スピーチ Speech !

ロックウェル・イワイ

第1話 結婚式

 えー、新郎の上司の福多ふくたです。御両家の皆様、本日は誠におめでとうございます。


 新郎の寿司ひさし君が当社に入社したのは今から10年前になります。

 当時は、肉屋なのに寿司スシが入って来た、といつも冷やかされていました。


 私共の会社は肉の6次化産業を実践している会社でございまして、牛・豚・鶏を独自に飼育し、肉と肉製品の製造と小売りまでを行っております。


 寿司君は市内の三流大学を二浪して入学し、その後、6年掛けて主席で卒業いたしました。

 現在、36歳です。

 入社当時は26歳でしたので、同期の新卒者からは博士と呼ばれて崇められていました。


 職場ではブロイラーを地鶏に見えるように飼育をし社長賞を取った事もあります。

 また、豚肉にサシを入れる事にも成功し『黒毛和グー』として売り出しましたが、こちらはパッとしませんでした。

 あ! 本日のお料理にもホテルのご好意により『地鶏ブロイラー』と『黒毛和グー』をお出ししております。


 さて、寿司君が新婦の沙詩美さしみさんと出会ったのはマッチングアプリだと聞いております。

 寿司君も最初は遊びのつもりでエントリーしたのですが、なかなか相手と実際に会うところまで行きませんでした。

 利用料ばかり取られるので、騙されてるんじゃないかと思い始めた頃、アプリの社員である沙詩美さんから課金アイテムについての案内が届きました。


 沙詩美さんからは会える確率が上がるアイテムがある、と説明がありました。月3万円で今の10倍確率が上がると言われました。

 しかし、寿司君は今まで一人も会えていません。

 0に何を掛けても0なのです。

 そんな事も分からない寿司君は沙詩美さんんの口車に乗せられて3万円を払いました。


 それからも寿司君は果敢にマッチングアプリに挑戦しましたが、一向に成果が上がりませんでした。


 さすがに沙詩美さんも良心の呵責かしゃくさいなまれたのか自分から寿司君に会ってもいいよ、と連絡を取りました。


 こうして二人は出会い、愛を育み今日の日を迎えたのでした。


 本当に寿司君、沙詩美さん、おめでとうございます!


 ちなみに寿司君は今もマッチングアプリを続けていますが、未だに誰にも会えていません。

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