戦士と子供達の小さな冒険2


 三人の我が子はすでに恐るべき強さを身につけていた。

 それぞれが得意な戦闘スタイルを自覚し、クララの指示のもと、熟練冒険者顔負けの包囲で敵を確実に仕留める。


 クララが年齢とそぐわぬ高い戦闘能力を有しているのは記憶していたが、下の二人までそうであったのは驚愕の一言である。親の贔屓目を除いてもこの子達は戦闘の天才だ。末恐ろしいと言うほかない。


「お父様~、魚を獲ったよ」

「俺はおっきい蟹! 食べ応え抜群!」

「僕は二人みたいなのは獲れなかったけど、代わりに近くに生えてた香草を摘んできたよ」


 川辺ではしゃぐ三人は本当に楽しそうだ。


「大漁だな。戻ったらみんな驚くぞ」


 頭を撫でながら褒める。

 三人ともくすぐったそうな表情をしてから満面の笑みで走って行った。それから三人はなぜかストレージから鍋を取り出し火を作った。


 ここで食べるつもりなのか? 

 昼食にはまだ早いと思うが。


「団長の子供とは思えないほど優秀。三人とも今すぐ即戦力として欲しい」

「確かに強いがまだ子供だ。子供は戦闘などせずのんきに遊んでいれば良い。できすぎるのは後々に後悔を作る」

「お、経験談じゃん? 騎士の家に生まれたキアリス坊ちゃんには庶民には分からない苦労が多そうじゃんかよ」

「うるさい。私とて望んだ生まれではない」


 キアリスとタキギがにらみ合う。

 実はこの二人仲が悪い。いや、タキギが一方的に対抗意識を燃やしているが正しいだろうか。


 漫遊旅団がというよりこの場合冒険者がだが、この業界では訳ありの者が多い。複雑な過去を持つ者がゴロゴロしているのだ。タキギがキアリスを意識するのも過去に騎士や貴族と何かがあったからだろう。


「漫遊旅団は生まれも種族も地位も関係ない。必要なのは強さだ。あ、あと協調性な。文句があるなら話を聞いてやる」

「オイラが悪ぅございました」


 注意するとタキギはあっさり折れた。

 反対にキアリスは意外そうな顔で俺を見つめる。


「そうか、貴様は身分を気にしない男だったのか。すでに数年の付き合いだが初めて感心したぞ」

「失礼だな。団長だぞ」


 この団って無駄に態度でかい奴多くないか?

 まぁ、みんな信頼できる良い奴には違いないが。



 ◇



 島の西側に位置する森には『トーチ遺跡』と呼ばれる謎の建造物が存在している。

 名前は俺が付けた。儀式で用いられるようなたいまつに外見がよく似ていたからだ。非常に興味深いのは異大陸では見かけないデザインと構造である点だ。実は未探索としているがすでに遺跡に詳しい者達によってその大部分は調査されている。一通り安全が確認された上で子供達を連れてきているのだ。


