第三十六話 熱い視線
――両親の過去を明らかにした俺。これで少し動きやすくなるかと、夕食後は部屋のベッドの上で思案していた。
何故かというと、元領主であると知ったからまずはニーナに話を聞ける。真相へ近づく手がかりをそれとなく尋ねられるようになった。
となると、町の人にも話を聞いて差し支えないので雑務依頼をするついでに父さんとブラオのことを聞いてみようと思う。ギルドマスターのハウゼンさんの話は貴重だった。
「ベルナ先生にも話しておかないとね。意見も聞いておいた方が良さそうだし」
兄さんはもう少し土台ができてから話そうと思う。まさか自分が殺されかけたなんて話をおいそれとするわけにはいかない。
「……次の休みまでは大人しくするしかないかな」
そう呟いて俺は目を閉じた。
何か会心の一手が欲しい……だけど焦るな、チャンスは多くない……ぐう……
◆ ◇ ◆
「あふ……」
「ラース、眠そうだね?
「夜更かししたのー?」
「いや、色々考えていたらなかなか眠れなくてさ。気づいたら寝てたみたいな感じ」
「あはは、ラース君らしいねー」
翌日、ノーラと合流してそんな話をしながらてくてくと歩いていく。現状ブラオがこちらにできることは嫌がらせぐらいなのでゆっくり考えるかと締めたところで意識を失っただけなんだけどね。
三人で歩いていると、分かれ道から見知った顔と出くわす。
「おっはよー! デダイト君にラース君、それと……」
「オラはノーラだよー! おはようございます」
「そうだっけ。おはよ。でも、奇遇ね。今日は遅く出たからかしら?」
そう言って俺の隣に立ち、腕を掴んでくるのは暴走姉のルシエラだった。べたべたとくっついてくるルシエラを引きはがしていると、ルシエールが頬を膨らませて姉につっかかる。
「お姉ちゃん! ラース君が困っているからダメだって!」
「なによ、これくらいいいじゃない。ねえ、デダイト君?」
「はは、僕の弟だからね。仲良くしてくれると嬉しいよ。ね、ノーラ」
「うんー!」
「そうよー、私ラースとは仲良しなんだから。デダイト君と別れた後にいっぱいおしゃべりしたんだもの」
「嘘をつくんじゃない。ギルドについて行こうとしたくせに」
「そうだっけー?」
そう言って上目遣いで舌を出すルシエラ。口は笑っているけど、目は笑っていない? 俺がそう逡巡しているとルシエールが姉を引っ張り始める。
「お姉ちゃん!」
「わかったわよ。学院についたし、離れるわよ。そんなに嫌ならあんたが手を繋いで歩けばいいじゃない」
「そ、それは……」
顔を赤くして頬に手をやるルシエールが焦りながら言うと、ルシエラが笑いながら前へ出る。
「ふふん、分かりやすい子ね! さ、デダイト君、私たちはこっちでしょ」
「うん。さすがに分かってるよ。それじゃ、ノーラ、またお昼にね」
「頑張ってねー」
「……」
そう言って手を振るノーラがぽわっとオーラを出しながらふたりを見送る。何だろう、なにか違和感を感じるんだけど気のせいだろうか……?
そう思いながらも心当たりはなく、俺達もクラスへと向かう。そしてそこでも違和感を覚えるのだった。
「おはよー♪」
「お、おはようー!」
「おはようーヘレンちゃん、クーデリカちゃんー」
「おはよう。元気だなヘレンは」
「朝から両手に花のラース君には言われたくないわねえ」
「……そういうんじゃない」
「お姉ちゃんに鼻の下伸ばしてたもんね!」
「してないだろ!?」
と、クラスに入ってすぐにヘレンとクーデリカと挨拶を交わす。まだ二日目で、挨拶をして様子見しているなという感がお互いにあるので、仲良くなるためにはもっと話さなければと思う。
着席してルシエールとさっきの話を続けていると、
「おはよう、ヨグス君、それにリューゼ君も」
「おはよう、マキナさん。……体操着で来たのかい?」
「ランニングにちょうどいいの」
と、脳筋少女が顔を赤くしてそう言った後、リューゼがそっぽを向いたままマキナに返事を返した。
「おう……お、おはよう……きょ、今日は負けねえからな」
「ふふ、聖騎士部に入部した私に勝てるかしら?」
「マジで入ったのか……おはようさん」
「ああ、ジャックか、おはよう」
……!?
リューゼが挨拶を返した……? あいつ、昨日は挨拶もしないで席についていなかったか、確か? そう思い俺は驚いていた。すると、ウルカがおそるおそるリューゼに声をかけた。
「リュ、リューゼ君、昨日先生に呼ばれてなかった? なんだったの?」
「……別になんでもねえよ。なんかウチに来たいって言うから連れてった」
「へえ、なんだったんだ?」
「たいしたことじゃねぇよ」
「……?」
そう言ってリューゼは俺の方をチラリと見てきた。先ほどからみんなと話しながら俺の方をチラチラと見ているのは気づいていたので、そろそろいいかと目を合わせてみるが、慌ててそっぽを向いた。
ふむ、友達にならない宣言が効いたかな? これで関わって来なければ平和だなと、俺は教科書をカバンから出しつつ少し頬を緩めた。
だが、その予想は斜め上の方向で裏切られることになった……
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