公爵令嬢争奪真竜決戦 3

グランディール公爵家の御令嬢、カルディナ・グランディールの婚約者の座を賭けた、真竜との対決の朝を迎えた。


王都は、ちょっとした祭騒ぎだ。

今回の主役カルディナは、周辺諸国にもその美しさと強さは知れ渡っており、今までも周辺の王族や公爵家から多くの誘いがあったが、このシルフィテリア王国がそれをガンとして認めてこなかった。

それが、この様な形で誰にでも平等にその権利を得られるチャンスをこの国が認めたのだ。

ここぞとばかりに、各国からそれなりの名を持つ、騎士や賢者、そして冒険者等の多様な者達がこの対戦の為に集まって来ていた。

それ以外にも、本物の真竜を見たいという人や、単純に人と真竜の戦いを楽しみにして来た者などで街はごった返していた。

今回の婚約者選定の為の真竜との戦いは、王都で一番大きなコロシアムで行われ、数多くの観客も入れての一大興行の様相を呈してきている。


「なんかカルディナが見世物みたいに扱われて嫌いだな」


タクミはこの馬鹿騒ぎにちょっといらついていた。


「タッ君、今からそんなんじゃ足を掬われるよ」


フラムがタクミの様子を見て、落ち着かせる様にゆっくりと注意してくれる。

今、タクミとフラムが居る場所は、コロシアム内に設けられた、婚約者候補の為の控室だ。

このコロシアムには大小6ヶ所の控室があり、それぞれに50人から70人くらいの選手がスタンバイしている。

全体では、おおよそ350名くらいだと思われるが、最初の申し込みでは、5万人を越えていたそうだ。

ただ、あまりにも多過ぎたので、書類選考で抑えたようだ。


「ん、気をつける」

「うん、それにこの試合、王族が何か仕掛けてる可能性は高いと思っていた方がいいよ。たぶん、どう転んでも王族の利益になるように仕組まれていると考えた方が納得できるもん」

「そうだよね。普通に婚約者探しをする訳がないか。わかった、もし、フィールド外で何か変化があったら教えてね」


「うん、分かった」


フラムは今、タクミの横に座って話しているが、異様に近いので顔も重なるほどの状態で話をする姿勢になっていた。

その為か、周りの男性達が異常な殺意をタクミに向け始めている。


「くそ!見せつけやがって! 彼女が居るんなら、ここに来るな! モテる奴はみんな爆発しろ!」


控室は様々な呪いの言葉がぶつぶつと飛び交っていた。


「ここに、タクミ・カーヴェルと言う少年はいるか?!」


突然控室の入口に鎧を着た衛士が入って来てタクミの名前を呼んだ。


「はい、僕がそうですが?」


何だろうと首を傾げながら、立ち上がるタクミ。


「ふん!お前がそうか。殿下!ここにおりましたぞ!」


どこか高圧的な態度の青年衛士が、外にいる人物にタクミが居た事を告げる。

すると、同じく鎧に身を包んだ青年が赤いマントをなびかせ入って来た。


「皆の者!頭が高い! セレイド・シルフィテリア皇太子殿下の起こしである!」


青年衛士の号令で、控室に居た人間に緊張感が走り、一斉に片膝を付き平伏の意思を表した。

もちろんタクミもフラムも同じ様に平伏する。

色々思うところはあっても一国の王族で、しかも次期王位に一番近い存在のセレイド皇太子である。

あくまで平民が対等に話しをして良い存在ではないし、この様な場所に現れること事態、考えられないはずなのだが。


『いったい何の用だろう?』


「タクミ・カーヴェルはどいつだ?」


セレイド皇太子殿下がゆっくりと平伏する皆を見回しながら先ほどの青年衛士に問い掛ける。


「は! そこにいるラングトン大学の制服を着た少年です。」


そう青年衛士が答えると、タクミの姿を確認し数歩近づいて止まった。


「そなたがタクミ・カーヴェルか? なんだ、ただの少年ではないか? しかも、かなり小さくないか? カルディナの推薦枠で今回の真竜対戦に挑む者がどれ程の者かと思ったが拍子抜けだったな」


ひざまずくタクミを上から見下ろし、口の端を上げ嫌味たらしく笑う皇太子。


タクミやフラムは顔を上げてる訳ではないが、それでもその表情が解るほどに皇太子殿下の言葉に嫌なものを感じる二人だった。


「そなた、大学の新入生でありながら院生への飛び級試験を一発で合格したそうだな?」


殿下の言葉に周囲がざわめきだす。


「おい、あんなのが飛び級院生なのか? 嘘だろ? もしかして大学のレベルが相当に落ちたのか?」


一応には凄いと言っている中でも中傷するような言葉が所々聞こえて来る。

タクミはいっこうに気にしていないようだが、フラムの方がそうはいかないようだ。

平伏し表情は見えないが、地に付ける握る拳に異常な力を感じられた。


そうとう怒ってるな、フラム。

『フラム、僕は何とも思ってないから冷静にね』

『・・う、うん・・で、でも・・分かった・・・』


念話でフラムを宥めるタクミは、何事も無ければ良いと願う。

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