第二百八十四話 冷淡に告げる事実
「な、なんだこいつら……!? ぐああ?」
「次、右から二番目の男、終わったら右半身に隙がある斜め前の男を攻撃」
「それ」
「に、逃げ……ぐぎゃ……!?」
一方的。
恐らく第三者が見たらそう語るであろう惨状が広がっていた。相手が近づこうとすると、バスレーが呟くと同時にヒンメルが手を動かすと、直後に男たちの胸や頭が吹き飛び血しぶきを上げる。近づけず
「野郎!」
「おっと、妹ちゃんに手出しをさせないよ」
「貴様がやっているんだろうが! いったいどうやって攻撃している……!」
常に張り付いて行動しているふたりにようやく追いついたアルバトロスがヒンメル目掛けて大剣を振り下ろし、ヒンメルがそれを片刃の剣で受け止めると、横からバスレーがダガーをアルバトロスの喉元へ突きかかった。迷いない動きに冷や汗をかきながらヒンメルを蹴り飛ばしてその場を離れると、直後、またひとり胸から血を出して倒れた。
「ぐ……くそ……!?」
「これで六人。すぐに終わりそうですねえ」
くすくすと笑うバスレーに背筋が寒くなるアルバトロス。彼は顔を歪ませながらふたりに対し質問を投げかける。
「俺達が福音の降臨だと知ってから明らかに態度が変わったな? 名は知られているが、本来の実態を知る人間は少ねえ。確かにあちこちで活動しているがここまで容赦なくできるもんかね?」
「まあ、世間的には信者も多いですし『表向き』は迷える子羊を救済する組織なので、覚えは悪くないでしょう。しかし、わたしにはあなた達を許せない理由がありますから」
「それは何だか聞かせてくれるか、愛しのバスレーさんよ?」
アルバトロスがそう言うと、バスレーはにこりと笑ってからこう答えた。
「答える義務はありませんね♪ あなた達は何も知らず、聞けず、このまま消え去るだけです。兄ちゃん、右後ろ」
「ぐあ……!?」
「ザビー! チッ、そうかよ! だが、時間稼ぎはできた」
アルバトロスが舌打ちをしながら叫ぶと、右手の親指にはめている指輪が鈍く輝きだす。直後、バスレーとヒンメルを取り囲むようにクリフォトとジャイアントビー、暴れイノシシが姿を現す。
「殺しはしないが、時間もねえ。何で攻撃しているかは分からねぇが、お前ら一気に畳みかけるぞ!」
「うおおおお!」
「あの指輪で魔物を操っているんですかね? 時間が無いのはこちらも同じ。ラース君達が来る前に皆殺しにしないといけません」
「情報が無くなるぜ?」
「ご安心を、ソニアさんに吐いてもらえばいいだけです。【致命傷】」
バスレーは手にしたダガーを近くのクリフォトへ投げ、直撃した瞬間動きを止めた。相手の弱点を看破するため本気で使えば相手を瞬間的に行動不能にすることも可能。
ちなみに行動そのものを読んでいるのは、スキルではなくバスレーの観察眼によるもので、以前、ルシエールが誘拐されたとき空から投擲を成功させていたことがこれにあたる。
クリフォトが一撃でやられたことに驚きつつも、魔物を呼んだことで強気に出てくる。
「魔物が攻めている間に一気にやれ!」
「任せろ、兄貴の方は仲間の弔いとして死んでもらう」
「おっと、僕のスキルは近距離だと使いにくくてね? 魔法を使わせてもらうよ。<ファイアアロー>!」
「しゃらくさい!」
「へいへい、後頭部がお留守ですよ! 猪とジャイアントビーくらいでわたしを止められると思わないことですね!」
「どこから出したその金槌!? こいつら、全然ひるまねぇ! 一斉にかかれ!」
バスレーとヒンメルはお互いを背にし、回転しながら【致命傷】で確実に、一撃で魔物を倒し、クランの人間を倒していく。
