第百三話 練習開始!
――午後
「おー! やってるぜみんな!」
「やっぱり上級生は気合が入っているね」
グラウンドに出ると、すでにあちこちで練習を始めている生徒で溢れかえっていて、リューゼとウルカが色めき立つ。もちろん俺も収穫祭の例に漏れずこういうことは好きなので自然と熱くなる。
さて、練習だけど、みんなが使っているこの学院のグラウンドはかなり広く、百人くらいなら練習に使っても窮屈ではないだ。さらに、入学式に使った体育館のような場所も解放されていてこちらも五十人は入る。
しかし、学年ごとに、五クラス五十人が五学年分となると、二百五十人にもなるのだ、これくらいじゃ実際足りないので、ギルドの訓練場を使ったり、町の外で担任の先生と練習することもあるようだ。
そんなわけで、今日は俺、リューゼ、クーデリカ、マキナがティグレ先生と魔法無しの戦闘訓練のため、ギルドの訓練場を借りに向かっていた。
ついでと言っては何だけど、投擲競技に出るウルカとルシエールもついてきている。
「結局、ルシエールは一万ベリルと詰め合わせと投擲だっけ」
「うん。投げるくらいならなんとかなりそうだし!」
そう言って笑うルシエール。最近話せていなかったから、たまにはと、グラウンドを横目に話を続ける。
「ルシエラは?」
「お姉ちゃんはこういう時、勝つために努力をするの。だから今日はクラスに残ってるんじゃないかな?」
そう言えば去年、兄さんの応援の時に水色の髪が徒競走で爆進していた気がする。【
「お姉さんってわたしみたいな感じだから、ちょっと嬉しいんだよね。わたしは力しか上がらないけど、お姉さんは色々できるんだよね」
「うん。力も足の速さも、魔力はちょっとだけどブーストできるんだって。私の【ジュエルマスター】より全然実用的だよね」
ルシエールがそう言うと、ウルカが興奮気味に言う。
「そんなことないよ! 僕の【霊術】もなんの役に立たないと思っていたけどそうじゃなかった! 絶対何か意味があるよ!」
「そうかな? うん、ありがとうウルカ君」
俺も持ち上げておくかと口を開く。
「お父さんの役にも立つし、もしかしたら宝石商になれるかもしれないよね。偽物は許さない女商人! みたいな感じで」
「お、女商人……でも、いいかも! ふふふ、そのサファイアガラスですね……」
何故か眼鏡を直す仕草をしながらドヤ顔をするルシエールにマキナがぷっと吹き出し手を繋ぐ。
「あはは、それベルナ先生の真似? いつも魔法の説明をしたあとやるよね!」
「そうそう、可愛いよねベルナ先生。ねえ、ティグレ先生」
「……おう」
ルシエールがティグレ先生に話を振ると、ティグレ先生はそっぽを向いて小さく呟く。するとリューゼが笑いながら俺に言う。
「おい見ろよ、ティグレ先生の耳が赤いぜ、ラース! まさかあの顔で照れ……いでっ!?」
「今のリューゼが悪いよ」
「そうね」
「ふん、おら、さっさと行くぞ。ベルナはヘレナ達を見てくれているから、俺達もしっかり訓練しないとな。特にリューゼ」
「うへ……練習じゃねぇの……」
俺達は笑いながら、呻くリューゼの肩を叩きギルドへと足を運ぶ。
ほどなくして到着し、ギルドへ入るとギブソンさんが笑顔で迎え入れてくれた。
「こんにちはー!」
「いらっしゃいラース君。おや、お揃いだってことはギルド部かな?」
「ううん、今日は対抗戦に向けての練習なんだ。訓練場を借りてもいいかな?」
「ああ、もうそんな時期なんだ。もちろんいいよ、ラース君達が一番乗りだね、もっと増えてくると思うから今のうちにどうぞ」
すると奥でハウゼンさんと、もう一人装備に身を固めた男性がやってくる。
