010 キス

 どのくらい気を失っていたのか、次にジェシカが気がつくと心配そうな顔をしたローグトリアムが上からジェシカを覗き込んでいた。

 頭の下には、華奢で柔らかい感触があり、ジェシカは、ローグトリアムに膝枕をされていることに気が付いたのだ。

 気が付いた瞬間、デレッとした表情になるジェシカの鼻を摘んで、ローグトリアムは怒ったように言ったのだ。

 

「あんま、俺を心配させんな。急に鼻血出すし、倒れるし……。もう、勘弁してくれよ」


 自分を心配してくれるその姿が嬉しくて、ついついにへらと表情を崩してしまったジェシカだった。

 

「ローグちゃん、ごめんね。君が可愛過ぎて私、心臓が持たないよ」


「ばっ、馬鹿かお前!!可愛いのはおま……、てっ、違うから!!何でもないから!!」


「えっ、私可愛い?ローグちゃんにとって可愛く見える?そうだったら嬉しいな!!」


「ばっ!こういう時は、聞こえなかったふりするもんだろうが!!なんで食いつくかな?!」


「えっ?だって、素直に気持ちを伝えたほうが良いって妹夫婦を見て思ったから、実行しただけよ?」


「はぁ。そう言うところが可愛いっつ―の!!」


 そう言ったローグトリアムは、照れ隠しからなのか、未だに自分の膝に頭を預けたままのジェシカに頭突きをしていた。

 しかし、予想以上にジェシカの頭が石頭で額を打ち付けた状態で、痛みで動けなくなっていた。

 

「いってー。ジェシー、筋肉だけじゃなくて、頭も石みて―に堅いのな……」


 そう言ってから顔を離す時、何時もよりもお互いの顔を近いことに気が付いたジェシカは、何かを期待するかのように目を閉じて唇をタコのように突き出していた。

 

 それを見た、ローグトリアムは一瞬可笑しそうに微笑んだ後に、体を倒してジェシカの突き出した唇に自分の唇を近づけていった。

 しかし、後もう少しで触れ合うというタイミングで、ローグトリアムは我に返ったように身を起こしていた。

 

「わ、悪い。俺、もう帰んなきゃ……」


 そう言って、そわそわとしながらローグトリアムは言った。

 目を開けて、未だにタコのように唇を突き出したままのジェシカは、残念そうに言った。

 

「そう……だね。もう日も暮れるし……。残念ですが、お家まで送ります……」


 そう言って、周囲を見渡すといつの間にか日が暮れようとしていた。

 それに気が付いたローグトリアムは、焦ったように立ち上がり走り出していた。

 

 呆然とするジェシカを振り返りながらも走る足は止めずに言った。

 

「わりー!!俺、帰るから!!大丈夫、一人で帰れるから!じゃぁ、また明日食堂でな!!」


 そう言って、走り去る背中をローグトリアムから借りたままのストールを抱きしめながら見送ったジェシカだった。

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