第六十二話 スキルの授業


 「さ、今日も元気にスキルの成長だ。折角もらったもんだから使えるようにしておいて損はしねえ。それじゃ、やるか」

 「はーい」


 元気よく返事をした後、グラウンドに散る。スキルはみんな違うので自習みたいな感じなんだよね。

 特殊なスキルであるノーラは動物たちを集めて芸をやらせる。昔言っていた町の野良猫は友達、というのは伊達ではなくちょっと口笛を吹いたら十匹くらいはすぐにやってくる。


 「はーい、それじゃ君はこのわっかをくぐってみよー」

 「にゃーん」

 「はいはいー、ちゃんとできたら撫でてあげるからねー」

 「なーご♪」


 ……羨ましい。

 実を言うと俺は猫が好きだけど、ノーラの集めた猫には嫌われているようで、爪を立てられて以来近づいていない。

 ノーラの【動物愛護】は【鑑定】のように『視え』ないため習得はできないらしい。俺も猫の毛をつややかにして見たかったんだけどね。

 

 「ルシエール、どっちに何が入っている?」

 「えっと、くんくん……右手に翡翠、左手に石ころです」

 「正解だ! なら――」


 と、ルシエールは【ジュエルマスター】という特殊なスキルなので先生と一緒にトレーニングをすることが多い。ティグレ先生がルシエールのスキルを知って、学院長に打診して小さい宝石を取り寄せてもらったそうだ。

 他にも宝石に関するスキルで【ジュエルクラフト】という、宝石を自在にアクセサリーに変えたりできる人がいるらしいので無駄ではないんだとか。

 ちなみにルシエールが当てた翡翠はみごとな竜の頭を模した小さい置物だったりする。


 ヘレナはダンス……踊りを主とするけど基本的にずっと踊っているわけにもいかないのでストレッチの方が多いかな? 俺にはよくわからないけど、ステップを踏む、とかでもスキル向上に繋がるらしい。


 さて、俺は適当に魔法か走り込みかなと思っているとリューゼが近づいてきた。


 「ごくり……ヘレナの足すげぇな……。なあラース、魔法教えてくれよ。俺の魔法剣を鍛えるためには魔法がいるだろ? でもどうすりゃいいのかよくわからなくてさ」

 「それならベルナ先生がいいと思うよ? 俺の魔法は全部ベルナ先生から教わったものだし」

 「ああ、そっか! ちょっと呼んでくるぜ!」


 リューゼがマキナとクーデリカのスキル特訓をしている横でにこにこしながら見ているベルナ先生の下へ駆けだそうとしたとき、ジャックがそれを引き留めた。


 「はいはいはい!」

 「りゃりゃりゃりゃ!」

 「すごいすごいー♪ 受け止めるの上手ー」


 ……というかマキナとクーデリカのスキルって前衛系だから二人、すごいことになってるんだけど……まあそれはそれとしてジャックの話に耳を向ける。


 「待ってくれ、俺のスキルの手伝いもして欲しいんだ」

 「ジャックのスキルは【コラボレーション】だろ? 俺じゃなくてもいいんじゃね? この前みたいにマキナとヘレナをコラボすればいいだろ?」


 【金剛力】と【カイザーナックル】のコラボレーションは面白いんだけどね。どっちかにそれをコラボすれば、ものすごい力で相手を殴るという人間ができあがるのだ。

 ジャックが触れていないと効果が発揮しないので、ジャックはバックアップみたいな感じになる。でも能力が高くなったらもっと面白い効果がありそうなんだよね。カイザーナックルもただ拳のスピードと威力が増すだけとは思えないし。


 「もう飽きたよ! なんでウチのクラスは自己強化するスキルか、特殊なスキルしか持ってないんだよ!? ルシエールとウルカをコラボしたときなんてめちゃ怖かったし……」

 「まあ確かに……単純に魔法のコラボレーションとかどうなの? 俺のファイアと先生のウインドとか」

 

 火災旋風みたいになりそうでかっこいいと思う。合体魔法みたいなのは無いのでこれはジャックにしかできない。だけど、


 「……何か悲惨なことになりそうだから嫌だ。……でな、考えたんだよ。ラースの魔法をリューゼを通して使ったら魔法剣できるんじゃないかってな!」

 「おお! そりゃいいな! よし、ラース手伝ってくれ!」

 「結局俺なんだ……」


 俺は苦笑しながらジャックに手を預け、リューゼが剣を握り空いた手をやはりジャックへ預けていた。なんでもこの状態で魔法を使うとリューゼに行くらしいけど……俺からジャック、リューゼへ魔法を通すということになるし結構凄いスキルだと思う。


 「じゃあ軽く……<ファイア>」

 「お、それじゃあそいつを【コラボレーション】!」

 「おっ!」


 ボッ!