「お、ラースか。元気そうだな!」
「うん、今日は居るんだ?」
「……うん……忙しくてな……こんなんじゃ嫁さんももらえん……」
なんか出張の多いハウゼンさんに俺達が苦笑していると、男性が口を開く。金髪を短く切りそろえたなかなかかっこいい人だ。
「はは、ギルドマスターなら引く手あまただろうに。あ、オレはマッシュだ、よろしくな。久しぶりに帰ってきたけど、子供たちが入り浸っているのかい?」
「そういうなってこいつらはなかなかのもんなんだぜ、なんせドラ――」
「ま、オレたちの邪魔をしなかったらいいけどな。なに? 訓練? オレ、今日はもうやることが無いから見てていいかな?」
あまり感じの良くない言い方をしてくるマッシュさんに、俺達はぺこりと頭を下げて言う。
「別にいいですよ。あまり面白くないかもしれないですけど」
「はは、言うねえ。それじゃ行こうか」
そう言って先に訓練場に行くマッシュさん。するとハウゼンさんが俺達に言う。
「すまんなあ。悪い奴じゃないんだが、口がちょっとな。俺も一緒に見ていいか?」
「ハウゼンさんはもちろんいいよ! それじゃティグレ先生、行こう」
「ちぇー、そりゃ確かに俺たちゃ子供だけどよー」
ぼやくリューゼの背中を押して、訓練場まで行く。早速持ってきた装備に身を包み、訓練場の隅に立つ。見れば他にも打ち合いや魔法の訓練をしている人がおり、数人見知った顔が見える。俺達を見ると笑顔で手を振ってくれる。
「さて、どうする? タイマンで戦い方をみりゃいいか?」
ティグレ先生が腕を組んでそう言うので、俺は考えていたことを口にする。
「えっと、俺はティグレ先生と戦いたいかな。本気で」
「……マジでいってんのかラース?」
「うん。俺の【器用貧乏】は努力すればするほど意味があるから、戦うのは絶対無駄にならないと思う」
「で、でも、先生ってめちゃくちゃ強いし……」
マキナがそう言って心配してくれる横で、マッシュさんが俺に向かって鼻で笑った。
「え、君のスキルって【器用貧乏】なの? うわあ、可哀想だなあ。その子の言う通り、やめときなよ。大人になってもどうせそんなに活躍できないようなスキルなんだし、ケガするのも馬鹿らしいでしょ?」
「……俺は――」
「おい、ウチの生徒にくだらねぇこと吹き込んでじゃねぇぞ? てめぇが俺とやるか、ああ?」
俺が反論しようとすると、ティグレ先生が先に噛みついた。もう、ホントいい先生だよ。すると、マッシュさんは肩を竦めて言う。
「いやいや、オレはベテラン冒険者ですから学院の先生と戦うみたいなことはしませんよ。ああ、水を差したかな。黙って見させてもらいますよ」
「おい、マッシュ! お前口が過ぎるぞ」
なんと嫌味なことを言う人だと思っているとハウゼンさんが怒る。だが、悪びれた様子もなく、はいはいと返していた。
「むかつくなあ。あいつよりラースの方が絶対強いぜ」
「いいよ、リューゼ。多分、リューゼの魔法剣も結構度肝を抜けると思うけど」
俺達が笑い合っていると、ティグレ先生が木剣を持って俺に言った。
「よおし、野郎みたいなのに負けないよう、全力で行くぞラース」
「うん、よろしくお願いします!」
俺達が構えると、野次馬が集まってきた。
「お、なんだなんだ?」
「ラースじゃないか? ありゃ誰だ?」
「先生だろ、見たことあるぜ」
「面白そうだ、こっち見ようぜ、リューゼとマキナちゃんもいるじゃねぇか」
「えへへ、こんにちはー」
「おう!」
和気あいあいとしだす訓練場の中で、俺はティグレ先生に向かっていった――
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