ラングトン大学 試験編 2

僕達は今、ヴェルデ先生を正面に立っている。

そこから見て左奥と、右奥の幅10メートル位ありそうな扉が、今の言葉を合図に開かれはじめた。その先には広大な運動場が・・・・じゃない?!


「あー、言っておきますけど、普段は訓練場とか運動場として使用しているけど、今回魔術で土地の形状や障害物を出現させて色んな地形が楽しめるようになっているから堪能してね」


とか言ってウインクするヴェルデ先生。

何故、僕に向かって?

カーリー、最大級の威嚇しない!


「それともう一つ! 使役獣は使用禁止です。あくまでも個人の資質の確認の為ですのであしからず!」


十数人から。えー!という避難の声が上がっていた。僕ら以外もやっぱりいるのか、使役使い。まあ、聖獣とは限らないから魔獣かもしれないけどね。


『エル、と言う事でここで留守番頼む』

『シロもいい子にしててね』

『はい。タクミ様もカーリー様もお気をつけて下さい』

『カーリー様なら魔獣の100や200、容易く葬れますぞ!』


いやシロ、いくらカーリーでもそれは難しいと思うけどね。


「それじゃまず支援魔術かけるよ」


「待って、タクミ君。支援魔術は今回無しでお願い。私もタクミ君、程じゃないけど強化魔法は使えるし、シロを使役したことで基礎力が全て向上しているみたいだから、それだけでどこまで出来るか挑戦してみたいの」


真剣な眼差しで、自分の今の力を試したいと言ってくるカーリーに僕は何も言う事は無い。


「いいよ。思い切ってやって、どれくらいカーリーが強いか、ここに居る新入生や教師に見せつけてやれ」


僕は微笑んで言葉を返す。


「うん!」


物凄く嬉しそうに頷くと、開いた扉の中へと弾丸の様に飛び出して行った。さて、僕もこうしちゃいられないな。

僕は、カーリーと一緒にジェナさんの指導を小さい頃から受けていて一通りの体術をマスターしていたが、カーリー程の瞬発力と体力は無かった。

ここは自分の得意の魔術で能力強化で対抗しよう。


「光属性発動、魔術式展開。」

「防御耐性、火炎耐性、冷気耐性、電撃耐性、魔法耐性、毒耐性、反射能力、視覚能力、身体能力、魔力能力、上昇!」


今、僕の強化魔術で安定して展開出来る最大数を自分に掛ける。無理をすればこれの倍は出来るのだが、効果がまちまちなので今回は特にやめておく。


『じゃあエル、行ってくる』

『はい、お気をつけて』


僕は、エルに見送られながら扉の方へと向かって駆け出す。

今まで居た広場が何気に気になり、後ろを振り向いてみる。

そこには、3分の1近くの入学希望者が何するわけでも無くただ立ち尽くしていた。

日和見かな?

話のネタにただ来てみただけという者も居るのかもしれないな。

それとも、先行した者が手傷を負わせた獣を横取りでもするつもりだろうか? いずれにしても、時間制限をされているわけじゃ無いから、もし今終了と言われたらどうするんだろう? ま、僕は僕の事をしよう。

色々と考えているうちに扉をくぐり抜け試験場の中へと走って行く。


「あそこが良いかな?」


僕がいるこのエリアは密林地帯か。色々な木々が生い茂る中、少し高くなった大きな古木があったので、その茂る枝に飛び移りなるべく上方で周りから見えにくい場所を選び身を一旦沈ませる。


この木、本物だな。


どこかからエリアごと召喚したんだろうか?

色々考えてしまうが、まずは周囲の状況確認が必要だ。


この木はまだ試験場の入口にあって、まだ多くの人間が近くの茂みに身を隠していたり、周囲に警戒しながら歩みを進めている者等が近くに確認出来た。

今度は視線を先へと向けると、おおよその全体像が見える。


「しかしこの運動場は広すぎるな。」


魔法の訓練や格闘や剣術の訓練もするようなので、ちょっとした演習が出来るほどの広さを持っているとは聞いていたけど、障害物も出来たせいで先の端が見えないというのは少し可笑しいんじゃないか?

