の描く絵のことを好きで好きで仕方なかったのに……。
それにもかかわらず、「描きたい」という思いだけが募っていく。
気づけばみらいの眼から雫が落ちていた。
募る思いがあふれてきたが、不思議とそのアニメを見ていると落ち着いた。なんていうか、安心した。このアニメの一枚一枚の絵が、私のことを「大丈夫だよ」と勇気づけてくれているように感じた。
なぜだろう。なぜ、私はこの絵たちからそういうふうに感じたのだろう。
みらいは疑問に思う。その答えは些細なところにあった。
「ん?」
目に映ったものがある。それはみらいから見て、右隣にある本棚の一角にある一冊の本だった。何年も前のモノなのだろう、カバーが少し色落ちしている。
「……あれは」
何かの魔力に憑りつかれたかのようにみらいは本を求めて腰を上げる。そして、それへ一直線に一歩一歩、近づいていく。右足と左足が交互に三回前後したとき、その本は目の前にあった。
その本の題名は『gather one ~あなたへ贈る最高の青春群像劇 開幕~』。手に取ると「……gather one」と題名を小さな声でボソッと呟く。
パラパラとページをめくると、昔の本独特の紙の匂いがみらいの鼻をくすぐった。
この本の匂いは懐かしい。みらいは本が好きだった。
最近は紙媒体だけではなく,電子書籍も普及しており様々な形で本に触れる機会があり,読書の仕方がある。
ただ,みらいはこのページの色,匂い,めくる音,重量感,全てが好きだった。
そんなみらいが見つけた,一冊の本。
「なぜこんなに懐かしい想いになるのだろう」
みらいは不思議がった。
再びパラパラとページをめくる。そこで1人の少女の描写に目を奪われた。
その少女はイラストレーターを目指しており,この少女お挫折をし,時運の絵を否定されさんざんに罵倒され,それでも自分の絵を信じて自分の絵に向き合ってひたすら練習してきたらしい。
その境遇にみらいは,その少女と自分を重ね合わせた。
自分の絵を否定されたとこと。自分の絵に自信を持てなくなったところ。自分の絵に誇りを持てなくなったところ。自分の絵に価値を見いだせなかったところ。
そしてなにより。
自分の絵を他でもな自噴自身が嫌いになってしまったところ。
全てが似ていた。
もう一度,みらいは深く小説のその少女の世界に入る。
すると,みらいの目から一筋のしずくが流れ落ちる。
「辛かったよね。苦しかったよね」とみらいはつぶやいていた。
この少女の気持ちをわかってあげられるのは自分しかいない。
逆に言うと,この少女にしか自分の気持ちはわからない。
そう思うと,たかが紙に載っている文字のはずなのに,まるで深い絆で結ばれているような気がした。
そして,次のページをめくる。
そのページはその少女が挫折して絶望してそれを乗り越えたその先の物語である。
そして,それを読む瞬間……。
——テレビの物語がCMに入った。
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