第百五十二話 ルシエラの気持ちとレオールの報告

 

 <ブライオン商会>


 「お嬢さん、この商品を三つ包んでくれ」

 「あ、はい!」

 「これはおいくらかな?」

 「それは4300ベリルよ、ありがとう!」

 「いつもの妹はいないのかい? お前さんも可愛いけどよ」

 「ルシエールに手を出したらぶっ殺すわよ……!」

 「ひっひっひ、また来るわー」

 「二度と来るな! ……はあ、最近お客さん多いわねー。忙しいったらないわ」


 今日はルシエラが店のお手伝いの日で、学院が終わるとルシエールのところにも行かず早々に家へと帰ってきていた。

 ここ最近、特にレオールと取引を始めたあたりから商会に出入りする人が多くなり、忙しさが増している。

  

 「外からのお客さんも多くなってきたわね……レオールさんと父さんの取引が上手くいったからだと思うけど……」


 ルシエラが一旦波が引いたと見て、奥へ引っ込みながらそんなことを呟いていると、奥の棚から表に出すための箱を持ってきたソリオが現れた。


 「そうだね。レオールさんと取引した品物が好評なんだよ」

 「ふーん、糸とか革なんてどこでも手にはいりそうなのにね?」

 「特定の魔物からしか取れないものなんだよ。地域によるからこの辺りでは手に入らないから売れるんだ。こっちからもジャイアントビーの針とか出しているしね。他にもこの辺にないキノコとか、宝石を交易品として交換しているよ。宝石に関してはルシエールに頼りっきりかな」


 宝石のことを聞いて、ルシエラが水を飲みながらソリオへ言う。 


 「なんだ、ルシエールもしっかり役に立ってるじゃない」

 「? どういうことだい?」

 「やりたいことが無い、みたいなことを言っていたから将来が不安そうだったってこと。でもこれなら大丈夫かもね?」

 「ルシエールがそんなことを? ルシエラは決まっているのかい?」

 「私? 私はほら、可愛いからお金持ちの商人とか、貴族あたりと結婚するかも?」

 「デダイト君とラース君はいいのかい?」

 「べっつにー。……お客さんもう少なくなってきたし、部屋に戻るわね」

 「ああ、ありがとうルシエラ」


 ルシエラはエプロンと、髪を結っていた紐を外して店の奥へ引っ込み部屋に戻った。部屋に戻りベッドへダイブするとぽつりと呟いた。


 「……どうせ私なんて……」


 ◆ ◇ ◆


 ――応接室に近づくと父さんと母さん、それとレオールさんの談笑が聞こえてきた。どうやら応接室で間違いなかったようだ。俺は応接室の扉をノックし声をかける。


 「ラースです。父さん、入ってもいいでしょうか?」

 「お、入っておいで」

 「失礼します」


 リビングではなく応接室に招いているということはお客様か取引相手として相手をしているということだと思い丁寧な態度で中へ入る。すると、レオールさんがソファから立ち上がり、俺に向かって頭を下げた。


 「こんにちはラース君。久しぶりだね」

 「こんにちは、レオールさん。一か月ぶりです」


 俺は微笑みながら握手をする。手を離し父さんの横に座ると、レオールさんも腰を掛けて話を続ける。


 「では、ローエンさんの方から先に終わらせましょう。先ほどの続きですが、ソリオさんとの取引はこの一年でさらに拡大できたので後は滞らないように、品物を流通してもらえれば良いと思います。ローエンさんが協力していただいたおかげで私も儲けさせてもらいましたよ」

 「ははは、こっちもソリオが儲けたようだしいいと思う。俺は税収が上がるし、協力するメリットはあったからね」


 ブラオが税収を変なことで使ってたから父さんはそれを回復させるために頑張ってたんだよね。レオールさんと。お互いの国に無いものを取引することでだいぶ上向きになってきたようだ。

