第百十七話 頑張る女の子達


 「連続で一位が取れたのは大きかったね、この調子で稼いでいこう」

 「肝心なのは、戦闘競技以外よねえ♪ ラース君はほぼ戦闘だし、アタシ達が頑張らないとね」

 「勝ってくれた分を無駄にしないよう頑張ろう」


 ヘレナとヨグスがそう言い笑い合う俺達。

 とりあえずパン食い競争と今の戦闘競技で一五ポイント取れ、幸先いいスタートを切れたことを喜ぶ。次は投擲競技なのでルシエールとウルカの出番である。


 「それじゃ行ってくるね」

 「頑張って僕も一位を取ってくるよ!」

 「ファイトールシエールちゃん!」

 「ありがとうノーラちゃん、それじゃウルカ君行こうか?」

 「うん」


 ふたりがテントを出てグラウンドに出ると、ひとつ前に試合をしていた三年生が入れ替わりで出ていくと、実況席から声が聞こえてくる。


 [いやあ、白熱した三年生の投擲勝負でしたねベルナ先生]

 [ええ、まさかレン……あ、一年生が出てきましたよぅ]

 [今度こそ一位を取るのよぉぉぉ!]


 相変わらずうるさいバスレー先生に、Eクラスの選手ふたりは顔を伏せて出てくる。うん、まあ気持ちは分かる。

 それはともかく投擲競技だけど、ちょうどティグレ先生が説明に入ってくれる。


 「さっきの三年生がやっていたから分かっていると思うが一応な。的はふたつで、風魔法で浮いているスライムの素材で作った玉だ。あれをふたりがかりで破裂させれば勝ちだ、シンプルでいいだろ? 得物は片方がナイフでもう一人がブーメランを使うんだぞ。ナイフは10本だから無くなったらブーメランだけで壊す。白い線の内側に入らなかったらどの角度から攻撃してもいいことを忘れるな!」


 と、説明の後それぞれの玉の前に立つ。

 色はクラスによって違うので分かりやすい。大きさは運動会で使う玉ころがしより少し小さいくらいかな?

 それと投げナイフが危ないので、玉の近くにはガラスでできた壁が置かれているのは親切である。


 さて、三年生がやっていたのを見ていたけどこれはなかなか難しい。というのも、風魔法でふわふわしているから捉えることができても一回で割れないのだ。


 「私、ブーメランで行くわ」

 「それじゃ僕がナイフだね。さっきの三年生も苦労していたし、頑張ろう」

 「うん! ……ええい!」

 「お、命中だ!」

 「練習の成果ね」


 ルシエールが早速ブーメランをスライム玉に直撃させ歓喜する俺達。

 しかし、やはりというかスライム玉はぼよーんと弾かれてふらふらする。ロープでくくられているのでまた元の位置に戻りゆらゆらと揺れていた。……クッションみたいだから一個欲しいかもしれない。


 「あーん、ちょっとへこんだくらいだったあ」

 「それじゃ僕がやるね! えい!」


 ウルカのナイフが鋭く飛んでいきスライム玉に直撃する。バィンと弾かれ玉はぷるぷると震えた。こっちも少し傷がついたけど、まだ割れるにはダメージが足りないらしい。

 他のクラスはどうかと見てみると、やはり苦戦しているようで二本目のナイフを投げたところで腰に手を当てて悩んでいた。


 「うーん、難しいねこれ」

 「同時に投げてみるとか?」


 [悩んでおります。これは攻略法はあるんですかね?]

 [一応ありますねぇ。ブーメランを上手く使うことが重要ですね]

 [なるほど、聞きましたかちびっ子たち! 考えるんですよー!! っと、ここで我がEクラスの二人が動いたー!!]


 「わたくしにはそういうの関係ありませんからね」

 「頼むぜお嬢様、俺はただの頭数合わせだ

 「もちろんですわ」【精度ターゲット】!」


 ベルナ先生の解説により各クラス相談し始めたところでEクラスの金髪ロングの子がナイフを連続で投げていく。スキルの効果だろうか? 寸分違わず同じ場所、それも揺れているにも関わらず連続で命中させていくのだ。


 「すげぇ……」

 「あのスキル、他にも応用が利きそうだね。無差別の戦闘競技に出てくるかな?」


 リューゼがポカンと口を開けて呟きヨグスが冷静に分析する。あれは使えそうなスキルだなあ。そんなことを思っているとEクラスがふたつのスライム玉を破裂させて一位が決まった。


 「フッ、造作もありませんわね」

 「おー、流石お嬢様」

 「その言い方は止めてくださいまし!」


 [Eクラス、スライム玉を撃破ぁぁ! よくやったわオネットちゃん、一位よ!]

 [ふふ、いいスキルですねぇ]


 「投擲スキル持ちだったね、仕方ない二位だけでも僕達が貰おう」

 「頑張る! 私がブーメランを投げて右に揺らすから、揺れる方に立って欲しいな」


 ルシエールが胸の前で両手を握りウルカにそう言う。ウルカは言われた通りに立つとルシエールがブーメランを投げる。


 「行くよー!」

 「うん!」


 腰のひねりを最大限に活かし全力で投げる。危なげなくスライム玉にヒットすると、大きくウルカの方へぐらりと揺れた。ロープでくくられているので、限界まで伸び切った時にウルカが気づいた。


 「あ、そういうことか! やあああ!」

 

 ロープが伸びきったところは白線のギリギリ。玉はかなりウルカの近くまで来ている。なるほど、これだけ近ければ――


 ドスドスと連続でウルカがナイフを投げ、ルシエールがブーメランで所定の位置に戻らないよう当てていく。練習の成果とはいえ、ルシエールの投擲は悪くなく、三回に一回くらいしか外さない。