クリフォトやジャイアントビーには火の魔法で対抗し、猪や人間はバスレーが片手で扱えるが大きめの金槌で重い一撃をくらわしていく。
「くそ! こっちは腕利きばかりを連れてきたのにどうしてこうもあしらわれるんだ!」
「わたしひとりでは無理ですけどね。兄ちゃんが居てこその――」
バスレーは目の前に迫って来た男の剣を寸前でかわし、脇腹に金槌を叩き込みながら喋っていると、横からアルバトロスが大剣の腹で殴り掛かって来た。
「バスレーぇぇぇ!」
「おっと! アルバトロスさん、でしたっけ? わたしに惚れてくれたのはありがたいですが、相手が悪かったですね。大臣の肩書とか国のためってのはもちろんありますが、あなた達が‟福音の降臨”というだけで与することは絶対にあり得ません」
「ちょこまかと動く……かかれ!」
「ほっほっほ! 兄ちゃんよろしく!」
「ああ」
アルバトロスの掛け声でジャイアントビーが襲い掛かってくるも、すぐ後ろに居たヒンメルがファイアアローで一掃する。歯噛みするアルバトロスがヒンメルに斬りかかっていく。
「攻撃の肝はてめぇみてえだ、お前から始末するか!」
「うーん、もっと早くそれに気づくべきだったかな? ……もう遅いよ」
「なに……?」
アルバトロスの斬撃を剣で反らし、たららを踏んだ瞬間背中を回し蹴りで吹き飛ばすヒンメル。
対し、前のめり倒れながらヒンメルとバスレーの方を向き、言葉の意味を理解したアルバトロスが仲間に叫んだ。
「逃げろ! こいつらの狙いは俺達を視界に納めること――」
「ぎゃああああ!?」
「ひ、ひい!?」
だが、最後まで言い終えることなく、仲間がなすすべなく頭を真っ赤にし倒れていく惨劇を目にすることになった。ヒンメルが手を動かすたびに一人また一人と地面に崩れ落ちる。それは魔物も例外なく、絶対に。
「馬鹿な!? 俺達がこうも簡単に……!?」
態勢を立て直したアルバトロスが驚愕の声を上げると、バスレーがとびきりの笑顔を浮かべてアルバトロスに向かって口を開く。
「相手が悪かったですねえ。確かに動きも悪くないし、強いと思います。しかし甘い。わたし達二人だと侮ったこと。魔物を呼べるからと軽く見ていませんでしたか? くっく……」
「お、お前は――」
「ああ、そうそう、わたしがどうしてあなた達福音の降臨を目の敵にしているかと聞いてきましたっけ? まあ、どうせ最後ですし? 教えてあげましょうかねえ。実はわたし、レフレクシオン王国の人間じゃあ無いんですよ」
「なら――」
「しーっ。まだわたしが話している途中ですよ?」
バスレーはダガーをアルバトロスへ投げつけると近くの木に突き刺さる。ごくりと息を飲むアルバトロスに、バスレーの言葉が続く。
「わたしの出身は‟エバーライド国”なんですよ」
「……!?」
「ええ、ええ、その顔を見たかったですねえ。理解しましたか? ……あなた達が裏でベリアース王国と共に滅ぼしたあの国です」
「生き残りが、居たのか……!」
「ですね。その時、秘密裏に動いたのがレフレクシオン王国で、わたし達のような難民救助を請け負ってくれたんですよこれが。だからそれを知るベリアースはこの国を潰したいとあなた達のような存在を送り込んでくる」
「そうか、だから教主は執拗に……」
アルバトロスは冷や汗を流し、顔をゆがめる。この女が生き残りであれば、自分たちに対するこの対応は言う通り、理解ができたからだ。
「オリオラ領の時はラース君に邪魔されましたが、今回は逃しません。おやすみなさい、永遠に」
「待――」
アルバトロスが声を上げようとしたが、その瞬間、アルバトロスの視界が赤く染まり意識を刈り取られた。
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