ただ、木々や石山等の隙間から、観客席の様な物が見えるから、どこかの異次元の中なんて事はなさそうだ。

さて、この密林エリア以外は・・2つか。

草原エリアと石山エリアの合わせて3つのエリアが隣り合って存在している。そして草原エリアは遮る物が殆ど無いので対象の獣らしき物がはっきりと確認出来た。


「あれは、なんだ?」


あまりこの世界では見たことが無かった獣が4、5頭、群れて周囲を警戒している。


『エル、あの獣みたいなの見える?』


エルとは意識下で繋がっているので僕の見た物を離れていても認識出来る。


『はい、あれはドラゴモドキですね。一応最下級クラスですけど、魔獣ですよ。』

『え?それって危なくない?』

『そうですね、冒険者のFクラスですと単独では殺されますね』


おい、おい、大丈夫なのか? 学校側としたら死人が出る様な試験しても良いのか? たぶん教師のホローはあるのだろうけど。取り敢えず目の前の事を片付けようと、僕は、草原エリアに向かう事にした。

途中、エルからドラゴモドキの事について聞いてみた。

それによると、ティラノサウルスを小型化した肉食恐竜の様な姿をしているようだ。

ドラゴン種でも最下層に位置する魔獣で、足が速いのと炎を吐くのが特徴らしい。


「魔力紋は、確認出来た。索敵してみるか」

「闇属性発動、索敵術式展開。」


ちょっと解説すると、魔力紋とは各種族特有の魔力の波みたいな物があって、これを元に闇属性で索敵すると、おおよそ半径1キロメートル程度の範囲内にいる同種族を数、位置を正確に把握することが出来るという便利な魔術なんだ。

ちなみに、闇属性って魔の物とかそう言う類いでは無く、5元素プラス光元素魔法以外を闇属性と言っているようだ。


「え~と、げ! 32匹も居るぞ。これも召喚したんだろうか? 兎に角密林エリアには、殆ど居ないみたいだし、草原エリアに行ってみるか。」


隠れていた木から降りると、身を屈め周囲を注意しながら草原エリアの方に走り出す。

ドラゴモドキが居なくても他の魔獣が居ないとは言い切れないからね。

身体能力が向上させているので、目的地まではそう時間はかからなかった。

密林エリアは特に変わった様子も無かったので、魔獣はドラゴモドキだけなのかもしれない。

密林の切れ間に潜み草原エリアの方に注意すると、今まさにドラゴモドキと戦っている集団が見えた。男3人に、女の子2人が1匹のドラゴモドキにかなり手こずっているようだ。


「おい! 早く支援魔法使いやがれ!」


そう怒鳴っていたのはさっきのキザ男のキーザ君だ。金色の柄の長剣をブンブン振り回しドラゴモドキを近付けさせないようにしていた。


「キーザ様、一度引いて貰えませんか! このままではキーザ様も巻き添えになります!」


魔術を展開し、攻撃魔術の態勢になっているのだか、いかんせん、キーザ君がなかなか引いてくれないので撃ち込む事が出来ないようだ。


「何を言っている! 私がこうして食い止めているんだ! その隙に撃ち込む事くらいなんでも無いだろう!」


「しかし、そう動き回られたら無理です!」


これは、難しいぞ。

曲がりなりにも戦っているのはこの2人だけで他の子等は剣や魔法を使用しようとする格好だけで足が震えて実行出来ないようだ。この2人も戦いは素人同然だし、打開策が無くやられるだけだ。


「金払って雇ってるんだ! それなりの働きをしろと言ってるんだ!」


「そんな事言われても、入学が決まって冒険者登録したばかりなんですよ! いきなり実戦なんて聞いてません!」


なるほどね。

あのキーザ君、護衛か何かの為にあの子を雇ったのか。不毛なやり取りしていたせいか、体力が無くなって来たのか、キーザ君の足元がもつれ倒れかかる。普通ならここでキーザ君目掛けてドラゴモドキが攻撃するはずが、向きを変え魔導師の女の子に突進してきた!


「まずい!」


僕は声を発するのが早いか、その女の子に向かって走り出していた。


「くそ! 間に合うか?!」


ギリギリのタイミングに焦りそうになった時、声が響いて来た。


『タクミ君! 女の子の方、お願い!』


声が聞こえた瞬間、ドガッ!という鈍い轟音がしたと思ったらドラゴモドキの顔ご明後日の方に撥ね飛ばされ、進行方向が大きくそれ、そのままドシン! と地に体を横たえてしまった。


「カーリー、ナイスタイミング!」


僕は親指を立て、カーリーに合図する。カーリーも同じように合図を返して来た。

その様子に何が起こったのか解らず呆然とする5人の姿があった。


「カーリー! まだ来るぞ!」


「了解! タクミ君! 押していくよ!」


そこには、怯える女の子では無く、戦いを真剣に向き合う深紅の鬼姫こと、ジェナさんの娘が居た。


なんで、こんな凄い女の子が僕の事、好いてくれるのだろう?

と不思議に思うと共に嬉しくも感じていた。

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