 もう後先考えず飛び込むような無謀馬鹿はいないのである。我が子第一。安全第一。


「冒険の時間だ。どこから探索する?」


 問いにクララがしばし思案する。


 この遺跡は小規模だ。探す場所も限られ子供の冒険ごっこにはうってつけである。

 しかも事前にお宝を各所に隠してある。あくまで今回は思い出作り。親と子が理解を深める場だ。成果は求めていない。


「オイラ達は周囲の警備にあたるじゃんよ。父親らしくしっかり褒めてあげるじゃんか」

「よ、余計なことを言うな。早く行け」


 子供達を褒めたくしてしょうがないってばれるだろうが。

 方針を決めたクララが二人の弟へ指示を出す。


「ノックスは魔物の排除。カイトは罠がないか確認しながら違和感がある箇所を探して。私も索敵をしながら遺跡を調べるわ」

「オーケー」

「うん。任せて」


 三人は揃って動き、遺跡を調べ始めた。


 一応俺もグランドシーフでお宝がありそうかを嗅いでみたが反応はなかった。

 ただ、俺にとってのお宝なので価値のあるなしはさすがに判別できない。稀にだがシーフの感覚を阻害する道具や遺物もあったりするので絶対にないとは言い切れないのだ。


「壺があった! すっげぇ、これが遺物か!」

「こっちには土の人形があったよ」

「・・・・・・私はナイフを見つけた」


 クララがじっと俺を見つめる。


 あ、これ、ばれてる。


 二人はともかくクララは察していた。

 そうなんだよなぁ。クララは聡いから逆に気を遣われることが多いんだよなぁ。だが、これでいい。先に述べたが成果は二の次だ。子供だましでもいいのである。


 何かに気がついたクララがはっと表情を明るくする。


「お父様、このナイフってもしかして――」

「クララは賢いな。そう、それは俺がここに隠した特注のナイフだ。柄と鞘の部分を見てごらん。エイバン家の印が刻まれているだろう?」

「貰っていいのっ!?」


 俺は微笑んでこくりと頷く。


 知り合いのドワーフに頼んで造ってもらった特別な品だ。それだけでなく素材も厳選し古代種が編み出した特殊な製法を用いてそれは造られていた。エイバン家でも俺の家族だけが持つ一族の証である。


 それぞれ次の誕生日に贈ろうと思っていたけど、その場に俺がいるとも限らないので先に贈ることにしたのだ。


「クララお姉ちゃんいいなぁ! 俺は!? 俺のは!?」

「僕も欲しい! ないの!? あるの!?」


 ノックスとカイトが足にしがみついてくれくれと訴える。

 もう遺物よりナイフに夢中だ。


 そうだろうそうだろう。欲しいだろう。なんせ三十人のドワーフが揉めに揉めまくったあげく数ヶ月かかってデザインを決めたんだ。どこに出しても恥ずかしくない我が一族の証である。


「二人の分もちゃんとある。さーて、どこに置いたんだっけ・・・・・・」


 ノックスとカイトは我先にと駆けだした。

 先に見つけたのはノックスだった。僅かに遅れてカイトもナイフを発見する。


 ナイフには持ち主を特定できるよう色に差異をつけており、クララは白、ノックスは赤、カイトは緑のナイフを手に入れたようだ。


「燃えるような色。俺っぽくていいな」

「僕も森がイメージできて好きかな。帰ったらお母様に自慢しようっと」


 三人とも満足そうだ。手間をかけた甲斐があったな。





「待ちなさい二人とも!」

「やだよ。クララお姉ちゃんオーガみたいじゃん」

「あははは、あはははっ!」


 冒険の後は近くの浜辺で海水浴だ。

 三人の我が子がほどよく熱した砂浜を楽しそうに追いかけっこしている。


 反対に保護者である俺達は黙々と食事の準備中だ。持参した網の上で肉と魚介類を焼きながら額から汗を垂らしていた。


「保護者って大変じゃんよ。ますます結婚する気が失せるじゃん」

「結婚どころか恋人すらいないという」

「そうそう年がら年中恋人募集中――うるさいじゃん!」


 タキギとベナレの掛け合いに肉を切りながら苦笑する。

 一喝するのはトングを片手にエプロンを着けたキアリスだ。


「二人ともまじめに。BBQは焼き加減が命だ。それから団長、野菜はどうした。これでは健康的な食事とは呼べないぞ。父親ならもっと気をつけるべきだ」


 確かに野菜らしい野菜がない。

 ストレージに放り込んでいたと思うが――あったあった。キアリスは口調こそきついが根が真面目だから信頼できる。大雑把な俺にはありがたい存在だ。


「結婚したら良い父親になれそうだな」

「そ、そうだろうか? 彼女には細かすぎると怒られてばかりなのだが・・・・・・あ、いまのは聞かなかったことに! つい口を滑らせてしまった!」


 ほうほう、キアリス君も隅に置けないな。

 付き合っている子がいるなんて初耳だぞ~?


 俺達はニマニマしながら恋人ができたことをお祝いした。

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