第五十三話 運命の収穫祭④
「おっと、ちょうどいいところに出くわしたぜ」
「……みたいだな」
玄関を抜けると、ちょうどブラオと国王様、横に居るのは大臣か側近か……? そして王子と護衛が階段から降りてくるところだった。
「まあまあの経営手腕のようだな。精進するのだぞ? 去年行ったグラスコ領は税収が1.5倍はアップしていた、せめてそれくらいは上げてほしいものだ」
「は、はあ、努力いたします……」
国王様が顎髭に手を当てて厳しいことを言い、汗を拭くブラオ。そんな彼に大臣らしき男が口を出した。
「前領主に助けをもらっておらんのか? 彼は貧困だった層を平民に引き上げるほどの手腕を持っておったというのに」
「はあ……まあ……」
しどろもどろにしか返せないブラオに、リューゼはため息を吐いてからぼそりと言う。
「言われっぱなしだなんて父上らしくない……いや、あれが本当の姿なのかな……」
「言うな。前にも言ったけど立派な親じゃないことはあり得ないことじゃないんだ」
「だな。さてっと……! 父上!」
リューゼはブラオ達が降りきったところで声をかけた。
「む、リューゼか。どこへ行って……い、た……!?」
「友達を迎えに行っていました。国王様、聞き耳を立てていたご無礼お許しください。こちらのラースはお……私のクラスメイトでして、前領主の二番目の息子なのです。そういう縁から友人になったのですが、会食をご一緒させていただけないでしょうか?」
おっと、やるなリューゼ。貴族の息子らしい口調じゃないか。こいつ、俺の脅しにも屈しなかったし、国王様にきちんと言えるとは、ブラオより肝が据わっていると思う。母親がそうなのかな?
「ほう、ローエンの……リューゼ君とクラスメイトということはオルデンと同い年か」
「ですね、父上。僕はオルデン=バルトフィードだよ、よろしくね!」
「よろしくお願いします、王子」
俺達は深々と頭を下げると、オルデン王子は国王様に縋る。
「僕、王都の学院以外の子と話すの初めてだし、彼らにも一緒にいて欲しい!」
「ふむ、そうだな。子供の話し相手というのも必要か」
「お、お待ちください! 前領主の子ですが今は平民です、国王様とご一緒するなど……」
「何を言う、国王様がお決めになられることに異を唱えるというのか?」
「あ……いえ、そう言うわけでは……」
「はっは、いじめてやるな。私のことを思っての発言だ。しかし、オルデンもリューゼ君だけでは話が続くまい、ここは良いだろうか?」
国王様がやんわりと笑い、ブラオは冷や汗をかきながら承諾する。俺がここにいる意味、リューゼからは聞いていないみたいだけど、分かっているようだ。
そこへ――
「おや、ラース君。久しぶりだね、体の調子はどうかな?」
「おかげさまで毎日ぐっすり眠れていますよ。先生は?」
「……まあまあ、だね。僕も会食に呼ばれているんだ、また後で」
そう言ってレッツェルは食堂へ向かう。俺はブラオとリューゼに問う。
「お……私のウチで雇っているメイドのニーナも同席してもらっていいですか? 普段からお世話してもらっていて、食事に居ないと不安で……」
「(よく言うぜ!)」
「(うるさいな!?)」
「う、うむ。国王様?」
「良いぞ。そちらの娘もか?」
「こちらは私の魔法の先生です。もしよかったら、ですけど」
「良い良い、今日は無礼講だ。みなで楽しもうではないか、なあフリューゲル」
「はあ……護衛する身にもなってくださいよ……」
大臣らしき男、フリューゲルがため息を漏らし前を歩き、国王と騎士が続く。オルデンは俺達の近くに来て口を開く。
「ラース君だっけ? 美人なお姉さんを連れているんだね! 羨ましいなあ。ウチはばあやしかいないからね」
「王子様ってメイドさんがいっぱいいるイメージでしたよ」
「うん」
「ああ、敬語なんていいよ。僕、どうせ王様になるでしょ? 今のうちくらい同世代と普通に接したいんだよ」
「あ、そうなんだ。やっぱり苦労が?」
「リューゼならわかると思うけど、肩が凝るよねー。クラスでも腫物あつかいさ、嫌になるよ」