 それでも中々割れず、しばらくすると全員がスライム玉を割り終えて競技終了となった。


 [終了ー! 各クラス創意工夫がみられて良かったですねえ]

 [はい。ひとりでは難しい問題もふたり、三人と相談すれば打開策が出てくるかもというのを学んで欲しいですねぇ♪ 大きくなると冒険者でも商売人でもひとりで生きていくのは難しいですから]


 「うーん、ごめん! 三位だった」

 「ごめんなさい……」


 ウルカとルシエールは頑張って連携プレーをしていたけど一瞬の差でDクラスが割り、続いてAクラスの順番だった。落ち込んでいるルシエールにノーラ達女子が声をかける。


 「全然大丈夫だよー! ね、クーちゃん」

 「うんうん、他の競技で巻き返そうよ」

 「まだまだ三つ目だから平気よ! 次はヘレナの探索でしょ!」

 「そうよ♪ ま、ヨグスが頑張ってくれるわよ、ねえ? あはっ」

 

 ヘレナがこっちを見てウインクをし、ヨグスがため息を吐いた。


 「……プレッシャーをかけるんじゃない」

 「期待してるぜ、学者志望!」

 

 と、残りの学年の投擲競技が終わり次の競技に移ったのでヨグスとヘレナがグラウンドへ出る。鑑定/探索競技だけど何をするんだろう?


 [というわけで探索と鑑定の競技の始まりです。スキルを持っていない子は簡易鑑定ができる虫眼鏡を貸しているので、条件は同じですよ♪]

 [さて、勝敗を決める方法はどうなっているのでしょうか?]

 [文字通りまずは探索ですねぇ。グラウンドのどこかにある箱を一人が見つけて、それの中身を鑑定して報告するだけですよぅ!]

 [ほほう、すると早い者勝ち……?]

 [ですねえ! 後は特にルールはありません! さあ、皆さん頑張ってくださいねぇ!]


 今回はベルナ先生の合図がスタートらしく、すぐにヘレナとヨグスが探索を始める。先生達の努力のおかげで、グラウンドには土の魔法などで作ったちょっとしたフィールドが出来ている。岩や崖みたいなものもあり、池も作られ本格的だ。


 「他のクラスに【鑑定】が使える子はDクラスに一人いるだけだ、すぐに取ってきてくれたら僕達が勝てる。鑑定虫眼鏡は少し時間がかかるからね」

 「へえ、どういう風に見えているか気になるわねぇ♪ それじゃ行ってくるわね」


 ヘレナがフィールドに入り探索を始める。前にも言ったけどこのグラウンド、かなり広い。


 「くそ……ねぇな……」


 他のクラスもウロウロしているけど、見つからずCクラスの男子生徒がぼやいていた。


 「~♪ この辺かしらあ?」


 一方、鼻歌交じりで探索をするヘレナ。そして、勘か、あたりをつけていたのか箱を発見する。

 

 「あったぁ♪」

 

 池の中にあった箱を掲げて喜ぶヘレナ。直後、その手に持った箱が奪われる。


 「いただきっ!」

 「あー!? 何するのよう! アタシが見つけた箱よ!」

 「悪いな、ルールは特にないってベルナ先生が言ってたろ? ってことは相手の箱を奪ってもいいってことだ。あくまでも箱の中身を鑑定するのが目的だからな!」

 「ええー!? ティグレ先生ぇ!」


 逃げていくDクラスの男子生徒。ヘレナがティグレ先生を見ると、首を振って言う。


 「追わないとあいつが勝っちまうぜ? ひとりが探索、ひとりが鑑定する以外にルールは特にない。確かにベルナが言っていた通りだな」


 無情にもティグレ先生がそう言い放ち、ヘレナが歯噛みする。しかしそこで何かに気づいたという顔をする。


 「そっかぁ~なら……攻撃してもいいのよねえ! <ファイア>からの<ウォータジェイル>!」

 「げ!?」


 ヘレナの機転で水の鎖が男子生徒を襲い、派手に転がった。すぐにダッシュしたヘレナは箱を取り戻してヨグスの下へ向かう。


 「急げヘレナ、Bクラスも見つけたみたいだ!」

 「分かったわぁ!」

 「【鑑定】……これは、ミスリルでできたイヤリングだ、後は報告を!」

 「うん!」


 ヘレナが報告者である学院長先生の下へ。足の速さも申し分ないヘレナが一番か? そう思われた瞬間――


 「させないわよヘレナ!」

 「ひゃああ!?」

 

 後ろから来たCクラスの女子生徒……確かダンスを見せてもらった時に居たアンシアって子だ。彼女が横から足をかけ、ヘレナが前のめりに転んだ。


 「悪く思わないでよね、ここも勝たせてもらうから~」

 「アンシア……!」

 

 ヘレナが立ち上がるも、先に報告を済ませたアンシアが一位。二位はヘレナだった。


 「惜しい! 結構早かったと思うんだけどなあ」

 「Dクラスの彼に邪魔されなければ勝ってたわよ! もう!」

 「仕方ないよ、ルールをよく考えれば防げたかもしれないんだ。そう言う意味ではあの子は間違ってない」

 「でも悔しいぜ……!」

 

 ジャックが地団太を踏むが、二位でも十分だ。まだポイントのアドバンテージはあるしね。


 「ごめーん……」

 「ヘレナは頑張ったよ、いい魔法だった」


 珍しくがっかりしているのはライバルのアンシアに負けたからだろうか。俺達が労い、ヘレナとヨグスはすぐに笑顔を取り戻す。


 「なあに、まだまだ競技はある。次の乗馬競技なら間違いなく勝てるはずだ。なあノーラ」

 「うんー! 絶対一位を取ってくるよー!」

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