 アイナが生まれたのは父さんが楽になってきた証拠だったともいえるかな? 俺がそんなことを考えていると、レオールさんが俺に顔を向けた。


 「さて、次はラース君だね。率直に言うと、何とか見つけることができた」

 「ほ、本当ですか! やったぁ!」


 ドラゴンの素材を加工できる人はそう多くないのだそうだ。元々めったに姿を見せない最強種なので、素材の流通も少ない。

 なのでそれができる鍛治屋さんを、あちこち移動するレオールさんに頼んでいたという訳だ。


 「ルツィアール国の隣、オーファ国にエネイブルという町があるんだけど、そこで鍛冶屋をしている”クライド”ができると商人仲間から聞いたよ。ちょっと遠いけど、休みを利用して行くのもいいかもしれないね」

 「ありがとうございます! ……サージュにお願いして飛んでいったらダメかな?」


 馬車を使うよりは確実に速いし、みんな一緒というのも悪くない。父さんに聞いてみると、難しい顔をして唸っていた。


 「……うーん、難しいところだな。いきなりドラゴンが飛んで来たらびっくりするんじゃないか? オーファ国に一報入れておければいいかもしれないが……」

 「確かにそうだね。流石に私用で国王様に頼むわけにもいかないかあ。あ、でも……」

 「なに?」


 母さんが首を傾げて尋ねて来たので俺は考えていたことを話す。


 「夜ならいいかもって思ったんだ。山の中に降りて、小さくなってもらえれば目立たないかなって」

 「ふむ、まあそれならいいか。その時は俺が一緒に行こう。大人は必要だろう」

 「ありがとう父さん!」


 俺は素直に喜び、父さんにお礼を言う。父さんなら交渉もしてもらえそうだし……あ、でも加工費がいくらか先に調べた方がいいかな……?


 「レオールさん、ドラゴン装備を作る料金って分かりますか?」

 「え? ……うーん、流石に取り扱ったことが無いからなあ……実際に聞いてみた方がいいんじゃないかな? 僕に素材を渡してくれたら行ってもいいけど、ちょっと次の取引が逆方向なんだよ。遅くなるかもしれない」

 「あ、大丈夫ですよ。ありがとうございます」

 「……本当はドラゴンの鱗、欲しいんだけどねえ……」

 「あはは……」


 商売人らしい発言をしながらがっくり項垂れるレオールさん。流通しないんだから相当貴重ってことになるもんね。最強種のドラゴン装備、わくわくするよ。


 <すまぬ、開けてもらえぬか>

 「あら、サージュ?」


 そこへ偶然か、サージュの声がする。母さんが扉を開けると、勢いよくアイナが入ってきて母さんに抱き着いた。


 「まぁま♪」

 「あら、アイナも来たの?」


 そう言ってアイナを抱っこし、微笑む母さん。続いてぺたぺたと歩いてサージュが入ってきながら口を開く。


 <うむ。母君を探しておって泣きそうだったので、連れてきてしまった。ノーラではまだ手が余るな。それに来客がレオールならまあいいかと思ったのだ>

 「ふふ、僕は構わないよ」

 「ごめんね、サージュ。アイナを任せちゃって」

 <気にする必要はない。我はここに住まわせてもらっている立場だ。できることはする>

 「さーゆ! さーゆ!」

 <うむ、ここに居るぞ>

 「きゃー♪」


 サージュが抱っこされているアイナの下へ飛ぶと、アイナはきゃっきゃと喜びサージュの顔を触る。


 「最強種、か……」

 <ん? どうしたラース?>


 最強種の中でもさらにもうワンランク上の古代竜であるサージュ。そんな彼に子守をさせているのが少々申し訳ない気持ちが沸き上がると同時に、


 「戦い以外でも頭が上がらないなあサージュには。俺達はいい友達を持ったよ」


 そう思った。


 <? よく分からないが、そう言われると嬉しいぞラース>

 「さーゆ、ずうい」

 「ダメよ、お兄ちゃんはまだお話し中だからね」

 「うー」


 きょとんとした顔で俺の頭に乗るサージュに手を伸ばすアイナを母さんがやんわりと抑える。そして、レオールさんと衣装の話をして部屋へと戻った。


 うーむ、二年弱で相当稼いでしまった。旅の資金どころか、それなりに働かなくてもいいくらいに。まあドラゴン装備を作るお金に回ることになりそうだけどね。

 でも問題は他のみんなだ。ギルド部の依頼達成で少しは貯金があるけど、足りるかなあ。

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