「俺は、割と普通だけど……」
「ホントに!? ウチにも領主の息子が居るけど、余所余所しいねみんな」
「へえ、面白いなあ」
「今度王都の学院に来てみて欲しいよ、僕こんな話し方していたら目が丸くなるんだもん」
よほどうれしいのか、捲し立てるように矢継ぎ早に言葉が出てくるオルデン王子。国王様も気さくそうだったから周りが委縮するタイプかもしれない。荷物検査は行われたけど、二重底にしているカバンの底にあったダガーには気づかれなかった。子供はこういう時便利だと思う。……それを逆手に取る極悪人がいるんだけど、さ。
そうこうしている内に食堂で会食が始まり、俺達は席に着く。
「ガスト領のさらなる繁栄を願って……乾杯!」
「「「乾杯!」」」
お酒やジュースが注がれると皆で口にする。わいわいとあちこちで話が始まり料理が運ばれてくるのを眺める。いつ例の話を始めるかと思っていたところで、レッツェルの口元がうっすら笑みを浮かべているのが見えた。背筋に寒いものが走り、俺は小声でリューゼに問う。
「……リューゼ、さっきレッツェルは後から出て来たよな? あいつが来た方向にはなにがある?」
「え? トイレと……厨房……!?」
「まずい……!? 【簡易鑑定】」
俺は咄嗟に自分の目の前にあるスープに目を細めると――
鑑定結果
名称:濃厚コーンスープ
状態:毒
「……!? <フィンガーファイア>!」
「ラース様!?」
パン! パパパパン!
「きゃあ!?」
「な、なんだ!?」
「なにした!」
料理の入った皿を全て俺の指先から出る圧縮した炎で割っていく。
どれもこれも毒毒毒……! お酒はその場で開封するから入っていなかったのが幸いなくらいだ。そんな阿鼻叫喚の中、ブラオが俺に向かって叫ぶ。
「き、貴様ぁ! やはりローエンの息子だな、会食を台無しにしおってからに!」
「そうじゃない! 料理には毒が入っている、ブラオあんたも死ぬところだったんだ!」
「ひぇ!? ど、どういうことだ!?」
「ラース君、いったい……?」
ブラオが尻もちをつき、騎士の後ろに隠れたオルデン王子が俺に向かって不安げな表情でいう。直後――
「く、くっくっく……まさかラース君に見破られるとは思いませんでしたねえ。もしそうなるとしても、国王様御一行の誰かだと思いましたが……」
「レッツェル……! 俺がここにいる理由、分かっているようだね、だから行動に出た。料理の毒は保険くらいなものだろう?」
「まあ、そうだね。毒が無いかどうかくらい確認するのは当然だろう?」
「……今、確認した。貴様の目的はなんだ? そう思っておきながら毒を入れる理由は……」
レッツェルの言葉に国王様達が冷や汗を流すのが見えた。確かにフリューゲルさんの言う通り。バレると分かっていて入れる必要はないはず。それに、今言い出さなければレッツェルが犯人だということは気づかれないはずだ。
「そろそろ茶番も飽きて来たし、ラース君の本懐を遂げてあげようかと思ったんだ」
「なんだと……?」
俺が訝し気に聞くと、
「現領主、ブラオは……前領主の息子が2歳の時に殺害しようとした犯人さ!」
「なぁ!? き、貴様ぁぁぁ!」
「なんだと!? ブラオ殿それは本当か!」
「ち、違う……わ、私は……!」
ブラオが椅子から転げ落ちると、さらにレッツェルが笑う。自分から告白するとはさすがの俺も驚いた。妨害はしてくるだろうと予想していたけど、追い込むなんて……!
「そのお手伝いをしたのはこの僕、レッツェルだ! どうだ、気が済んだかいラース君!」
「お前……一体何を考えているんだ!?」
「別に何も? もっと喜んで欲しいね、これでブラオは失脚だ! お礼は……そうだね、ここにいる全員の命でいいよ?」
ジャキン……!
指の間に何十本というメスを挟んだレッツェルが、本当に嬉しそうに、歯を見せてゆがんだ笑みを見せた――
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