大学ライフ 7
僕達は今、ようやくと言って良いほど久しぶりに学生寮に戻って来ていた。
あれから、エルの神聖療法術で、何とか一命は取り留めたキーザ。
国立の医療施設へ搬送されたのを見送ったあと、大学関係者や王国の役人の事情聴取を僕たちを始め、全校生徒が受けた。
ただ、事件の内容にしては、捜査の内容が簡単過ぎる気がする。
「それは、私も思いました」
院生の特別寮棟の中にある、院生達が話し合いや、寛ぐ場所として使っているサロンで僕とカーリー、エルとシロ、ルゼ、そしてクロちゃんも内緒で集まり、今回の事について話し合っている最中で、ルゼが僕の思った事と同じ事を思っていたと教えてくれた。
「聴取もごく簡単に、怪物らしきも物を見たかくらいでしたし、キーザ君の事は何も聞かれませんでしたしね。ただ、タクミさんや、カーリーさんの事は根掘り葉掘り聞かれましたけど」
「まあ、僕たちの事を色々聞くのは当たり前なのだけど・・・」
「いえ、事件には関係ない、プライベートな事まで聞かれましたからちょっとおかしいかなって?」
「そうなんだ。まあ、今はそれは置いといても良いかな? それより、クロちゃん、あの悪鬼が何故、復活したのか、何故あんな形で消えてしまったのか分かる?」
僕は、ソファーに座り、優雅に紅茶を嗜むクロちゃんに疑問に思っていることを聞いてみた。
ちなみに、クロちゃんは六花亭で働いているところを無理矢理来てもらったので、お店の制服のままでいる。
これが、ちょっと男性客の為のサービス用としか思えない短いスカートと胸を強調したデザインだったのでシートの柔らかいソファーに座っていると生足の殆どが見えてしまい目のやり場に困っている。
それをカーリーは何故か分かって、腕を抓られてしまった。
「まず、悪鬼の事は先ほど説明した通りで、伝説にしか出てこない様な種族で現在は滅亡して存在していません。ただ、伝説では、神によって各地に封印されているという事です」
「それが何故、こんな形で復活したのか? なんだよね」
「伝承では鬼は封印鉱石と呼ばれる、神聖封印の術式が施されたこの世界で一番固い金属に封印されていると言われています。それがなんらかの事情で封印が解けたんだと思います」
「封印が解けるなんて事、あるんの?」
カーリーがクロちゃんに素朴な質問を投げかける。
「ありえないとは言い切れません、ただ、神聖封印は普通の人間では決して破れるものではないですし、破壊しようにもその金属が硬すぎて今の人間の技術では不可能だと思います。可能性があるとすれば、神自信が封印を解くか、神に匹敵する者が現れ封印を解いたか、あるいは封印鉱石に、未知の力が加わり破壊されたかのどれかですね」
クロちゃんは一通り説明すると、飲みかけていた紅茶をまた手に持ち啜りはじめる。
それにしても、紅茶を飲むす姿がやけに様になっているんだよね。
まるで、どこかの貴族令嬢みたいだな。
そんな風にみとれていたら、またカーリーに腕を抓られてしまった。
ごめんなさい。
「神が直接、封印を解くのは無しとして、神と同格の者なんて実際いるのかな?」
僕はそんな人間が存在するとは思えなかった。
『おられるじゃないでか。』
突然、エルが念話で話しかけてきた。
『居るって、どこに?』
『目の前ですよ。タクミ様に、カーリー様やそしてヴェルデ様や、フラム様ですよ』
『あ!そういえば、僕達って神格を持っているんだっけ?』
『そうですよ。タクミ様達は将来神様になられるだけの条件をお持ちなんです。そういう方ならあるいは封印を解くことも可能でしょう』
うーん、と言う事は僕たちみたいな人間が他にも居るって事なんだろうな。
その人がもし悪意を持っているなら今回の様な事を起こすのかも?
でも、何が目的なのか分からずじまいだからな、キーザ君に意識が戻って聞いてみるしかないのか。
「あのー、良いですか?」
「どうしたのルゼ?」
怖ず怖ずと小さく手を上げて質問してくるルゼに僕は答えてあげる。
「そのですね、さっきから時々、頭の中にタクミさん達の会話みたいなのが聞こえて来るんですけど? 何か話されています?」
みんなが一斉にルゼの方を向く。
「!!!!!」
余りにもみんなが一斉に自分を見て来たので、相当狼狽しているようだった。
「ど、どうしたんですか?みなさん!!」
「今、私たちの会話が聞こえたの?」
カーリーがルゼに確認すると、小さく頷く。
これは、参ったな。
さすが、エルカシア信教の巫女さん(見習い)だけの事はあるのか?
『エルカシア信教は弱小ですけど、教徒はけっこう優秀な人材が多いんですよ。この大学で、タクミ様と同じく、院生の飛び級で合格するルゼもその一人です。それにルゼは、タクミ様達とお友達になって結構心を許されていますでしょう? 才能があってそうなれば、私達の念話も聞こえるかもしれません』
「仕方ないね。ルゼ」
「はい!?」
「今の話は、当分ルゼの心の中だけに留めて置いてくれ。鬼の事なんか普通の人には信じて貰えないと思うので、内緒にしてくれない?」
「判りました。私も全部聞いた訳でもないですし、また説明してもらえると思って待っています」
ルゼには後で色々教えておいてあげよう。
悪い子じゃなさそうだから大丈夫だろうと思う。
それより今は、キーザ君の意識が戻って国の調査で何か分かることを願って待つことにしよう。
「取り敢えず、今はキーザ君の調査待ちと言うことで、今日は解散にしよう」
「話は終わったわね!」
いつの間にかヴェルデがサロンにやって来ていた。
「今日はご苦労様! とにかく疲れたでしょうから今日はお風呂にでも入って疲れを癒しましょう! と、言う事で女子はみんなでお風呂に行くわよ。大学の浴場は、結構凄いから楽しみにしているのよ!」
そう言って皆をヴェルデが連れて行った。
僕も今日はゆっくりお風呂にでも入りますか。
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