 直後、リューゼの剣先に炎が灯った!


 「おお! で、できた!」

 「へへ、なるほど……魔法を通すとこういう感覚になるのか、橋渡し的な――」

 「せい!」


 なにやらぶつぶつとメモを取るジャックに、先っぽ炎の剣で木から落ちてくる葉っぱを切り裂く。もうちょっと炎があればサマになっているかもしれないなあ。


 「これいいな! ラース、他の魔法も頼む!」

 「確かに面白いし、いいよ。ジャックー」

 「お、へいへい、貢献よろしく!」


 <ファイア><ウインド><アクア>といった初期魔法を剣に宿し、いわゆるカマイタチや水砲を剣から出し、たいそう喜ぶリューゼ。しかし、幾度か魔法剣を披露したところで俺は気づいてしまった。


 「……なあリューゼ」

 「なんだラース! ははは、かっこいいだろこれ!」

 「言いにくいんだけど、多分リューゼの魔法は上達していないよ……ジャックを介して俺の魔法が剣に宿っているだけだから」

 「は……?」

 「だってリューゼが魔法を使っていないんだから当然だろ?」


 一瞬考えていたけど、リューゼは賢い。すぐに気づき、すでに遠くへ逃げているジャックに怒声を浴びせていた。


 「てめぇ自分のスキルだけ上達させたな!?」

 「ラースの魔法も上達する手伝いはしてるってー!」

 「俺は何も上達しねぇじゃねぇか待ちやがれ!」


 グラウンドを走り回る二人を見て俺は笑う。

 そして木陰で【鑑定】の訓練と、【霊術】を使っているのか何もないところでぶつぶつ言っているウルカ。個性があって面白いなと改めて思う。ことが片付いた今、平和に暮らせそうだと顔がほころぶ。

 

 「……よし、俺も鍛えるかな!」

 

 とりあえずリューゼ達は放っておいて、魔法の訓練をするためベルナ先生のところへ向かう。リューゼも追いかけっこに飽きたらこっちに来るだろうし。近づくと休憩している三人の会話が聞こえてきた。


 「ベルナ先生魔法使いなんですよね?」

 「そうよぅ【魔力増幅】がスキルよー。攻撃魔法が得意かなあ」

 「いいなあ! せ、先生ってあの山に住んでいるんですよね。ノーラちゃんに聞いたけど、お父さんとかお母さんはいないんですか?」

 

 クーデリカが俺の聞きたかったことを聞いていた。父さんや母さんは『事情があるんだよきっと』と言って探らないように言っていたし、俺も忙しかったうえ、確かにわざわざ暴くようなことでもないと聞くことは無かったんだけど、子供の好奇心はあっさりとそれを成し遂げてしまう。


 「うーん、わたしはこの国の人じゃないんだよぅ。だからお父さんもお母さんもいない、かな?」

 「へー、別の国なんですね……家出、とかですか?」


 マキナが突っ込んで聞くけど、ベルナ先生は笑いながら返す。

 

 「あはは、そこはご想像にお任せするわね♪ 真似しちゃだめよ? あ、ラース君! 魔法の訓練?」

 「あ、うん。【器用貧乏】ってなんでもできるけど、今は魔法が一番良さそうだしね」

 「あ、あ、わ、わたしもやりますー!」

 「ダメよクー、スキルの授業なんだから」

 「えー」


 と、マキナが窘めて訓練を再開する。

 途中、リューゼがようやく飽きて、息を切らせながらベルナ先生に魔法を教わったりしていたのは面白かった。ジャックのスキルは付与の類なのかなどと思いつつ、今日はそんな感じで一日を楽しく過ごすことができた。

 

 このまま平穏な日々が続けばよかったんだけど、どうもそうはいかないみたいで――

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