冒険者 5
僕と、カーリーは大通りを王都の中心部に向けて歩いていた。
行き交う人々の中には僕たちの後ろをついて来る白い獣が気になるようで時々振り返ったり、小声で何かを話し合っているようだ。
『やっぱり珍しいのかな?』
『そうでもないですよ。魔術式で強制的に使役する方法が作り出されてからは、結構使役する人も増えているそうです』
『術式? 強制的になんて出来るんだ』
『はい。ただし一定の魔力を術式を通して魔獣や聖獣に送り続けなければ、術式の崩壊を招いて最後には食われてしまいますが』
『え? シロは私の事を食べたりするんですか?!』
カーリーも気になるのか、話しに加わってきた。
『それは有り得ません。カーリーさんと我は、お互いの信頼関係で成立する使役契約をしておりますれば、魔力供給は、必要性ありません。』
『良かったー。もしシロが私を食おうなんてしたら、またボコボコにしなきゃいけないのかと思って心配しちゃったよ♪』
『し、心配には、お、およびま、せん。カ、カーリー様と信頼関係で結ばれている、わ、我が、そのような・・なななな』
シロさん足が震えてますよ? よっぽどカーリーに負けた時の事がトラウマになってるのかな?
『ところでエル、使役獣持ちってどれくらい、いるの?』
『そうですね、以前管理神だった頃に把握している数でいえば、魔獣で30~50人に1人、聖獣になると100人に一人ですかね』
『案外いるんだね。ちょっと安心した。』
『はい、でも聖獣使いとなると、その力は個人としては大き過ぎますから、国がほっとかないと思いますし、聖獣は高く取引されているとも聞きますので、注意はした方がいいです』
げーマジですか。あんまり聞きたくなかったな、それ。
『ちなみに私は神ですし、シロは神獣ですから、それを使役しているとなるともう伝説級になりますので』
何故か、エルが、えへん! と言っている様に見える。
胸をグイッと前に張り出して踏ん反り返っていた。
しかし、それは絶対秘密だな。カーリーにも絶対口外しないように言い、シロにも勝手に神獣に戻るのを禁止するよう言い聞かせる。
僕たちは今、ラングトン大学に向かうべく王都の中心に向かっていたが、昼も近くなっていたので、先程ギルドを出るとき受付のお姉さんに聞いていた露店街のある小路へと向かう事にした。
「すごーい! 大通りとは違う賑やかさだね!」
カーリーが目を丸くして喜んでいる。僕もちょっと驚いていた。
トネ村ではこんなに露店が集まるところなんか無かったし、これだけの人がそれほど大きくない道にひしめき合っている光景は、この世界に来てからは見たことが無かったからだ。前世で言ったら大きな神社で初詣に来て両脇の露店の間の参道を歩いているのと良く似ている。ただ、そこで売られている物は、食べ物屋ばかりでなく、生活必需品を売る店や、雑貨屋、家具屋に宝石店まで多種多様な店が軒を連ねていた。
「ねぇ、タクミ君ちょっとそこのお店やさん、見て良いかな?」
そう言って指差した先には、綺麗な布が軒先に並べられ、その奥には綺麗な服やドレスが吊されていて、その下の棚には、色とりどりの宝石や装飾品が所狭しと陳列されている。
今、カーリーが着ている服はジェナさんが若い時、冒険者として使用していた服を直したものらしいが、瞬発力や早さを重視しているそうで、ノースリーブのシャツに短めの上着を着、ミニスカートの上に後ろ側をガードする為らしい長めのスカートを重ね、防具も肩当てと膝当てと極力重くしないシンプルな仕様になっていた。
これはこれで十分可愛いらしさもあると思うんだが、女の子に取ってはこういう類の物は永遠に憧れる物なんだと、前世の奥さんに教わっていたので快く了承する。
「それじゃ僕達は向かいの武器屋にいるからね」
「ありがとう、ちょっと行ってくるね」
嬉しそうに店屋の中に飛び込んで行ったカーリーを見送り、僕とエルは色々な防具や剣が置かれた店の中へと入ろうとした。
『あれ?そういえばシロは?』
ふと、カーリーが店の中に入るときシロの姿が見えなかった様な気がしたのでエルに尋ねてみた。
『え? そう言われれば見てない気がいたします』
曖昧に応えるエル。
確信が無いのだろう。ただ、今のシロが勝手にカーリーの側を離れるはずも無く、ちょっと嫌な予感が脳裏を過ぎった。
心配は無いと思うが念の為だ、シロに何かあったらカーリーが悲しむからな。
『エル、ちょっと様子を見てくるから、カーリーの方は頼んだよ』
『え? でもそれではタクミ様に何かあった時に私が困ります』
『シロの行方を探すだけだから大丈夫。それに何かあった時こそ、僕との念話が多少距離があっても出来るエルがカーリーの側に居てくれないと連絡のしようが無いからね。さすがにカーリーとシロの間ではそこまでの遠距離念話はまだ出来て無いみたいだし』
『解りました。カーリーさんの事はお任せ下さい。』
『じぁ、行ってくる』
エルの頭に、ぽん!と軽く手を乗せてから元来た場所へと向かった。
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