第九十八話 ギリギリまでやらないもの
「お前ふざけんなよ! なんで俺が居ないときにそういうことやってるんだよ!」
「いや、王都に行ってたんだからリューゼは無理だろ? ベルナ先生を放置する訳にはいかないだろ?」
「分かってるよ! でもドラゴンにアンデッド……! うおおおおお!」
「ちょ、布団がめくれるからやめてくれない!?」
激昂しながらベッドの上でのたうち回るリューゼ。休みももうすぐ終わりに差し掛かろうとしている中、王都から帰ってきたと遊びに来た。……いや、宿題を終わらせに来たのだ。
宿題をしながら先日のことを話したらこうなったというわけ。そして一番終わっていないリューゼが手をつけないので、隣にいたクーデリカがリューゼを持ち上げて座らせる。
「宿題をしなさい! ラ、ラース君が困るでしょ?」
「へいへい。分かってるよ、でもベルナ先生が帰ってきて良かったな」
リューゼがまたペンを走らせ始めながらそう言うと、ヨグスがサラサラと文字の練習帳を埋めながら返事をする。
「……そうだな。僕も行きたかった、と言えば行きたかった。ベルナ先生の教え方は上手いしね」
ヨグスの言葉に、数学の計算をしているルシエールが顔を上げてうんうんと頷く。
「うん。私の【ジュエルマスター】も意味が無いんじゃないかなって思ってたけど、お父さんの役に立てるんだって分かって嬉しかったの。ガラス玉とダイヤを見分けられるのってなかなか難しいみたいだし」
とまあこんな風に話をしているのでなかなか進まない。ここにいるのは、ルシエール、リューゼ、ヨグスにクーデリカである。
サージュを紹介しようと集まれる日を選んでいたら最後の方になってしまったのだけど、サージュに会っていないヘレナは風邪をひいてダウン。お見舞いに行ったノーラも風邪でダウンし、母さんが孤児院に言ってウチに寝かせ、兄さんが看病に回っている。移らないよう配慮した結果だけど、兄さんが今度は風邪を引きそうだなあ……
<ふむ、リューゼよ、そこの計算間違っているぞ>
「うお……マジか……サンキュー、サージュ。……それにしてもでけぇドラゴンを見たかったなあ……マキナとウルカは乗ったんだろ?」
「そうだね。そういえばマキナとジャック、ウルカは来なかったの?」
するとクーデリカが返事をしてくれる。
「うん! ジャック君はおうちの手伝いで、ウルカ君はギルドに行くって言ってたよ。……マキナちゃんは、なんか来れないって、ね、ルシエールちゃん?」
「う、うん」
ルシエールの顔を見てそう言い、ルシエールは少し焦りながら返事をする。クーデリカの表情は伺えない。
まあ、サージュに会ってないクラスメイトはこれで全員だからいいんだけどね。
<大きくなるのは簡単だが、ここでは狭くて難しいな。だが、友達のお前達にプレゼントを渡したいし、どこかで一度大きくなりたいものだが>
ミルクの入ったコップを両手を使って器用に飲むサージュがそんなことを言う。プレゼント、という言葉にリューゼが食いつく。
「マジ!? ドラゴンって、おとぎ話だと宝物とか溜め込むらしいじゃん! 俺、何もしてないのにいいのかなあ。へへ……」
「現金だなあ。領主時代はお金があったろうに」
「ばっか! ラースは分かってねぇなあ。『ドラゴンが持っていたお宝』に意味があるんじゃねぇか! わあ、俺楽しみだ……」
<ふむ、それほど喜んでもらえるとプレゼントする甲斐もあるな。ラースよ、どうだろう?>
そうだなあと俺は腕を組んで考える。折角サージュがくれるというならその気持ちを汲んであげたい。今からギルド部として、ベルナ先生やミズキさんと一緒に町の外に出るか、山でそれをやってもいいけど……
「ノーラとヘレナが風邪だから、俺達だけってのはちょっと嫌かな。マキナ達も一緒がいいだろ? だから全員集まれる日にしよう」
俺が判断すると、リューゼが口を尖らせる。
「えー……早く欲しいのに……。あーでもそうか、もし俺が逆の立場なら多分文句言うだろうし、みんな揃っての方がいいな」
物分かりの良いリューゼが肩を竦めて椅子に背を預けると、クーデリカが宿題から顔を上げて言う。
「そうだね! でも、とりあえずリューゼ君は宿題を終わらせないとね? わたし達より全然進んでないでしょう?」
「そ、そうだな……なあ、ラースここ――」
「ん?」
クーデリカの言葉にリューゼが慌てて俺に聞こうとする。俺はすでに宿題を終わらせているので、実は手が空いていて、サージュを頭に乗せてみんなの質問に答えていた。なのでリューゼの方へ顔を向けると、ルシエールに止められた。
「ラース君は私とクーちゃんの専属だからダメ! リューゼ君は自力で解かないと!」
「そうだよ! ……ね、ここの問題どういう意味かなあ?」
「えっと……」
「くそ! ラースばっかり! ……いいよ、俺はヨグスと一緒に勉強するよ……」
「はは、僕は構わないけどね。別に女の子はAクラスだけじゃないし、他で探せばいいじゃないか」
「……ドライだなお前……」
ヨグスは女の子に興味がなさそうだと思ったけど、意外な発言を聞いて俺はちょっとびっくりする。最初の印象と変わってきたのは友達として付き合いが長くなったからかな? それだと嬉しい。
「――で、ここはこういう意味。ルシエールのは石器時代が正解だね」
「ああ、そうかあ!」
「ありがとうラース君」
そんな感じで宿題を進めていくリューゼやルシエール。……妹離れしたのかなと警戒していると、俺の部屋の扉がガチャリと開く。
「ニーナかな?」
気が利くから飲み物でも持ってきてくれたのかと思い、そう呟くが、そこに立っていたのは――
「オラもみんなと勉強するー! サージュ、おいでー! ……くしゅん! くしゅん!」
「ノーラ!? ダメじゃないか寝てないと!」
パジャマ姿のノーラだった。俺達を見てにぱっと笑った後、とてとてと若干危なっかしい足取りで俺の頭の上にいるサージュを掴みにやってくる。
「みんなの声が聞こえるのに、寝てるのはつまらないのー……くしゅん!」
「ああ、くしゃみが出ているから寝てよう、ノーラちゃん?」
「オラも遊びたいー……」
勉強が目的ではなかったようだ。しかし、そこで当然の如く兄さんがやってくる。
「ノーラ! ちょっと目を離した隙にベッドから居なくなったと思ったらやっぱりここだったね!」
「あ! デダ……くしゅん!」
「ほら、部屋に帰るよ」
「んー!」
嫌がるノーラだが、ここで甘やかすのも良くない。俺達は総出でノーラをベッドへと戻す。兄さんと母さんが付き添い、みんなは先に俺の部屋に戻ってもらった。
「むー……」
「眠くなるお薬を飲ませたからすぐ寝るわ。さ、ラースも部屋に戻りなさい」
「うん。ノーラ、ゆっくり休んで治してからみんなで遊ぼう?」
「ラースの言う通りだよ」
「……わかったー……」
そう言った後寝息を立て始めるノーラ。俺達は安堵し、部屋を後にする。
……が、あのノーラのくしゃみは強力だったらしく――
「げほ……げほ……」
「ああ、ラース様も風邪を……聞けばお友達全員、風邪にかかったみたいですよ……デダイト様も熱が出ているようです」
ニーナがそう言ってタオルを交換してくれた。結局、リューゼの宿題は終わらず、俺達は学院が始まるまで寝込むことになったのだった……
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