第20話 迷宮攻略

 ◇ side 秀也



 俺たちは例の人喰い迷宮の入口に来ていた。

 見たところ、ただの洞窟に見えるがここで問題ない。

 現地人にもしっかりと確認をとったしな。

 今のところ魔物は出てきていないらしい。



 被害が出ていないということは、まともな奴がダンジョンコアを手に入れたのか?

 それとも待ち伏せしてるだけか?

 まぁ、いい。

 ぶちのめしてから確かめよう。



「さて、皆! いつものフォーメーションで行こう」


「「「おうよ!」」」



 さっそく俺たちはみんなで洞窟に入っていく。

 服部を始めとした斥候としての能力が高い者を先頭にして、慎重に進む。

 もちろん罠を警戒してのことだ。

 ふと、あるものに気づいた。



 数メートル先に、壁の切れ目が集中している。

 パッと見て、自然に出来た洞窟という感じなのに、これはおかしい。

 皆もそれに気づいたようで、足を止め、俺を見つめる。

 俺が先頭にいる服部に合図を出すと、服部がその場所に足元のネズミを投げつける。

 その瞬間、緑色のガスが吹き出し、溶けたネズミが赤いスープに早変わりした。



「罠で仕留めるタイプか」


「ずいぶんと分かりやすい罠だな」

「素人か? いや子供か?」

「学校で罠の仕掛け方くらいならうだろーに」

「さてはこのダンマス、学校いってねーな」



 この罠に対する仲間の評価は低い。

 見え見えな罠だし、それも当然だろうが、この殺傷力は侮れない。

 ハマれば即死は確実だ。

 この分だとかなりの即死トラップがあるのは間違いない。

 中には俺たちにも対処出来ない、あるいは気づけないものもあるかもしれない。



 さてどうするか。

 そう考える俺の前に一人の男が歩み出る。

 天然パーマで童顔な顔つきのクラスメイトだ。



「どうやら僕の出番のようだね」


「お、お前は……安室レイジ!」



 安室レイジ。

 身体能力は俺以下だが、この男は常軌を逸した直感を持っている。

 まさに未来予知と言っても良い。

 安室が居れば、敵の不意打ちや地雷の位置を全て看破する事が出来るのだ。

 そのため作戦中に安室が嫌な予感を訴えたら、俺は迷わず撤退の指示を出すくらいに安室のことを信用している。



「安室、頼めるか?」


「任せてくれ、全ての罠を看破して見せるさ!」



 安室は満面の笑みでサムズアップした。





 ◇ side ダンジョンマスターの???



「何だ!? こいつらは!!」



 俺はダンジョンの最奥で絶叫していた。

 それくらいあり得ないことが起きているのだ。



「なんで俺の罠が全部わかるんだよ!?」



 そう、こいつらはまるで未来でも見えてるかのように俺の即死トラップを回避していく。

 2日かけて作った迷宮があっさり突破されていき、俺の背中が冷や汗でびっしょりと濡れる。



「そこ! 多分上から毒が降ってくる」


「ここ、途中で床が抜けるぞ」


「むむっ! そこに隠し扉がある! あそこが正規ルートだ」



 何だこの天パ野郎は!?

 何で分かるんだよ!? エスパーか何かか!?

 もう迷宮は半分以上突破されている。

 俺のいる所まで30分も掛からないだろう。

 ヤバいぞ! 

 どうすりゃいいんだ!?



 頭を抱える俺の視界の中で、連中は足を止める。

 二手に分かれた道の前で、天パ野郎が困り顔になっていた。

 何だ? 一体どうして……?

 あっ、ここは……!?

 俺はにやりと笑った。



 この道は二つに分かれているが、どちらも回避不能なほど即死トラップを敷き詰めておいたのだ。

 これは絶対に回避不可能、連中は引き返すか、死ぬかのどちらかのみ。

 勝ったな!

 ダンジョン改造計画を練っていて、徹夜だった俺はひと眠りしようと寝床に横になった。




 ◇side 秀也


「秀也、どちらも回避不能なほど罠が敷き詰められてるみたいだ」



 安室が困り顔になっている。

 この男がそう言うってことは、本当に回避出来ないのだろう。

 思案する俺に向かって、毒島が口を開いた。



「どうする、秀也? 一度出直すか?」


「いや、それはダメだ。たぶん犠牲がでる」



 この迷宮の構造を見て分かった。

 ここのダンジョンマスターはまともではない。

 これまで見てきたトラップは全てが即死系だった。

 本当にまともな人格なら、ここまで殺意の高い迷宮は作らないはずだ。

 おそらくここのダンジョンマスターは人の命を軽視する奴とみた。



 ここで時間を与えれば、何をやらかすか分かったものではない。

 ここで確実に潰す必要がある。

 ふと気づくと、皆が珍しく緊張した表情を浮かべていた。

 どうやら俺の弱気を嗅ぎとったらしい。

 これはいかん!

 俺は声を張り上げた。



「大丈夫だ! この天才に秘策アリ!」


「出た! 秀の秘策!」

「ふっ、勝ったな」

「あちゃー、俺らの勝ちフラグたったわ!」



 俺の秘策宣言に、皆が沸き立つ。

 どうやらみんなの緊張はほぐせたようだ。

 さてと、この俺の天才っぷりを見せるとするか。



「さて、皆。協力してくれ!」


「「「おうよ!」」」



 俺の言葉に、皆は力強い笑みを見せた。



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